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透明になった番  作者: 桃緑茶


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33/41

第31話 現世 透明になった番

ルビアも異変を察知して飛び起きていた。


「嘘っ!?早すぎる!?」

「あのクソボケトカゲ野郎がテメーの予定通り動くかよ」

さて、困った。

ルビアが上空に向かって剣を抜き構える。

「‥‥‥」

奴は『プリムラ』を狙っている。ならば――

「ルビア。お前はプリムラと共に居てくれ。あの子を守ってくれよ」

「わ…分かった‥‥‥」

悪いな、ルビア。

俺は、ジゼルを。…プリムラとお前には死んでほしくない。



草原が静寂に包まれたその瞬間――


ゴォォォオオオッ!


突如として世界が歪むような轟音が炸裂した。


+++


「!?」


音を察知したプリムラも起きた。

「ゼーちゃん?何処?」

しかし彼女には何も見えない。ただ、大気そのものが波打つような強烈な振動が全身を貫いただけだ。

「ゼーちゃん」

長椅子の方面に向かって話し掛けるも、友人の気配が無い。

「悪い竜が来た。プリムラ、私の手を握って」

「ゼーちゃんは?何処に行ったん?」

「彼は、後で合流するわ。今は逃げる準備を!」

「待って。うちもゼーちゃんと一緒にいるっ。一人に出来んっ」

「お願い、貴女は行ったらダメ。お願い、一緒に来て…!!」


(どうしよう)

プリムラはルビアに手を引かれながら狼狽える。

ルビアは片目が見えない。

だから、彼女に無理はさせたくない。だが。


「ゼーちゃんに戦わせたら、駄目なんよ…!!」



キーゼルは農園から離れた草原にカルミアやバーンベルクの護衛達と『ソレ』に対峙する。

「‥‥‥」

やはり、か。


その刹那――


ヒュンッ!!


空気を切り裂く鋭い音と共に、巨大な影が頭上を通過した。一瞬遅れて、草原全体が激震に見舞われる。砂塵が舞い上がり、太陽光さえ遮る黒い翼の存在が空間を支配した。


「ふふふ……ふはははは……!」


嘲笑めいた哄笑が大地を揺るがす。狂気に満ちた声が響き渡る。


「見つけたぞ……我が愛しき『プリムラ』よ……!」

リンドバルドの隻眼は真っ直ぐと。


――カルミアに注がれていた。


カルミアがそれをキーゼルに伝えた。



『今世。お前の竜紋は、リンドバルドとの運命の番の強制力は随分と弱いね。

隠れて過ごすには随分と向いていはいるけど、戦いを選ぶのか。

その欠陥を持ったまま』



女侯爵の言葉を思い出し、キーゼルの眉間に深い皺が刻まれた。だが――

殺意のままに、リンドバルドに斬りかかった。


+++


轟音と共に黒竜リンドバルドが大地に降り立った。翼の風圧が草木を薙ぎ倒し、地響きが足元から骨を揺らす。


「ふふ……ふはは……!見つけたぞ……我が愛しき番……!」


その狂喜に満ちた声が空間を歪める。

キーゼルが漆黒の大剣を抜刀する。刃が月光を吸い込み妖しく輝く。

彼は無言で斬り込んだ。

リンドバルドの声に、一切耳を傾けることなく。


剣と鱗が激突する金属音が天地を揺るがす。リンドバルドの甲殻は硬い。キーゼルの一撃は火花を散らすのみ。


「無駄だ!人間ごときに!我が力の……!」

リンドバルドの会話の途中でキーゼルの前腕は隆起し、剣を押し込む。

どれだけ硬いソレであろうと、物体を両断できる角度は存在する。

「その命脈を絶つ。それだけに徹させてもらうぞ」


肉を食むその膂力にリンドバルドの目は細くその人間を捉え、尾を振るう。

鞭のようにしなった黒鱗がキーゼルの脇腹を直撃した。


「ぐッ……!?」


咄嗟に腕を差しこんだが、内臓が捩れる激痛。キーゼルの身体は数十メートル先の大岩へ叩きつけられた。岩が粉砕し砂煙を上げる。



「ゼーちゃん!?」

「ダメ、私の後ろに居て!!」

家屋から出て来たプリムラを庇い、双剣を構えるルビア。

「邪魔をするな、姉さん!!」

「その娘と逃げなさい!ルビア!!」


「ああ、プリムラ!やっと会えた!!さあ、私と愛し合おう!!」


(ああ、やはり)

リンドバルドはハッキリとカルミアを『番』と認識している。そして。

キーゼルの――壊れたプリムラの魂の修復は不完全なのだ。


否。


『それ』を対価に、重要な心身の機能を復元したとも言える。

前世のプリムラであるキーゼルは、リンドバルドを一切認識出来ていない。


奴の忌々しい声も、姿も、気配すらも。


ただ、直感とルビアたちの視線、草原の波立つ様相で、リンドバルドの行動を推測しただけ。

今世も、『プリムラ』にとって運命の番たるリンドバルドは――


+++



「ルビアお姉ちゃん、アカン!ゼーちゃんに戦わせないで!!

()()()()()!()!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()()()()()()()()!()!()()()()()()()()!!!」


「なッ‥‥‥!?」



リンドバルドの咆哮が大地を割った。巨体が嵐のように回転し、黒鱗の尾が鞭のように空を切り裂く。


ルビアはプリムラを庇い、身を翻してかわしたが、直撃した草地は震え、土塊が跳ね上がる。


「くっ…」

動揺しつつ、ルビアがプリムラの手を引いて走る。

(透明…?うそ、まさか‥‥‥)


『ガキでも理解できた筈だ。運命の番を攫うことがどれ程危険か。

それでも、友達を救おうとあの子は番を空の国から逃がした。…勇敢な子だよ』


キーゼルがジゼルなら…どうして。

あんなに、優しく。他人事のように、悲しい目で話したの。


運命の番は他種族に転生することは在れど、雌雄が固定されて転生されることが多い。

だが、絶対ではない。

「ま…さか‥‥‥」

キーゼルが、『()()()()』?


ルビアは思考がまとまらないまま叫んだ。

「プリムラ!とにかく一旦離れ……」

しかし。

「いややっ!!約束したもん!!ゼーちゃん護るって、友達を護るって誓ったもん……!!

お姉ちゃん、ごめんな。うち、ゼーちゃん一人に出来ん」


何時からプリムラはルビアを『お姉さん』ではなく、お姉ちゃんと呼んでいたのだろう。

あまりに馴染みが良くて、心地よくて忘れていた。


――ジゼルは自身の事を、『お姉ちゃん』と呼んでいた。


プリムラはルビアの手を振り払い、キーゼルが吹き飛ばされた方向へ走り出す。

「プリムラっ!!」


盲目の少女が向かう先には、あの黒竜がいる。

だがプリムラは恐怖よりも強い使命感に突き動かされていた。

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