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透明になった番  作者: 桃緑茶


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第6話 前世、プリムラの友達ジゼル

ベッドに丸まって震える私は、眠れず涙を流していた。

肩の治療はされたから痛みはない。けれど。


無理矢理押さえつけられ、こじ開けられる恐怖に震えていた。

私を憎しみながら身体を求める、あの男の異常な愛に怯えていた。

私を得物のような目で見るあの男が怖い。


ここを出ていきたい。でも、出ていけない。

空の牢獄からどうやって逃げればいいの?

いっそ、ここから落ちたら楽になる?けれど、浮遊島の境は落下防止の結界が張ってあり、昇る事は出来ない。


その時だった。

窓辺から音がした。

「…?」


近付くと、真っ白い髪の男の子がいた。

「あ、起こしてごめんなさい」

歳は10歳位だろうか。彼は竜族特有の角や鱗の紋様は無く、ふわふわとした羽毛のような紋様…というか、羽毛で腕が覆われていた。

角の部分も白い翼のようだった。


「ううん、大丈夫よ。何か用があったの?」

「あのね、お姉さん泣いているでしょ?美味しいものを食べたら元気に成るかなぁって、木の実を取って来たの」


そういえば、窓辺に時々野花や木の実が置いてあった。

てっきり鳥の仕業かと思ったが、この子だったとは。


(本当に、真っ白い鳥さんだったのね)

そう思うと、少しだけ心が軽くなった。



「……あのね」


少年は羽毛のような腕をそっと伸ばし、窓枠からこっそり差し出してきた籠を示した。

籠の中には様々な木の実や草花が詰め込まれている。


「いつも来てくれていたのね」

不思議と私の声が柔らかくなった。籠を受け取ると、一番上に乗っていた小さな白い花が目に入った。窓辺に置いてあったのと同じだ。

「ありがとう…」


「えへへ、お姉さんが笑ってくれて良かった」

少年ははにかむ様に笑う。

「僕、ジゼルって言うんだ。お姉さんの名前は?」


「プリムラよ。…いつも窓辺にお花や木の実をありがとう。とても心が救われたの」

名も知らぬ白い花を手に取り、そっと抱きしめながら言うと、ジゼルの顔がパッと明るくなった。

「本当? 喜んでくれた?」

「ええ、すごく。どの木の実も美味しくて、…特にこの木の実が好きだったわ」

そう言って黄色い木の実をひとつ取り出す。ほんのり甘い香りが漂う。

安心して食べ物を口にしたのは、ジゼルの置いた木の実くらいだった。

「美味しいよね!洋紅檸檬!あっちの林でいっぱい取れるんだっ。後ね、あとねっ…」

(檸檬だったのね。でもコロコロと小さくて可愛いし、美味しかった…)

皮も薄く苦みも無いのでそのまま食べられるし、甘くておいしい。

ラトビルには地上には殆どない不思議な木の実や果物があるという。


ジゼルは色々と教えてくれた。

名も知らぬ白い花はラトゼルの花と呼ばれているという。島が浮遊しているのはこの花の根が浮遊島に深く根付き、竜の魔力と呼応して天界近くまで浮かび上がらせているそうだ。


蒸栗すももの実は縦に割るように開くと薄い層になっており、サクサクとクラッカーのような食感だそう。日持ちもするそうなので、試しに以前貰ったものを割ると本当にクラッカーか…クッキーのようにサクサクしている。それと種は飴のように甘い。

(ほんのり桃の味がするのね…)


虹色りんごは味が多彩に成るりんごらしい。普通のりんご味から焼くともちもちした饅頭の味に成るものも在るという。


洋紅檸檬は金柑くらいの小ぶりの果物だ。これが一番好きだと言うと、僕と同じだねとジゼルは笑う。


ジゼルの話に耳を傾けるうちに、私の胸の痛みが少しずつ和らいでいった。

恐怖で冷え切った心臓が、ゆっくりと温まる感じがする。


「お姉さん、ここは寂しい?悲しいの?」

不意にジゼルが聞いた。

「……ええ、とても。でも、ジゼルが届けてくれる洋紅檸檬や蒸栗すももに小玉パイン。…この空の国の木の実やお花は美味しくて、可愛らしくて、好きよ」

「良かったぁ。…ねえお姉さん、良ければ僕とお友達になってくれる?そうしたら寂しくない?」


お姉さんには、ここの良い所も知って欲しい。


ジゼルの無垢な申し出に、私の心の恐怖は洗い流されていく。

「ええ、私とお友達になってくれる?」

「うんっ嬉しいよ、よろしくねっ」



ジゼルはリンドバルドの父である竜王の妾の子だという。


ジゼルは本当の意味で『異端』だった。鳥のような羽毛を持つ奇妙な外見ゆえに蔑まれていた。


そんな彼がプリムラに元気に成って貰おうと贈り物を続けたのは、彼女と自分が似た者同士だと感じたから。

人間の貴族の娘と竜族の王子が、運命の番として契りを交わす瞬間。


ルビア不在故、外から傍観しか許されなかったジゼル、婚礼の祝宴の喧騒の中で一人泣いていたプリムラを見つけたのだ。

その婚礼の最中、夫となったリンドバルドが何度も冷たく拒絶するのも見ていた。


(どうして嫌なのに連れて来たの?一人でお空に来て寂しいのに、何で?)


だから、少しでもきれいなものを見て欲しくてお花を摘んだ。

美味しいものを食べて、安心して欲しかった。


「お姉さんに好きなものが出来て良かった。また今度持ってくるよっ」

「ふふ、ありがとう。どういう風に実が成っているのか、見てみたいわね」


ジゼルの無垢な想いはプリムラの痛みを和らげた。

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