第六話 お泊りはテンションが上がる
正午の少し前に俺は南門に着いていた。
元社畜は15分前に到着しておかないと安心できない。
因みにリヤカーは午前中に返却した。
ウリ坊は女将が預かってくれているので安心だ。
南門の壁際に5人の兵士が駄弁りながら立っている。
その近くに4人冒険者らしい姿があった。
俺は足早に壁際へ向かう。
教会の鐘が正午のお知らせを鳴らし始めた。
セシリア様と副官が姿を現したのは、俺が冒険者達の間に紛れるのと同時だった。
「コイツ、灰被りじゃねーか」
「万年Fラン冒険者が何の用だ」
隣にいた冒険者から雑音が聞こえてきたが、俺はセシリア様のお姿を見るのに忙しくてそれどころではない。
兵士達を背景にしてセシリア様と副官が前に出た。
相変わらず際どいレザーアーマーに身を包んでいる。
冒険者達の視線はその肢体に釘付けになっていた。
当然、姿勢は前かがみだ。
(……セシリア様が教官だったら訓練にならないな)
因みに兵士達も欲望に塗れた視線を向けていた。
「貴様達! この任務は非常に重要である! 南の廃城に盗賊団が住み着いてると通報を受けた。国民の安全を脅かす輩は排除しなければならない。セシリア・ノートレインの名において、ここに討伐隊を発足する事を宣言する!」
副官が大げさに拍手を送った。
多分、盛り上げろという事だと思うが、セシリア様の装備に問題がある。
この状態で拍手などできるはずがない。
仕方がないので俺だけでも拍手する事にした。
口上が終わると俺に近づいて来た。
「あな……コホン。き、貴様だけだったな、私に拍手を送ったのは」
他の野郎連中には理由があるのだから仕方ないと思う。
それよりも気になることがあった。
(セシリア・ノートレインは男嫌いではなかったのか?)
俺との距離はそれなりに近いし、セシリア様から話かけてきた。
男嫌いがする行動ではない。
「セシリア様が魅力的なので拍手をするのを忘れたのでしょう」
とりあえず、思っている事をそのまま答えた。
「そ、そうか。え、と……その何というか貴様は強そうに見える」
「それは恐悦至極に存じます」
「そんなに畏まらなくても良い。貴様を私の護衛に任命したいが受けてくれるか?」
俺は考えるまでもなく本能で答えていた。
「ハッ! 喜んでお受けします」
「だ、駄目です! 考え直して下さい! レディ・ノートレインともあろうお方が冒険者を護衛に指名したと知れたら大変な不名誉になります!」
副官の男が必死の形相で止める。
よろしい、その戦い受けて立とうではないか。
「お待ち下さい、副官殿! どうやら貴方様は勘違いをされているようです。ノートレイン伯爵家は武術を重視する貴族と理解していますが如何ですか、セシリア様?」
「ああ、貴様の言う通りだ。我が家は武芸こそ至高と掲げている」
腕を組んで頷くセシリア様。
「そうでしょう。武力なくしてノブレス・オブリージュは果たせません。そして我々、冒険者とは魔物を斃し、未知のダンジョンを踏破し、危険な地へと赴く武き職業だと自負しております。副官殿はその職業を蔑ろにされるおつもりでしょうか?」
俺詰め寄ると副官は顔を顰める。
鼻のあたりがヒクヒクしていた。
「く、くさ……離れなさい」
そう言えば3日前から水浴びをしていなかった。
「認めてくれるまで離れませんが何か?」
俺は副官に数歩だけ近づいた。
貴族に手を出して不敬罪にでもなってしまうと大変である。
彼も上官のセシリア様が目の前にいれば強権を行使できないはずだ。
「わ、分かった。分かったから離れなさい!」
「ご理解頂けたようで恐悦でございます」
俺はスッと身体を離して列に並び直した。
「これより盗賊団の討伐に出発する。総員、私の後に続け!」
セシリア様は引かれてきた白馬に跨る。
続いて副官殿も茶色い馬に騎乗した。
兵士と俺達冒険者は当然、自分の足を頼る事になる。
俺はセシリア様の後ろを走りながら考えていた。
南の廃城までは徒歩で一日半くらいかかる。
という事は途中で野営を挟むはずだ。
(……携帯食を買ってくるのを忘れてたな)
依頼書には場所が書いてあったのにウッカリしていた。
(それにしても……)
俺は後ろを振り返る。
行軍の速度は早歩きくらいだというのに、兵士5人と冒険者4人の息が完全に上がっている。
冒険者はEランクの駆け出しだから仕方がない。
だが兵士の息がこれくらいで上がるのはおかしい。
俺は違和感を感じながら白馬のケツを追いかけていた。
見上げると南の空が少しだけ曇っているような気がした。
☆
廃城まで残り半日という場所で野営をする事になった。
手慣れない動作で兵士達が、セシリア様のテントを設営している。
冒険者達は各々が時間を潰している。
俺は大木の切り株に腰を下ろして仮眠していた。
「よお、灰被り」
ダブルモヒカンに鎖帷子を着込み、腰に2本のハンドアックスをぶら下げた男が近づいてきた。
正直、関わりたくない外見をしている。
「あんた誰だ?」
「おいおい、さすがは無能野郎だな。俺を知らねえのかよ」
元々の厳つい顔が笑顔で歪んだ。
「悪いなクソムシ。野郎にリソースを割きたくねえんだわ」
「何だとこの野郎っ!!」
「おいおい、ジャック。そんな無能相手に何してんだよ」
木陰から別の男がポケットに両手を入れて近づいて来た。
デブった身体でレザー装備がはち切れそうになっている。
こちらもスキンヘッドの厳つい風貌をしていた。
冒険者というのはガラの悪い奴しかいないのだろうか。
「何だよハート。無能が相手してくれなくてよ」
「そら、ご愁傷さまなこった」
二人で下品な声で笑いだした。
俺には何が面白かったのか分からない。
「お前等のセンスが分からねえから向こうに行くわ」
俺は立ち上がるとセシリア様のテントに足を向ける。
「逃げんのかよ、灰被り」
ジャックとハートの声がハモる。
「そうでちゅね〜」
面倒くせえと思いながら手だけは振ってやる。
俺は設営していた場所まで歩いた。
おそらく宿泊セット(豪華)というアイテムを使ったのだろう。
完成したセシリア様のテントはかなり立派な仕上がりだった。




