二
個室で客を相手に戯れをして待機所に戻って来た冴が、既に待機所に戻って来た頬月を見て皮肉った。頬月は下腹部にスマホ沈め、その埋めたスマホから接続されたイヤホンを耳に当て、自慰に耽っていた。
「……待機所内で見上げた根性だな」
「……」
性欲旺盛で、欲情を宥める、鎮める為に働いている物好き者も、中にはいる。しかし待機所で目もくれず耽る者は珍しい。いくら職業としている者達の集いとはいえ、あくまで公共の共有空間だ。
「……」
「ほぅ。どんなオカズだ? 聴かせろよ」
「え?」
頬月の表情が一変する。察した冴は、スマホが下腹部から飛び出すのも構わず、イヤホンを引き寄せる。
冴が耳に押し当てた途端、冴はハッとする。
「おい、お前」
「……」
それは画鋲を踏んでいた時と引き抜く時に出した繭美の悲鳴だった。プレーヤーの設定か、繭美の悲鳴がエンドレスで流れている。
「自分が何をしているのか分かっているのか?」
「……はい」
「ではなんだ?」
「……自慰と……自傷――破壊――です」
「だって……知っているでしょう? 私の性癖」
「ああ、元々同性愛…いや、バイセクシャルだそうだな」
「最高なんですよ。せめてその最高の置き土産で」
「辞めてこそか」
必死に私情を殺し、事実を問い詰める。
「……はい。本人には申し訳ないですが。もう隠す必要もなくなりましたし」
「上手い事タイミングが合ったモンだな」
「……毎日録音していたんです」
それだけで最低でも盗聴だ。
「……証拠は、あるという事だよな」
「……はい」
冴は自分のロッカーに向けて走った。
戻って来た冴の手には手錠を持っている。SM嬢として名を馳せた冴ならではの備品だ。
「……」
「お守り代わりに持っていたつもりだったが……まさか本気で使う機会に恵まれるとは思わなかったぞ」
裏切者の同僚を仕留めるのは不本意な様子を見せ、決して本意ではない内訳を頬月に向け吐き捨てる。
「最高なのは悲鳴よりも繭美そのものか」
「……はい」
「だったら、コソコソオカズにするより繭美に求めればよかったのではないか?」
「疲れてグッタリしている中を、性行為を前提として迫る訳にはいきませんよ」
「で、一人オカズにしていたと」
「はい」
「おい。手、出せ」
「……はい」
頬月が差し出した両腕に冴が手錠をかけた。
「悪く思うなよ。せめて状況を正したいだけだ」
「……はい。唯一つ」
「何だ?」
「画鋲を仕向けたのは私ではありません。私はその音をいつも通り繭美の声をオカズに拾っただけで、それとこれとは別問題です」
「本当だな?」
「はい」
数分の間、沈黙が場を支配した。
「……そうか。ならば犯人は――」




