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透明になった番  作者: 桃緑茶


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第3話 前世、竜王の憂い

天空の浮遊島群ラトビル国の王である竜王は、リンドバルド王子の番への冷遇に頭を悩ませていた。

あれは母親の件で傷つき過ぎたとはいえ、あの娘には何の瑕疵も無いのに。

王は深い溜息をついた。


リンドバルドの母親は竜王の妃であった。しかし彼女の身体に現れた竜紋は――別の男のものだった。

幼いリンドバルドが誕生した後、妃は運命の番の元に行った。


番が傍に居ないことで、精神的に不安定になっていく妃を留め置くことは出来ないと判断したのだが。

結果的に、息子は自身を捨てた母を恨んでいる。

しかし彼女が子を連れて行くのは難しい。故に王が子供たちを養育した。


番を得た竜は、その番の子以外は殺してしまうことも少なくないからだ。


こういった妻帯者間もしくは恋人同士の間で起こる『運命の番』のトラブルは多い。

竜紋の発現もまちまちで、婚姻後に発生することもある。

我々竜族は理性よりも本能が勝り、伴侶を捨ててまで運命の番の元へ行く。

――そのような行動に出るのだ。



リンドバルドが番制度に否定的だと知っていた。

故に問うた。

番の解消も出来る。しきたりに則る必要は無いと。

しかし、王子は婚姻へと踏み切った。

もしかしたら、母を失った悲しみを番が埋めてくれるやもしれない。

そう、思った。


あの婚礼の儀で、運命の番を衆目の面前で貶めるまでは。


挙句、初夜の儀で側室を侍らせ正室たる番を辱める始末。

運命の番で婚姻関係が破綻した派閥が絡んでいるのだろう。


『そんなに番が憎いなら、地上に戻すべきだ』

そう説得したものの、リンドバルドは是としなかった。

あれは番を憎悪する反面、番に異常な執着を抱いている。


…やはり、竜に婚姻という結びは作るべきではなかったのだ。


始祖竜の時代からある『運命の番』の廃止は竜族の慣わし、彼らの習性として難しい。

だが、婚姻関係の廃止は幾度も議論して来た。

儀式によって伴侶を縛る事は、竜には向いていない。

しかし、強欲な竜たちの性質故、廃止に至っていない。


せめて、プリムラをリンドバルドから引き離すべきだが‥‥‥。


竜王は窓から見える水晶宮殿を見つめながら思案に暮れていた。王として国を導く一方で、父親としては息子リンドバルドの暴走を止めなければならない。


(プリムラ嬢を護るためには……)


リンドバルドは番を得てから能力が桁違いに跳ね上がっている。

「運命の番」がもたらす恩恵を最大限享受していた。


しかし同時に彼の心は壊れている。番への憎悪と執着が絡み合い、危険な狂気に蝕まれつつあった。


「陛下、少々よろしいでしょうか?」


書斎のドアが静かに開き、部下が王の前にでる。

「……何か進展はあったか?」

「プリムラ嬢の避難先をいくつか確保しました」

先代国王がかつてとある番の隠れ家として張った、堅牢な結界がある場所だ。


部下は慎重に言葉を選んだ。

「問題は……王子が彼女を手放すことは…無いと云う事です」

「ああ。あの男はプリムラ嬢を愛するあまり…全てを破滅させるだろう」

竜王は拳を握りしめる。

「彼女が…家族を持てる希望を打ち砕かれ、涙で顔を曇らせる様を見て歓喜するほど……病んでいる」

運命の番は魂の契約。両者の合意があれば解除できる。…本来ならば。


しかしリンドバルド本人が同意はしないだろう。

ルビアに伝令を出し、急ぎ帰還を命じた。プリムラには味方が必要だ。

下手に王自身が――牡である己がプリムラの庇護に出れば、番に執着するリンドバルドが暴走しかねない。


竜王は本能的に理解していた。

自身の力を持っても、リンドバルドを止められないと。

歪んだ愛が番を持ったことで、竜王子の能力が飛躍的に向上していることを。


先々代の竜王が人間の番を得た時。

一度目の番との生活は上手くいった。

しかし、人間は短命であり、二度目の人生の際。

記憶を持たぬまま成人となった番には、将来を約束した婚約者が居た。

王は尋常ではない執着を見せ、番と婚約者との結婚式当日。

自身を忘れ他の男に嫁ぐ様を見て憤怒し、花嫁を攫った。

竜紋が番に浮かび上がった時、彼女の親族も婚約者家族も。

来賓者も教会も、国そのものが火の海と化し番は発狂し自死に至った。


暴君と化した先々代の竜王を鎮めるべく、多くの竜兵が竜王に戦いを挑んだが全く歯が立たなかった。

本来の第一位王位継承者であり、竜王の次に強大な力を持つ王子も殺され、有能な部下たちの死骸が積み重なった。


(我らは地上の守護者。そのような真似はあってはならない)



もう一つ、番の解消の方法はある。

神龍様による圧倒的強者の介入を持った強制力での解消。


しかしあの御方は『運命の番』は兎も角、竜族が国として人間社会へ溶け込む事に酷く不信感を抱いている。

番が原因で人間との軋轢になっているのなら、最悪の事態もあり得る。


神龍様は『運命の番』に執着し、番の居た人間の国を滅ぼした、先々代の竜王を喰い殺した存在。

その際、こういった。

「三回。お前たちの愚行を見逃そう。まあ、今回で二回目だがね」


――前回、竜の王族が番を喰い殺した際、そう忠告したがね。


神龍の怒りの元になった運命の番に喰われた娘も、先々代竜王も。

輪廻転生の輪を破壊され永劫に魂は消滅した。


『世界の調整者』たる神龍は、決して我らの味方などではない。


――自身の代でラトビルは終わるかもしれない。


「ルビアと…あの子には申し訳ない。プリムラ嬢にも‥‥‥」

竜王は深い憂慮に沈み込む。

だが、リンドバルドが彼女を酷使する限り、神龍様が容赦する道理はない。


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