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少女は白本を抱いて世界を渡る  作者: 柚森 信
二章:覚醒
22/44

022

途中で切れないので今回も結構増量。

戦闘描写有りです。

流血描写はないですが、荒事苦手な方は斜め読みでお願いします。

 


 模擬戦という単語で妙に盛り上がったメリアとアイルだったが、


「父さんはホント、こういうものに付き合いが悪いよなあ」


 アイルの指摘通り、屋外の転移法陣を経由して屋外実験場と呼ばれるスペースへ移動してもトールは未だに態度を決めかねた曖昧な笑みのままだ。

 ちなみにこの屋外実験場とは、メリアの法術実験のため人里遠く離れた場所へ用意された土地で、敷地内の各所へトール謹製結界具が埋め込まれている。ここならたった一撃で街一つが破壊されるような大規模法術でも問題ないとはメリアの発言であるが、それだけの規模の法術を易々とぶっ放す方が問題ではないだろうか、と以前からミアは考えている。


「模擬戦は、どうしても必要かな?」


「書字法術がどこまで汎用性が高いかというのを、ミアに見せてあげればいいじゃない。あれだけじゃ、印象はちょっと地味に思えるんじゃないかしら」


「……私、そんな風に見えました?」


 そこまで判りやすかっただろうか、とビクビクしながら尋ねるがそういうことではないらしい。


「だって、初めて私が見せてあげたアレコレよりずっと地味でしょ?」


「それは否定しません」


 あっ、即答に近かった!

 反射的に口を覆うと、堪えきれない様子でトールがクツクツ笑い始めた。

 ううっ、すみません……。


「やれやれ……。それじゃあ、少しは書字法術の可能性というものを見せないと駄目かもしれないね」


 上目遣いでトールの様子を窺うが、それほど気分を害した様子ではなくミアは胸を撫で下ろす。

 逆にぼやきに近い呟きが漏れたのはアイルからだった。


「可能性ねえ……。アレを可能性呼ばわりされちゃ、こっちの立つ瀬がないってもんだけどなあ」


「まったくよね」


 メリアまでアイルに同意するとは珍しい。

 嘆かわしげに首を振るメリアを見つめると渋面で大事な夫を軽く睨んでいる。これほど本気なのは、ますます珍しい。


「……もしかして、父様って強いの?」


「うちで一番強いのは父さんだよ」


「言ったでしょう? わたしが本気で殺しにかかってたって」


 そういえば、そんな話もあった。そうして考えてみると、それだけ本気のメリアから逃げ切ったかあるいは上手くあしらっていたかのどちらかということで……。


「父様も一般法術を使うの?」


「使わないこともないが、主に書字法術だね」


 苦笑を滲ませた穏やかな声音は、アイルとメリアの発言を否定するでもない。二人の言い分が正しいということを、直接的にではないが認めているということか。

 書字法術で?

 えっ、あれでどうやって戦うの?!

 目を丸くするばかりのミアは、ただただ父を見つめているばかりだ。


「まあ、論より証拠だよなあ。ひとまず俺と母さんでやって、最後に父さんと二対一かな」


「それがいいかもしれないわね。一般的な剣士と法術師のやりとりを見せた後がいいでしょ」


「……順番はともかく、二対一かい?」


「異論は認めないからな」


「そうね、認めないわ」


 断固とした二人の態度に「敵わないな……」苦笑しきりで肩を竦めたトールは、ミアを手元へ呼び寄せる。


「まずは二人からということだから、ミアとここで見ているよ」


 ミアを抱き上げ敷地の端へ下がるトールに頷き、二人は逆に敷地の中央へと移動していく。


「ミアにカッコいいところを見せないとねえ。そろそろ兄の威厳が危ないような気がするし」


「あら、そんなものがあなたにあったかしら」


「……もしかしたら、ミアって母さんの影響受けてる?」


「自分の胸に手を当てて考えなさい」


 笑顔なのに、やりとりする声が少しずつ低くなってるのは……うん、気のせいじゃないね!!

 圧力が半端ないです、二人とも! なにこれ怖い。


「怖がらなくても、あれで普通だよ」


「いえ、それもっと怖いです」


「大丈夫。二人とも加減は心得ているし、ミアに怪我をさせるつもりはさらさらないから」


 怖がってるのは、怪我するかどうかではなくて……いや止めよう。笑顔の父様に通じる気がしない。

 それよりも、一般的な剣士と法術師?

 どんなレベルが一般的なのか、そこから突っ込むべきだっただろうか。

 どう考えてもメリアが一般とは思えないし、それに平気で対峙できるアイルも一般の枠から外れているのではないかと今思ったのだが……


「俺が家を出た頃と同じように考えないで欲しいなあ」


「そのくらいの成長すらないなら、わたしたちの息子とは認められないわね」


 周囲の温度が低下し続けるそんなやり取りを最後に、二人はきっちりと距離を置いて向き合った。

 その一瞬で空気が変わる。


 まず仕掛けたのは、順当にメリアからだった。

 剣士と法術師の戦いでは、遠距離から法術師が仕掛けるのがセオリーとなる。このあたりはミアの知識と変わりない。ただ、その威力は想像を超えていた。


 メリアはほとんど詠唱らしい詠唱もなく左手を一振りすると、それと同時に立ち位置から飛び出す。

 左手の動きだけで生み出されたのは、メリア得意の火炎術だ。人一人くらい軽く飲み込みそうな――しかも白い火球が凄まじい速さでアイルへ襲い掛かる。通過するだけで空気を焦がす火球は、それを見据えるアイルからの、魔力と気合いの乗った剣の一閃で吹き飛ばされた。


「はあっ!!」


 ――ド……ッン!!


 振り抜いた剣圧と高温の火球が衝突して、凄まじい衝撃波を周囲に撒き散らした。

 思わず両耳を塞いだミアの目の前で、初手を互いに打ち消しあった二人がまともに突っ込んでいく。かと思えば、アイルが勢いを殺すことなく不意に軌道を変える。

 メリアの左手へ回り込もうとしたアイルの動きは読まれていたらしい。


「甘いっ」


「どっちが!」


 予備動作なしで右手に溜めていた魔力を展開し魔力盾シールドを形成するメリアと、それを承知で仕掛けたアイルが剣を打ち込む。


「――?!」


 何かに気付いたように軽く眉を寄せたメリアが右腕を僅かに下げ、平行して左手に陣を展開しアイルの足元へ叩き付けた。それを合図に二人が同時に飛び退る。

 爆音と土煙が立ち上るも、明確な意思を持った風がそれを掃う。その場には小さなクレーターが口を開けていた。いや、間口は広くないがクレーターと呼ぶにはかなり深い。

 ちなみに、これらは全てトールの解説で把握できている状況だ。ミアの目で追いついて理解できるわけがない。


「あれまともに食らったら、手足の一本や二本もっていかれるじゃないか」


「回避できてるんだからいいじゃない。それより、わたしの魔力盾シールドを斬るなんて成長も嘘ではないということね」


 二人とも揃ってとんでもない渋面だが、ミアからもこれで模擬戦を主張するつもりだろうかという疑問を提示したい。

 再び間合いを取り、互いの出方を見ようと視線が交錯したのも一瞬だ。

 今度はアイルから仕掛けた。

 鋭い踏み込みから一気に間合いを詰める。詠唱が必要な法術師では決して法術発動に間に合わない速度だろうが、メリアの超短縮詠唱、あるいは無詠唱には関係ない。

 が、右手に軽く提げたままの剣は、不思議なことにアイルの左から弧を描いてメリアへ襲い掛かった。


「……っ!」


 小さく目を瞠ったメリアは、時間差を付けながら自身を取り囲むように小型の結界を次々と生み出した。それらが全て、ガラスの割れるような音を伴い端から破壊されていく。

 慣性の法則など無視する様相で、猛烈な速度で剣を返しては軌道すら読めない撃ちこみを続けるアイルが、軸足とは反対の踵を心持ち後方へと引いた。よほどの熟練でなければそうと気付かないほど僅かな動きだが、それを見逃すメリアではない。


「もらうわ!」


「どうかなっと」


「――『三点強襲トライアサルト』!!」


 メリアの超短縮詠唱により場の魔力が恐ろしい密度で一気に収束する。詠唱の宣言通り、メリアを軸に三つのポイントへ法陣が同時出現した。ひとつひとつが桁違いの破壊力を秘めた法陣であることは嫌でも感知できる。それぞれ別の属性を持って展開する陣は、狙い澄ましたように次々とアイルへ向かい力を解き放っていく。

 避けようのない距離で、火が。水が。風が。


「水も込みかよ!」


「当たり前でしょ!」


 水の属性反発を体質に持つアイルが舌打ちする。どちらにしてもまともに受けてはただで済むはずがない。飛び退りながら火の陣は剣で迎え撃ち、水の陣は隠し持っていた短剣をいくつも浴びせかけるようにして打ち落とす。短剣はそれぞれアイルの魔力が大量に込められていたため、属性反発から相互に反応を起こし連鎖的に短剣が爆発していく。

 しかし腕は二本。火の陣を迎撃した剣を返す時間はなく、残りをどうするのか息を呑む目の前でアイルはむしろ風の陣へと突っ込んだ。短剣の破片を含む爆風すら纏いながらのその行動にメリアは最初訝しげな顔色を見せるものの、すぐに目を見開きその場から逃れようとする。


「付き合ってもらう!」


「小賢しいわね!」


 返す暇のない剣を握り、声にならない気合いを乗せた剣士がそこへ身を躍らせた瞬間、風の陣は燃料を得たように一気に面積を広げた。それもつかの間、法陣は爆発的に拡散し別の形に姿を変える。陣を抜けるという無茶をしたアイルも無事ではないが、地に降りても一瞬の隙も見せることはない。それもそのはず、拡散した法陣は間を置くことなく二人を共に巻き込んで暴発したからだ。


 ――ドォォォ……ン!!!


 逃げそびれたメリアは当然、アイルもそれに巻き込まれる。敷地の端にいた二人にも等しく暴風が叩き付けるものの、こちらはトールが既に呼び出していた結界法陣で被害は免れた。

 とっさの結界を張ったメリアだが至近距離での高密度余波に晒されて、些か消耗を見せている。アイルは陣の通り抜けと爆風でメリアよりも被害が大きいかと思われたが、予想していたほどではない。

 というのも――


「……数秒とはいえ、法陣の乗っ取りなんてやるわね」


「強属性をいいことに、風の親和性だけはとことん鍛えたからねえ」


 爆風にまぎれた剣の切っ先が薄くなった結界を裂いてメリアの喉元へ、気配を察知したメリアの圧縮された魔力がアイルの脇腹へそれぞれピタリと押し付けられていたからだ。

 しばらく、息も詰まるほどの緊張が続き……ふと空気が弛緩した。苦笑を交わしながら互いに手を引き、溜め息を漏らす。


「これは、相打ちってことでいいのかなあ」


「まあ今回はそれでもいいでしょ。次が控えているわけだし」


「じゃあそういうことで」


「……ホントにもう、無茶するんだから」


「母さんレベル相手にするなら、多少の無茶くらい必要だと思うよ」


「生意気言っちゃってもう。さて次はトール――」


 あちこちへ相応の負傷を負いながらもしてやったりと言わんばかりの息子に対して、引き分けになるとは思っていなかったメリアは少々気分を害しているらしい。それでも、成長の跡を目の当たりにしたことについては、まんざらではない様子でもある。

 そのまま次へ移ろうとした二人は、


「――母様、兄様!!」


「やば……」


「……ねえ、やりすぎた?」


「いやどうだろう」


 血相を変えたミアが転がる勢いで駆け寄るのを目にするなり、しまったと言わんばかりに顔色を変えた。手短に小声でやり取りを終え、素早く笑顔に切り替える。


「二人ともやりすぎじゃないですか?! それに兄様、手も足も肩も沢山怪我してるじゃない!!」


「あー、大したことないよ?」


「どこが?!」


「ええと、すぐ治すから大丈夫よミア。ほら、早くこれ飲んで」


 メリアから手渡された小瓶をアイルは中身も見ずに飲み干すが、その直後になんともいえない顔で空にしたばかりの瓶を凝視した。


「母さん、これ何」


「効果はあるでしょ?」


「そこは否定しないけど……」


 後で絶対口直しをもらうよ。

 アイルがぼやくほどのそれがどんな味だったのかはわからないが、ミアの目の前できれいに傷は治っていく。メリアが言ったように効果だけは十分にあったようだ。

 ぐいぐいと手繰るように服を引っ張り自分の高さまで腰を屈ませたアイルの全身を、無事を確かめるようにミアが軽く叩いていく。袖口や肩の破れから見える箇所も全て治癒されていることを目視して気が済んだか、ミアはそこでようやく肩を力を抜いた。


「びっくりしたんだからね!」


「模擬戦だから、お互いに殺すつもりはなかったよ?」


「当たり前でしょ?!」


 きつく睨み上げられ、うわっと首を竦めたアイルだったが、どこか嬉しげなのは心配してもらえたことを実感しているからだろうか。そんな顔をするものだから、またミアに睨まれることになるのだが。


「それで、二人ともまだ続けるつもりかい?」


「続けるっていうか、次を始めようかと思ってるわ」


「次というのは、もしかして私と? やはりやるつもりなのか……」


 ミアの後ろからゆっくり近付いていたトールは、まだまだやる気な二人を眺めて短く息を吐く。二人の身体を労わっているのも嘘ではない。しかし、ミアを気にかけているのが一番の理由だ。二人の模擬戦だけですらこれだけ気を揉んでいるのだから。

 もうひとつは……自身の参戦を忌避したがっている気配がどうにも否めない。その態度が二人を煽っているということも、多少自覚はあるようだ。


「……ミアを心配させるのはどうかと思うのだけれど」


「そんなこと言って手抜きしてたら、互いに様子見ばかりで手詰まり起こすじゃないか」


「だから、止めるという道も」


「「それはない」」


 二人から同時に拒絶され、トールはどうしようもないとばかりに両手を挙げる。

 ミアは黙って三人の顔を交互に見上げるしかない。


「……わかった。では、少しでもミアの目標になるような方法をとるとしよう」


「ミアはどうしようねえ? 端っこで三人がそれぞれ結界重ねて張っておく?」


「トールの傍にいればいいんじゃないかしら」


「あー、それは確かになあ」


「私が突破されたら危ないだろう?」


「そんなこと起きるとでも?」


「忌々しいけど同意見だよ、父さん」


「……突破できないことが前提でも、まだやるつもりかい?」


「「もちろん」」


「……やれやれ」


 いまひとつ状況を把握できないミアを置きざりにして話がどんどん進んでいく。二人同時にやる気満々の意思表示を示されこれ以上の説得は無理だと判断したか、トールはこめかみを軽く押さえてミアを抱き上げた。


「父様?」


「ミア。その……少し怖いかもしれないけれど、私のそばから離れないようにしなさい。いいね」


「ええと、はい、わかりました?」


「うん。……こういう時は二人ともよく気が合うのだよね」


 トールが本気でぼやくとは珍しい。

 間合いを取る二人に背を向け、こちらも少し敷地中央から距離をとる。

 これで十分と思えた頃、ミアを下ろしたトールは懐から新しく魔法紙を一枚取り出した。


「――『展開アンフォールド』」


 詠唱一つで、手の中の魔法紙があっという間に嵩を増す。


「父様、それも書字法術?」


「そうだよ。いいかい、これから私が使うのは全て基本が書字法術だ。一般法術の知識は上乗せしてはいるけれどね」


 首を傾げたミアに微笑みかけ、傍へと引き寄せる。すぐさま魔法紙を一枚束から抜き足元へ落とした。


「さて、そろそろ来るかな……。『召喚サモン』!」


 詠唱と共に、舞い降りた魔法紙が白光を放つ。

 トールとミアの二人を強固な結界が包むのと、火球と暴風がこちらへ襲い掛かるのとが同時だった。組み合わせは凶悪。火災旋風と化したそれが結界周囲に吹き荒れた。

 爆音も荒れ狂う猛火も結界の中にまるで影響はないが、視覚的なものはまるで遮られていない。全てを嘗め尽くす勢いの炎と、酷く焼け焦げ、あるいは余波で抉られる周囲の大地がその破壊力をまざまざと見せ付けている。


(ええぇぇぇ……?! こ、こんな全力攻撃、ありなの?!)


 あまりの本気具合に絶句するミアは、結界越しとはいえ凄まじい攻撃力を目の当たりにして若干血の気が失せている。と同時に、これだけの破壊力を持つ攻撃を易々と凌いでみせたトールの結界についても、頼もしくも恐ろしいと感じる。

 無意識にぎゅっとトールの服を掴むミアを安心させるように、空いた手が黒髪をゆっくり撫でていた。


「私が信頼されているのは確かとはいえ、これはあまり長時間ミアに見せられるものではない……かな」


 困ったように小さく笑いミアを見下ろすと、トールは魔法紙を持っていた腕を一振りする。握られていた大量の魔法紙が、風に煽られた風情でふわりと宙に舞う。が、結界内に風など吹いていない。全てトールの魔力に操られるままだ。


「爆風と炎で視界を妨げ、陣の構築で魔力反応を分散させたか。それでも、本人の魔力は隠しきれていない、な」


 目を細めて魔力密度の高いポイントを予測し、トールは目前をひらりと舞った魔法紙を小さく弾いた。


「行け。――『召喚サモン』」


 詠唱はたった一言。だが、反応した魔法紙は周囲を舞うほとんど全てだった。

 一瞬にしてそれら全てに無数の法陣が浮かび――連鎖反応を起こすかのように次々と結界の中から姿を消していく。僅かに残ったうちの一枚を再び弾き別の法陣を呼び出せば、その場にすぐさま球体が浮かんだ。ミアからは確認できない高さだが、水晶のようなそれは外部を映しているようだ。視界を妨げられたための措置だとミアが理解できたのは後になってからで、今は結界の外から漏れ聞こえるとんでもない音の数々に意識が釘付けである。


 それは例えば、何かが爆発する音だったり岩が砕けるような音だったり、何かが圧し折れる音や酷く圧縮された何かが弾けるような音もする。

 もしかして……母と兄の悲鳴や悪態も混じっていないだろうか。

 それよりこの結界、さっきの爆発音もほとんど抑えたくらいだったのに、ここまで色々聞こえるというのは……

 色々な意味で想像を越える酷い状況が展開されているようで、しかしそれを直視するのも怖くて、ミアはとりあえず傍にいる父へ視線を向ける。どこか助けを求めるような視線になったのは致し方ないことだろう。


「父様……今の、は?」


「呼び出したのは転移用の法陣をいくつか。あとは攻撃用の法陣と、外の炎を消すための法陣だね。それを、連鎖的に反応するように繋いでポイントを定めてそこへ展開してみた。……おかしいな、それほど強い法陣は呼んでいないはずだ」


 良い勝負になるかと思ったのだが……。

 相変わらず戸惑う風情で呟いたトールだったが、事態は彼の思惑通り、とはいかなかったようである。

 やがて炎が弱まり風が土煙をかき消すと、そこには埃だらけで座り込んだメリアと力尽きたように地面へ転がったアイルの姿があった。

 酷い怪我はしていないようだが、まだ数え切れないほど宙に浮かんだままの法陣を見てやる気を失っているようだ。


『規模じゃなくて数の問題よ!! トールのバカっ!』


『父さん、しばらく現場離れてるうちに感覚麻痺してるだろ?!』


 結界越しに聞こえる声は非難というより愚痴に近いものだったが、叫びにも似た響きが周囲に響き渡っている。破壊音の大半を防いだ結界すら越えてくるほどの大声だ。どのくらいの絶叫度かは察して余りある。


「だから、止めないかと言ったのだけれど」


「……父様、もっと手加減というものを」


「使ったのは『召喚サモン』だから、手加減もしたつもりだったのだが」


「えっ」


「本来の私の攻撃用詠唱は、これとは別なのだよ。……とりあえず、二人の手当てから始めようか」


「……それより、後でご機嫌とりにお菓子作ったほうがいいと思います……」


「それは名案だ」


 少々疲れた声で乾いた笑いを上げたトールは半ば呆然としたままのミアを抱き上げると結界を解除し、些か顔色を窺う様相で対戦した二人のもとへと歩み寄って行った。

 ――その後、トールが二人のリクエストで満足するまでクレープを焼き続けるという苦行に甘んじたのはいうまでもない。


 

戦闘描写、得意ではないんですがどうしても必要で…

これは無理だろという部分があったらごめんなさい、と先に謝罪を。


父様は能力的には作品内で一番のチートです。

あまり出張ることはないと思いますが。

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