第23話 この世界の重要書物は同人誌即売会にある
天空の浮遊島群ラトビルに群生する木の実や果実の一つ、虹色りんご。
味が多彩になるりんごで、普通のりんご味から焼くとかぼちゃの味になる物まで多彩。
この紫色は刃物が通らないと大量に保管してあった。
保存が利くらしいが、齧りにくいと。
(加熱すればイケるか?)
オーブン…は中身が爆発したら怖いので、試しに茹でて見た。
するともちもちとした食感になったので水につけて薄皮を剥いた。プリムラも楽しそうに作業をしていたが、相変わらず木箱に乗って作業するキーゼルは若干解せない気持ちになった。
兎に角、試しに茹でたソレを味見したが普通に食えた。
「ダンプリングの生地に似ているな、味もじゃがいもの甘味に似ているしこれなら‥‥‥」
芯は面白い位にスポッと手で抜けた。なので、中に羊肉と玉ねぎをみじん切りにし、香辛料と練ったものを詰め込みスープと煮てみた。
そのスープとカブのサラダ、ふわふわのパン。
新鮮な食材を使った温かい食事にプリムラは笑顔だ。
「温かいごはん美味しいわぁ。ゼーちゃんは料理上手やねー」
「普段どうしてたんだお前」
「んー?管理人さんのごはん無いときは、そのままお芋さんや木の実を齧ってたなあ」
「いや、生の芋は腹壊す…。いや、竜族なら胃が丈夫なのか?」
魔石を使ったコンロなら安全だ。空焚きなどで緊急停止する使用のものもある。
…値は張るが。
(今度また町に行くか。簡単な調理位は出来るように)
茹でるものなら、まあ何とかなるだろう。
お湯がボコボコ鳴ったら具材を入れて、ぜんまいの時計を7回捩じる。ビリビリと音が鳴ったら火を止める…といった感じで。
(あの子がどれくらい出来るかも確認はいるかな)
キーゼルの作るものを美味しそうに食べたプリムラは、久しぶりの町ではしゃぎ疲れたのか眠ってしまった。
むにゃむにゃ言いながら、花が描かれた木板を取り出したので、寝かしつけたというか。
キーゼルは灯りを点し、花が描かれた木板を確認する。
これはここの領主がプリムラにと置いたそうだ。
それとは別に、紙で記された本も置いてある。
プリムラは領地の誰かの忘れ物と思って保管していたそうだ。
「何だこれ?自費出版…同人誌か?」
それにしては鈍器並みの分厚さだが。
題名は『エピデンドルムの天空城探索』。
翻訳:デイジー。
「 あ い つ か 」
知っている。こんな同人誌を作る馬鹿はあいつ位だ。
不完全版の更に劣化した真なる魔王の禁書。500年前に失われた文字を独学で復元までやってのけた、当時15歳の平民の娘。そんで、禁書の独自考察したものを同人誌即売会で販売して重罪人行きの牢屋にぶち込まれた奴。
少し前に脱獄したそいつ――
と、言うか。衛兵でも捕まらないのでキーゼルやバーンベルク女侯爵の長男次男も駆り出された。
尚、この兄弟はキーゼルがほぼ勝てない猛者である。
当時は鏡の加護も弱く生活魔法しか使えない筈なのに、捕縛に3日くらい掛かった。
そいつを女侯爵が編集部門に押し込んだらしく、自分にも取材で突撃した奴だ。
(アレの発想はぶっ飛んではいるが、確信を付いた情報を割り出しやがる)
魔術師エピデンドルムの件も何らかの確信をもって掴んだのだろう。
この魔術師は400年前。初めて人間が空を飛んだ、飛行魔術の開祖。
竜の国ラトビルの跡地へ足を踏み締めた探索の記録だ。
しかし、当時の浮遊の魔術は人体への影響や欠陥も多く、直ぐに禁忌とされた。
現在の魔法では別の術式が組み込まれている。
(ホラ吹き魔術師、狂人魔術師と冒険者ギルドでは有名だが…)
あの頓智気は何故そんな古代の、しかも狂人の遺した記録を解読した?
一ページを捲った瞬間、キーゼル自身に無関係ではないと分からされた。
『エピデンドルムの天空城探索』(一部抜粋)
【――‥‥‥。
竜の魔力が枯渇したラトゼルの花の殆どは枯れ、浮島の端の方から徐々に地に落ちて行きました。
最終的にはリンドバルドが囚われる始祖竜の牢獄が最後の浮島となるのでしょう。
ラトビルに咲く白い花。島が浮遊しているのはこの花の根が浮遊島に深く根付き、竜の魔力と呼応して天界近くまで浮かび上がらせているからです。
ラトビルに実る特産物も徐々に姿を消すのでしょう。七色のりんごやビスケットのようなすもも。これらは運命の番を歪めた竜によって失われる。
失われる前に、此処で起きた出来事を調べ尽くさねばならないのです。
私には前世の記憶があります。前世の私には妻が居ました。
私の妻の名をミレット・エピデンドルム。狂った黒竜リンドバルド・ドゥン・ブレン・ラトビルの運命の番。プリムラ・ネフライトの義妹です。
私の妻ミレットは番を甚振る事を愛と曲解したリンドバルドによって空の城へ招待されました。
――‥‥‥】
――‥‥‥。
「………」
キーゼルは自身を包み込むように抱きしめていた。
「‥‥‥馬鹿野郎」
大切な人を奪われ続けた記憶が際限なく湧き上がり、キーゼルはただ涙した。
食卓の椅子に座ったまま、混乱するキーゼルを寝ぼけたプリムラがガシッと捕まえた。
「なっ…離せ、おいっ」
「怖いん~?一緒に寝たら怖いの無くなるやん~?」
しかし、哀しいかな身長差約60㎝。
猫のように脇を掴まれ宙ぶらりんのキーゼルはプリムラのベッドに寝かしつけられた。
「ちょ」
「ゼーちゃんのー。怖い夢ー飛んでけー飛んでけー」
そう言って、キーゼルの背中を撫でるプリムラ。
「泣いたらええよ。うちが傍におるもん」
そうやってキーゼルの頭を撫でている内に、プリムラはキーゼルを抱き枕に爆睡した。
「……勘弁してくれ」
しかし、不思議と負の記憶は収まった。ただ、物理的に温かい。
プリムラに抱き枕にされたキーゼルはそのまま眠っていた。
「アレー?どうしたん?ゼーちゃん何でうちのベッドで寝とるん?
今日から一緒に寝る?」
「‥‥‥寝ぼけたお前に捕まったの。男女、別で、寝ましょうっ」
「ん~。そしたらゼーちゃん。寝る前のおやすみの抱っこは?する?」
「しねーよっ!!おはようっ」
「えへへー、おはよう、ゼーちゃん」
(こういうとこはちゃんと躾けないと、マズイ……)
面倒だが…調べ物は長椅子でやろう。




