第15話 竜族へ最終宣告の最中に起きた凶行
痛ましい性的描写があります。ご注意ください。
竜族たちが己の誇りも、権威も、未来の夢も全て原始に戻す最終宣告を受けている頃。
神龍の気配をリンドバルドは察知していた。
番を憎み歪んだ愛憎を抱いた愚かな竜は、『運命の番』の解消を恐れるあまり、プリムラとの繋がりを求めた。
「どうして……!」
震える指先が彼女の肩を捉える。正面から組み敷いたプリムラは虚ろな目で天井を見つめるだけだった。衣服が裂かれ白い肌が露わになる惨状にも、彼女の瞳に映るものは何もない。
「プリムラ……お願いだ……!」
唇を奪い口内を支配しても、その乳房を愛撫しても。
私の爪が皮膚を破り紅の筋が流れても、彼女は息一つ乱さない。
かつては怯え、抗ったはずの女体が今はまるで彫像のようだ。熱く滾る欲望を押し付けようと、冷たい反応が返ってくるのみ。
ただ、ギシギシと空しくベッドが軋むだけ。汗ばむ肌に粘着するように絡む唾液だけ。私の咆哮と嗚咽が混じった声が虚空に吸い込まれていく。私は必死に愛を訴え続けた。
「プリムラ!愛している!!私を拒まないで!!」
リンドバルドは腰を揺する度に鈍い音が響く。
プリムラの瞳には星空が映っていた。自分の上で喘ぐ男ではなく、虚空を見つめている。
「こんなに愛しているのに……」
彼の手が乳房を強く掴みすぎたせいで血が滲む。それでも彼女は表情を変えない。まるで陶器の人形が破損したかのような痛ましさだけがそこにあった。
リンドバルドは絶頂の瞬間、泣きながら種を放った。
プリムラの子宮に精を注ぎ込むという行為は、本来は至上の悦楽であるべきなのに――返ってくるのはただ空しさだけ。
「孕め……早く私と運命の鎖で繋がれ……」
精を吐き出しながら繰り返す祈りは狂気じみていた。そしてプリムラの白い胸に自分の顔を押し当てながら再び猛りを打ち込む。破瓜の痛みによる自然な痙攣すら起きない。ただ肉を割かれ押し潰される虚しい音だけが部屋に満ちる。
「お願いだ……!私を求めてくれ!」
欲望は噴き出すばかり。だが、肝心の番は死人のように反応しない。
竜の咆哮は次第に啜り泣きに変わる。
「どうすれば私の愛を受け入れてくれるんだ……!」
涙がプリムラの頬に落ちる。その温度だけが唯一偽りのないもののように見える。だがその雫さえ、彼女の凍った心には温もりの一つ与えなかった――
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神龍は元凶たるリンドバルドへの沙汰を出さなかった。
ルビアは第六感が警告する悪寒に突き動かされ、プリムラの部屋へ足早に向かった。
扉の前には血を流し倒れる衛兵。そして、室内から耳を劈く咆哮が轟いた。
「!?」
ノックもせず突入すると――そこには最悪の光景が広がっていた。
リンドバルドがプリムラの上に跨っている。弟の腕が彼女の華奢な肩を拘束し、腰を激しく動かす様は獣の所業だった。
プリムラの瞳は虚ろなままどこか遠くを見つめている。口元からは血混じりの泡が垂れていた。リンドバルドの叫び声と肉のぶつかる音だけが部屋中に響き渡る。
「……は?」
理解が遅れた。声が震えたのは怒り故か絶望故か。
「やめなさい、リンドバルド!!」
全力で。衛兵を集めリンドバルドを拘束した。
「やめろ!!私とプリムラは愛し合っているんだ!!」
引き剥がそうにも、負傷したルビア達ではリンドバルドを抑えきれない。
それ程、『運命の番』を持った竜の力は強大であった。
「おや、騒がしいな」
静寂を裂く声にリンドバルドが狂乱の表情で振り返った。神龍シルヴィナが静かに室内に佇んでいる。彼女の金瞳が細まり、惨状を一瞥した。
「……神龍様?」
ルビアが血塗れの衛兵を押し退け前に出る。リンドバルドに殴打され、癒えきっていない右眼の眼帯から痛々しい出血があった。
シルヴィナは血に濡れたプリムラを見下ろし鼻で笑った。
「やれやれ。獣以下だな。貴様が最も忌むべき手段で『番』を汚したか」
言うが早いか、シーツでプリムラを包んで抱きかかえる。
「違います!私は愛を――!」
「喚くな」
シルヴィナが軽く手を払う。するとリンドバルドの身体が空中で縛り付けられた。
竜の爪が虚しく空を切り、呻き声を上げる。
「神龍!プリムラを返せ!」
「私が関与するのは番への暴力の抑止だ。番に負担を強いる行為は制限させてもらうよ」
行為自体は止めないがね。
プリムラを抱きかかえるシルヴィナの冷たい声に、リンドバルドが絶叫する。
「やれやれ、やかましい伴侶だ。この子を休ませる別室は何処だ?」
メイドの一人が慌てて神龍を案内するが、ルビアは声を低くして告げる。
「知っていたのですね。弟の蛮行を」
「夫婦の営みを止める必要があるのかい?」
――これが、正常な夫婦関係?
ルビアは怪我の痛みが吹き飛び激高した。
「この暴力を見て、営みと言えるのですか!?」
「愛が形骸化しても権利は残る。お前たちの論理ではそうなのだろう?
そうやって、力で弱小種族を捻じ伏せた。
私はお前たちに合わせただけ。この程度、許容すれば良い」
ルビアはシルヴィナの襟元を掴み上げた。眼帯の下の傷口が裂け、鮮血が滴る。
リンドバルドをああもいとも簡単に捕縛できるのに。どうして。
「止められるのに止めなかった!それは許容を超えています!」
「ふむ?」
シルヴィナは表情を変えない。
「『運命の番』は同意そのものを歪める!それが分かっていて放任する理由は何ですか!?」
「世界の均衡を守るためだ」
彼女の声音は湖面のように平穏だった。
「お前たち竜族が『番』に過剰執着するのは抑制不能の本能。それを完全に排除すれば暴走は確実。結果として地上に甚大な災厄を招く。
今のところ『生殖行為』を通じて衝動を発散させることは最低限の妥協点だ」
「妥協点だと……!」
「下手に拘束すれば、無用な死者を出すだけ。適度に発散させてやれ」
ルビアの手が震えた。目に映るプリムラの姿は惨憺たるものだった。
シーツを被せられているとはいえ、首筋には紫斑が浮かび、裂けた衣服からは肋骨が浮き出た痩せた腹が覗いている。性行為中の激しい抱擁で骨が折れた痕だ。
痛いだろうに、屈辱だろうに。
――プリムラはただ、虚空を見つめるだけ。
「プリムラは……もう壊れてしまった……」
ルビアの声が掠れた。
「精神も……肉体も……全部……」
「哀れよな」
シルヴィナの呟きに初めて感情の欠片が混じった気がした。
血が滲むほどに拳を握るルビアや、周囲に聞こえるようにシルヴィナは告げる。
「愚かな番のお陰で、この人間の番は天寿を全うする前に命が消えるかもね」
竜族に属する者は皆、その意味を悟った。
リンドバルドは、その命を徒に削ったのだ。
「ああ。あと、リンドバルドの番は産み落とす子によって命を削られる。つまり、リンドバルドは自らの種族と番、双方を破滅へと導く訳だ。
この意味を、お前たちが理解できるかは分からないがね」
それを分かっていながら――弟は己の欲で無理矢理抱いた。
その罪悪感は計り知れない。
ルビアは、必死でリンドバルドの蛮行を止めたが叶わなかった。
だが、もし自分の説得で止まっていたら――
この子はもう少し長く生きられたかもしれない。
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なあ、人の子よ。
お前は運命の番に則って、かの狂った黒竜を愛するか?
あ奴はお前が苦痛で見悶える程、愛を感じるそうだ。
お前を想う者をあの者は奪い続けるぞ。
その愛に準じるか?
或いは――
その愛に応じ、抗うか?




