第五話 朝からカラスにバカにされて悔しい
俺は納品倉庫から出るとギルドに向かった。
ちなみにウリ坊はリアカーの上でおねむ中である。
扉をくぐって淀みなく中央ホールの掲示板に向かった。
今日、集めてきた素材の依頼書を手早く取っていく。
何故か周囲からの視線を感じるが気にしない。
十枚ほど依頼書を手に取った時、ある依頼を見て思わず笑みがこぼれた。
俺はそれを引ったくるように剥ぎ取って、再び納品倉庫に向かう。
まずは今日集めてきた収集品の精算をしないといけない。
倉庫の横にある納品受付にリアカーを寄せると、納品担当者に声をかけた。
「こんばんは。まだ受付してもらえますか?」
「おう、大丈夫だ……ってアッシュじゃねえか。お前が一人で出来る事なんてないだろ」
この納品担当者の顔はアッシュの記憶で知っている。
何やかんやで親切にしてくれたおっさんだ。
「俺だって日々成長してるんですよ。とりあえず、この依頼分を持ってきてます」
リアカーを納品所に寄せて十枚ほどある依頼書を渡した。
おっさんは怪訝な顔になっていった。
「アッシュはそんな流暢に喋れねえ。それに文字が読めねえはずだ。お前さん、何者なんだ?」
「嫌だなあ、アッシュですよ。それとも灰被りとでも名乗りましょうか?」
それを聞いたおっさんは頭を掻いた。
「……灰被りねえ。どうやらアッシュに間違いねえみたいだが……納得できねえな」
「そんな事言われても、俺は俺ですからね。あ、これギルドカードです」
俺はギルドカードを手渡した。
「…………間違いなく本物だ。分かった、精算するから荷物をここに並べろ」
そう言われて俺は荷物を並べ始めた。
おっさんは依頼書を見つつ品物を確認していく。
全て確認が終わると銀貨の小山とギルドカードが返ってきた。
「お前が持ってきた依頼書の内容は全て完了だ。報酬は全部で銀貨10枚。そしてギルドポイントがちょうど10ポイント。Dランクにランクアップだ。七年越しの達成だ、おめでとうアッシュ」
おっさんは肩を叩いて喜んでくれた。
どういう訳か、俺の目から涙がこぼれていた。
(……良かったな、俺)
☆
夜の十時近くになって宿屋に到着した。
ここはアッシュが冒険者になってから使い続けている場所だ。
受付にウリ坊とリヤカーを相談すると、有料で預かってくれるという事だった。
因みに代金は銅貨5枚。
日本円で換算すると500円といった具合だ。
入り口をくぐると女将さんが声をかけてくれる。
「おう、アッシュおかえり。二日も戻ってこなくて死んじまったかと思ったよ」
「心配をおかけしてすみませんでした」
俺はペコリと頭を下げた。
女将さんは怪訝な表情になっていく。
「あんた、言葉遣いはどうしたのさ?」
孤児院育ちのアッシュは敬語なんて使える訳がない。
俺はと言えば、アッシュの言葉遣いを真似る気もない。
「元から俺はこんな感じでしたよ」
「…………そうかい。まあいいわ、夜食はまだだろ?」
カラッとした女将さんの気性に心の中で感謝した。
「お願いします。もう腹が減って死にそうです。あ、良かったらコレ使って下さい」
俺はワイルドボアの肉を差し出した。
女将さんは受け取るとニヤリと笑う。
「じゃあ、カウンターで掛けて待ってな」
俺は言われたようにして待つことにした。
「お待ちどうさま!」
しばらくしてカウンター席に料理が並んだ。
出てきたのは豚の醤油焼きと白いご飯だった。
醤油の焦げた香ばしい香りが食欲をそそる。
俺は並べられた箸を掴むと勢いよくかぶりついた。
口の中で濃厚な肉汁が溢れ出す。
「やっぱ女将さんの料理は最高ですね!」
「……七年間で初めて聞いたよ」
「俺、シャイなんで!」
女将さんは奥に引っ込んだ。
俺は気にせず豚肉を頬張り続ける。
しばらくして皿の横にジョッキが置かれた。
「……もらった肉のお礼だよ」
女将はイイ笑顔をしていた。
「ゴチです!」
俺はジョッキを傾けて喉に流し込む。
甘みと苦味がバランス良く混ざり合った逸品だった。
☆
食事を済ませて借りている部屋に戻ってきた。
粗雑な造りの内装だが、寝泊まりだけを考えれば必要充分の部屋だと言える。
テーブルに荷物を置いて服を脱ぐ。
ベッドに座ると木製のフレームが悲鳴を上げた。
これならリアカーの荷台とそんなに変わらない気がする。
俺はギルドに貼っていた依頼書を確認する。
それは討伐クエストの依頼だった。
『明日の正午より南の廃城を根城にしている盗賊団の討伐を行う。Dランク以上の冒険者の参加を望む。報酬は盗賊一人の討伐につき、銀貨一枚とする。参加上限は5名。集合場所は王都南門。なお怪我や死亡時の補償は無いものとする。責任者 セシリア・ノートレイン』
何というタイミング。
何という僥倖。
今日のランクアップがなければ参加できなかったクエスト。
討伐クエストはランダムに発生するクエストだ。
いわゆるゲリラクエストとも呼ばれていて、報酬が旨いのが特徴になっている。
パラパラは金策も大変だったので、俺は討伐クエストの内容はほぼ把握している。
セシリア様にも会えて金策もできてしまう、一石二鳥のクエストだと言えた。
俺は明かりを消して目を閉じた。
明日は何があっても参加しなければならない。
因みに明かりは魔道具になっていて、リモコンで操作ができる優れものである。
☆
早朝、カラスにアホーアホーと言われて目が覚めた。
別にカラスからバカにされて気にするほど俺は心が狭くない。
とりあえず窓を明けて全力で石を投げてやった。
服を着て一階に降りると女将が慌ただしく働いていた。
「おはようございます」
「おう、アッシュかい。おはようさん! 今日も早いねえ」
アッシュは毎朝、この時間に起きて鍛錬をしていた。
どうやらカラスに起こされた訳ではなく、生活習慣だったらしい。
「人間、元気があれば何でもできますからね!」
俺はそう言って宿屋を出た。
(まずはランニングだな!)
俺は閑散とした道を走り出した。
街中は人の気配はほとんどなく、朝の新鮮な空気が周囲に満ちていた。
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