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透明になった番  作者: 桃緑茶


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第1話 現世 竜殺しのやさぐれ転生者

次回からは過去編となります。

天空の浮遊島群ラトビル――竜族の王国は、無数の浮島が雲海の上に浮かぶ幻想的な国。一番大きな中央島には竜族の王宮があり、そこから見下ろせば小さなかけらのような他の島々が宝石のように輝いている。


そんなもん、大昔のおとぎ話だがな。


竜族には『運命の番』という天命によって定められた魂の番がある。

通常竜族の番は同じく竜族であることが殆どだが、ごく稀に他の種族が運命の番だったという事例も存在する。

番への執着は抗えない引力で、番に愛を囁くことが至上の喜びとなる。


だが、竜族最後の王子は番を拒絶し、挙句に歪んだ愛を押し付けた。


王子は『番制度』嫌悪していたという。

故に、人間の番を拒絶した。

しかし、拒絶された番を見て心を締める感情は、得も言われぬ快楽だったという。

竜紋が彼女の悲しみや羞恥と共鳴し、熱烈な衝動となって全身を駆け巡るそうだ。

番を拒絶しながら、番への狂った愛に呑まれた王子。


挙句に竜の番となった娘は、竜紋によって未来永劫狂った王子の番として転生するのだと。


結果、『俺』と俺の友人はその歪みに翻弄される羽目になった。


第一転生:逃亡の失敗、友人は竜の王子に殺された

第二転生:竜が襲ってきて人々が逃げ惑う中、圧死

第三転生:竜に捕えられ上昇圧に耐えられず死亡

第四転生:幼馴染もろとも、竜の炎で焼死


五回目の転生。俺は――

超、やさぐれた。


「あら、キーゼルさん。今日のご用件は何でしょう」

「竜討伐の依頼」

今まで狩り殺した竜の牙で飾られた灰色のコートが風になびき、背中には漆黒の大剣。腰には大口径魔道銃

全ての武器が魔物の中でも上位存在たる竜殺しに特化している。


どこからどう見てもただの冒険者ではない。漆黒の髪と隻眼の紅い瞳の少年はどこか冷たく、尖っている雰囲気だ。

俺はギルドに併設されている酒場に入り浸っているおっさん達を横目にカウンターに用紙を投げつけた。

俺の姿を見た職員が怪訝そうな顔をする。

「遠方になりますが、よろしいですか?」

「構わねえ。それから当分ここへ戻ってくることはねえと思うから、契約書にサインを」


「え、ええ」


「そんじゃ、それで頼むわ」


職員は眉間にしわを寄せながらも、紙束を出してきた。

ペンを走らせている間に俺の様子を見ていたらしい。周囲の人間がヒソヒソと話を始めていた。


「……おいあれって」

「ああ……数多の竜を討伐したっていう……」

「まじかよ、あの年齢で?」


そんな噂話など無視してサラッと名前を書き殴ると紙を職員に渡した。


ラトビルという竜の国は既に無く、かつて天空城に居た竜が時折地上の人里を襲う。

だから、竜はぶち殺す。それだけだ。



冒険者用の移送方陣で現場近くのギルドに転移した。

森の奥にある苔むした岩が転がる小さな集落。

元は鉱石が取れたからか、住民はそれを町に売りに行きながら生活していたという。



吸いつくした煙草をガジガジと噛み、吐き出すと人々を襲い竜が住み着き廃墟となった村へ突撃する。

「ヒャハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


布で覆った大剣を抜き去り、家屋の光り物を漁る竜の尾を笑いながら切り落とした。



血の飛沫が夕焼け空を染めた。キーゼルの黒刃が閃き、一頭目の竜の首筋を斜めに裂いた。噴出した紫色の血液が苔むした岩肌を汚す。獣性に満ちた叫び声が峡谷に響き渡る。


「グルアァァッ!」


切断面から黒い瘴気が漏れ出す。人肉を貪った竜の証だ。キーゼルは嗤いながら後退し、銃口を向けた。

ドンッ!

大口径弾が胸部を貫通。肋骨が砕ける音と共に巨体が地面に沈む。


「二匹目来いよ!人間風情を殺してみろ!!ヒャハハハハ!!!!!!」

挑発するような咆哮をあげると同時に流れるような動きで煙幕弾を投げ入れた。

「うおらぁぁあああああ!!!!!」

視界を奪い、即座に足を軸に回転斬り。胴を薙ぎ翼をズタズタに切り裂く。

「人語も忘れたかクソトカゲ」

怒号とともに魔力が渦巻く。竜の瘴気と混ざり合う霧の中で、彼の隻眼だけが赤く燃えていた。


視界を奪われた竜たちの混乱に乗じて、残る一体の腕は大剣を振り下ろし両断した。


「痛覚は機能しているよなぁ?ええ!!?」

蹴りを竜の切断した前脚に深々と食い込ませると、耳を劈く咆哮が響き渡る。

しかしこれで終わりではない。キーゼルは拘束具を取り出し、負傷した竜の首と大地へ固定した。

「殺してほしいならそう言え。あいつらは人間食った匂いがした。だから殺した。

異論はねえよな?ああ゛!?」

竜の頭を踏みつけ、苦悶に喘ぐ竜を見下ろす。


「これ、知っているか?」

見せたのは、木板に掘られた竜紋だった。

竜紋は個々で形状が異なるという。魔力の高い王族ならばより象徴的だ。


これはかつて狂った王子とその人間の番の胸に現れたもの。

それを見せた竜は気が狂ったように叫び、怯えだした。


「止められなイ。コワイ。国王ですら殺されタ」


竜は長年溜め込んだ恐れを吐き出すように、竜紋の持ち主について語る。

『運命の番』は、番への愛の分だけ力を増幅させていく。

弱体化した我々ではどうにもならない。

竜の瞳孔が大きく広がり、青白い鱗に冷や汗が伝う。

「木の板の紋……あの黒竜と同じ!」

キーゼルの掘った木板の竜紋を指差し叫んだ。

その瞬間、竜の怯えが憎悪に変わり、牙を剥き出しにした。


『あんな狂った黒竜、誰も倒せない!!!』

『アイツの所為で、人間を殺された者達が俺らに報復に来る!!誰か、あいつを殺してくれ!!!』


竜は激しく頭を振った。

竜語は分からないが、言っていることはおおむね分かった。

その目に映るのは途方もない絶望。

「我が一族を滅ぼしタのはあの黒竜なのだぞ!」

咆哮とともに血反吐を撒き散らす。

「親すら殺し同胞の屍を積み上げた挙句……封印されるも番を求めまた蘇る…!!」


キーゼルが口角を上げた。

「そして次なる転生した番を探すため……『プリムラ』を狙っているわけか」

竜がぎくりと固まる。

「知らないと思ったか?『プリムラ』、アイツの番の名だ。

あのクソ竜はまだ狙ってやがるんだろ?ああ!!??」

「あ…ああ‥‥‥そうだ………」



「圧倒的に蹂躙し尽くして来た糞野郎。……今回もそうとは限らないんだぜ?」


キーゼルが投げたナイフが地面に突き刺さる。竜は潜在的な恐怖で言葉が出なくなった。


「安心しろよ。…俺がその狂った黒竜をぶっ殺してやるから」


竜の目が恐怖で歪んだ。

キーゼルの底知れぬ憎悪を見て。


「さぁ教えてくれよ……糞野郎はラトビルにいるんだろう?連れて行ってくれや。

その為にテメェの翼は残したんだよ」

「出来ない…もう、あそこまで飛べなイ‥‥‥」

「ちっ」


キーゼルはその翼をその体躯からは想像できない腕力で引き千切った。

「ギャアアアアアアアア!!!!!」

「二度と人里を荒らすな。仲間にもそう告げろ」

冷たく言い放つと竜を解放する。

両断された腕で這いずるように去っていく後姿を見届けた。


所詮は獣。人間に勝てないと刷り込んで、仲間に周知させればいい。

その為に徹底的に部位破壊をしたのだから。

(かつての栄華を懐かしんで、人間の集落を襲う)

てめえらの招いた業だろう。勝手に奪うな。


「待っていろよ……」


深淵の如き闇から伸びる手が黒竜を掴んで離さない。


「俺が地獄の果てまで追いかけてやるよ……どんな姿になってもなあ…」



キーゼルは遠ざかる竜を眺めつつ懐から酒瓶を取り出す。

「似たり寄ったりの情報ばかりか、クソが」

一口飲んで煙草に火をつけ、煙を吐き出す。


「さて、これからが本番だ」

竜の亡骸を解体していく。それぞれの材料を魔法鞄に詰める。

こいつらの身体自体がキーゼルや人間たちの至宝だ。


「あのクソったれリンドバルドは丁寧にこの世からも来世からも退場させてやる」

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