第三話 古代遺跡の殺意が高すぎる
東の森にある遺跡には、レオンが使用する伝説の装備が眠っている。
ストーリーから計算すると、あと三年で主人公は士官学校に入学する。
パラパラの設定資料では、今から二年後に大きな厄災が起こり兵士が激減。
職業持ちは二十歳から兵役の義務を負うようになる。
物語が進み始めると、この装備を主人公が手に入れようと動き出すかも知れない。
つまり、今はまだ誰の物でもないと言う事だ。
更にアッシュの記憶を持つ俺にとって、レオンに対して思う所が大いにある。
ゲー厶内でのレオンは誰からも愛されるキャラクターだった。
その内面が汚れていた事に、俺は少なからずショックを受けている。
そんなヤツに特等席を譲ろうなんていう気持ちにはなれなかった。
東の森の遺跡【太陽の神殿】にあるのは鎧のアルミナと呼ばれるアーティファクトだ。
王国の騎士団が使っている鎧のオリジンモデルである。
アルミナは魔石の一種と言われている。
鎧のアルミナ、剣のアルミナという感じで分類される。
鎧のアルミナに魔力を通すと全身に鎧が蒸着する。
アルミナの質と通す魔力によって鎧の質が変わってくる。
俺の魔力は期待できないが、アルミナはできるだけ良いものを使いたい。
アーティファクトに憧れているだけ、というのが本当の理由なのだが。
五時間ほど歩くと、古めかしいお地蔵さんが見えてきた。
中世ヨーロッパ風の世界観でありながら、お地蔵さんである。
この世界が、日本のエロゲメーカーによって作られた事を再認識させられる。
像の高さは三十センチくらい。
長年、風雨されされてきたのだろう。石で出来た像は黒く変色し、苔が所狭しと生えていた。
見るからに怪しいお地蔵さん。
だがコレは何でもない、ただの背景だ。
この像から東に十三歩、北に二十九歩、西に六歩、南に十二歩進む。最初から東に七歩、北に十七歩でもいいんじゃね? と思っていた時期が俺にもありました。
それだとイベントが発生しないのだ。
順番通りに歩いて最後の一歩を踏み込んだ。
途端、地面が崩れて俺は地面の中を滑っていく。
(いたっ! 痛いって!)
背中やケツが地面と擦れ合って思ったより痛い。
来世は土竜になりたいと思っていると、土穴が終わりを告げた。
尻への衝撃と共に、広大な空間にたどり着く。
何処か地上に繋がっているのだろう、地中にあるはずなのに全体が見渡せるほど明るかった。
痛みを堪えて立ち上がると、祭事を行う神殿が見えた。
かつては山の頂きにあり、太陽の光を受けて輝いていたという建物は、その名残を全く感じさせないほど朽ちていた。
正面にある入り口は無視して、まずは建物の屋上へ向かう。
入り口から正面突破もできるらしいが、人智を超えた強烈な運ゲーが待ち構えている。
運ゲーを回避する為、建物の突起物に手をかけて登っていく。
ボルダリングってこんな感じなんだろう、と想像しながら。
屋上に着くと天井に穴が空いていた。
その穴から躊躇もなく飛び降りる。
老朽化した床の砕ける音が、六畳ほどの部屋に響き渡った。
(しかし、この身体すげえな。アッシュ、お前の努力は絶対に無駄にしない)
灰森一郎は少しの運動で、身体が悲鳴を上げていた。
寝る時間が少なくなるだけで、全身が蝕まれているように重かった。
アッシュの身体になって、忘れていた何かを思い出したような気がした。
石造りの部屋の中には何も無い。
右側に出口があるだけだ。
俺は右側の出口に向かった。
出口から顔を出すと、明かりない通路があった。
部屋の天井から差し込む光で、少し先は確認できる。
ココはパラパラで何度もリトライを繰り返し、身体で覚えた場所である。
ふう、と大きく息を吸い込んで深呼吸する。
大丈夫だ、と何度も自分に言い聞かせる。
今から始めるのはゲー厶ではない。
一度の失敗が即死に直結するデスゲームだ。
振り返って、落下時に砕いた野球ボールほどの石を握る。
冷たい汗が頬をつたうのを感じた。
もう一度、深い呼吸をすると石を投げた。
通路の奥でザシュという、トラップが起動した音が聞こえてきた。
合図の瞬間からカウントを始めていた。
五、四、三、二、…………。
(行くぞ、アッシュ!!)
俺達は通路に向かって走り出した。
☆
俺が石を投げた床に、短槍の山が生まれていた。
あえて罠の上を飛び越える。
走っている逆側の壁から、短槍の壁が押し出てきた。
罠の壁を過ぎて二秒数えて寝転がる。
上半身があった場所をギロチンが過った。
ホフク前進続け、ギロチンを三つ通過した瞬間立ち上がった。
――同時に目の前の床が抜けた。
カラカラと崩落する石を横目に、壁を伝って穴の中へ降りていく。ご丁寧に指先や足を引っ掛ける為の穴が空いていた。
仄かに光る無数の苔に照らされて、何とか周囲の視界は確保できている。
三メートルほど降りたくらいで、つま先が地面に到着した。
無数の鋭い剣先が地面から天に向かって伸びている。
その根元には得体の知れない骨が、数え切れないほど散乱していた。
視線を奥に向けると苔に照らされた通路が伸びている。
俺は奥にある通路に適当な大きさの骨を投げて、竪穴の逆側を登っていく。
こちらの壁にも、手足を掛ける小さな穴が空いていた。
(……ご丁寧な事で)
二メートルほど登った頃、地面からガスが噴き出してきた。
俺は急いで上の通路まで到着すると、しばらく地面に腰を下ろして身体を休めたのだった。
二時間ほど休憩すると、再び竪穴を降りていく。
既にガスの匂いはなくなっていた。
通路の奥に向かって歩き出す。
しばらく進むと、装飾を施された重厚な扉が鎮座していた。
俺は足元に落ちていた小石を、扉に向かって投げると踵を返して全力で走り出す。
カンと乾いた音が背後で鳴る。
同時に地鳴りのような低い音が響いた。
そして両側の壁から大量の水が噴き出してきた。
(トラップ多すぎ! 殺意高すぎ!)
一時間が経過して再び扉の前までやってきた。
既に水はなくなっていて、水たまりが余韻を残している。
俺は再び扉の前に立つと、取っ手を掴んで永い眠りから解放した。
部屋の中は、眩しいくらい明るかった。
部屋を照らす光は、台座に置かれた蒼い魔石から放たれている。
(さて、ここからだな)
ここは簡単な質問に答えを返すだけなのだが、ミスると即死クラスの敵が現れる。
厄介なのが直接、脳に話しかけてくることだ。
あんな事やこんな事を考えてしまうと大変な結果になる。
俺は目を閉じて集中力を加速させた。
頭の中に声が響く。
『我に何を望む』
(魔石魔石)
『魔石に何を望む』
(力)
『力を何に使う』
(愛する人の為に)
『感動した! この力を思う存分ふるうが良い』
問答が終わると、輝いていた魔石の光が収束していく。
俺は台座からアルミナを掴み取ると、ズボンのポケットにしまい込む。
魔石を失った台座は、地面の中に沈んでいった。
そして台座が消えた場所に、幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。
(これは転移陣だな)
俺は躊躇せずにその上に乗った。
刹那、魔法陣が光輝いた。その光が俺を包み込んでいく。
しばらくして純白の空間が収束すると、お地蔵さんが目の前に立っていた。
(古代文明マジすげえわ)
俺は感心しながら、元の場所に向かって歩き出した。
☆
時刻は深夜十二時を少し過ぎた頃だろうか。
満天の星空の下で、俺はリアカーに腰を掛けていた。
右手には昼間、手に入れたアルミナを握っている。
(魔力ってどうやって流すんだ?)
アッシュは魔法が使えなかったので、魔力を使った記憶がない。
当然、俺は魔力がどういう物なのかも分かっていない。
ああでもない、こうでもないと悩んでいると、急に魔石が輝き出した。
その光が身体中に巻き付いてくる。
油膜がかった蠱惑色に全身が彩られた。
色が収束して形取られていく。
俺は近くにあった水辺で、自分の姿を映した。
(あ、これ……ヤバい)
水面に映った姿を見て、思わず息を呑んだ。
漆黒の鎧に身を包んだ大男。
どう見ても、主人公に倒される側の姿だった。




