七
「で、では、こちらへ」
「……はい」
店長の合図に含むものを感じ、私は、立つ拍子に持ち物を一つ忘れることにした。
席を立つと、自分一人で通って来た道を店の重役に案内される気分は妙な気分だ。
「どうぞ」
岩田が扉を開けて私の後ろに回り込んだ瞬間、突然背後で人の気配がした。真後ろに岩田一人がいた中、個室でのプレイ後、客を先に帰らせ、個室を軽く清掃し、引き上げる際に時折感じる悪寒が走る。
(誰だろう?)
先程最後の挨拶をした岩田か幽霊――誰かが面白半分に――霊感無き私には、誰かどころか幽霊か人の判別すらも見当がつかない。
時計の針は進んだ。仮に事件が解決したところで何の意味もない。全ては手遅れだ。後戻りはできない。事件は迷宮入りだ。いや、事件そのものを知る者が最後にはいなくなるのだから、事件そのものの抹消とでも言うべきか。
(アンタの勝ちだよ。推理合戦などくれてやる)
誰だか分からない相手に敗北宣言を行う。次の二人が気付き、犯人特定を引き継いでくれる事を祈るのみだ。
「どうしました?」
すぐさっき隣りで先導の名乗りを買って出た岩田の声が急に別人のように聞こえた。
「い、いえ……」
冴は店を振り返らずに事務室を出た。待機所に駆け込もうとするが足が震えて動かない。
後ろで扉が軋む音を立てて閉まった音を確認した冴は、足早に事務室を後にした。目前に見える待機所の光が眩しかった。
待機所に戻った冴は、さっき出た従業員用通路への出入口を眺めながら店長が動いてくれることを祈った。
(上手く機能してくれていればいいのだが……)
――待機所の監視カメラ映像から犯人の特定自体は、とうの前に済んでいた。直接のカメラ手配は、あいつの賜物だが、最終的な利用者名義は私だ。後は、せめてものよしみで、動機や経緯を本人の口から割らせるだけだった。紛れもない功労者相手に、出来れば穏便に済ませたかった。
握り潰す穏便か。警察に通報か。話はそれからだ。




