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071 恐怖と異常

「たしかに」

「それはそうじゃな。ガッツも上手いことを考えたものよ」


 そう。オレたち勇者パーティのハッテンバロー大要塞への投入は、もう国によって決められたことだった。


 オレはもともと王都のスラムの出身だ。魔族と戦争していることは知っていたが、それがどんな状況なのかは知らない。


 だが、みんなの話を聞いていると、どうやらハッテンバロー大要塞は今、かなり疲弊しているらしい。


 オレには地理感覚もないからよくわからなかったが、ハッテンバロー大要塞というのは、かなり突出した位置にあり、いろんな場所を襲う起点になっていた場所のようだ。


 もちろん、そんな厄介なハッテンバロー大要塞なんて、人類側も放置できない。


 これまでにも何度も、それこそ数えるのも億劫になるほど攻略部隊が組まれてハッテンバロー大要塞を攻めたが、それでも何百年と人類側の猛攻を防いできたのだ。


 キャメロンも言っていたが、難攻不落という言葉は、このハッテンバロー大要塞から生まれたものらしい。まあ、それだけやべーところってことだな。


 でも、王国の上層部は、魔王討伐が使命のオレたち勇者パーティを動員してでも、この機会にハッテンバロー大要塞を攻略してしまいたいようだ。


「なあ、本当に攻略できると思うか……?」


 オレは不安からついそんなことを口走ってしまった。


 しかし、やめようという意思とは裏腹に、口は回り続ける。


「ハッテンバロー大要塞ってのは、それこそ人類が協力しても何百年も落とせなかったところなんだろ? それに、キャメロンも魔族側の罠の可能性もあるって言ってたじゃないか。本当に、そんなところに乗り込んで大丈夫なのか?」


 勇者に選ばれたオレが、こんな弱気なことを言うべきではないことはわかっている。たとえ魔族側の罠だとしても、それを喰い破ってやるくらいの気概が必要だということも。


 でも、怖いんだ。


 そう。勇者だなんだっていったって、オレだってただの一人の人間だ。死ぬのは怖いし、死ぬような目に遭うのだって嫌だ。


 だが、オレはもともと貴族の屋敷から盗みを働いた死刑囚。勇者という義務を放棄した先に残っているのは、死でしかない。


 だから、オレが生き残るには、魔王って奴を倒すしかないんだが……。そう簡単にできるとも思えない。


 それに、ただの盗人だったオレには、命のやり取りなんて重すぎる。それがたとえ魔族や魔物だったとしても。


 本当に、なんでこんなオレが勇者なのかわからないよ。神様は目が曇ってるんじゃないか?


「そういえば、ガッツはまだ童貞だったな。戦争に大丈夫なんて保証はどこにもないぞ? どんな英雄でも死ぬときはあっさり死ぬし、死ぬ気で戦えば、意外と生き残れたりする。そんなものじゃわい。ま! そんなに怯えるでない。すべては神の差配よ」

「ベルリッヒンゲンの言う通りだ。ガッツは勇者としての務めを果たせばいい」


 二人とも簡単に言ってくれるなあ……。これが魔族との戦争経験者か。


「三人とも、何を話しているのかしら?」

「フィルレイン……」


 気分が暗くなりかけたその時、ちゃんと綺麗にして着替えてきたらしいフィルレインが登場した。


「おう、まな板女か! まさか王族が粗相するとは思わなんだぞ! 股の締りが悪いのか?」

「うわぁー……」


 すげえな、ベルリッヒンゲンは。容赦がないというか、エルフとドワーフの確執を知らなくても女の人、しかも仮にも王女様にかける言葉じゃない。


 しかも、ベルリッヒンゲンの顔を見ると、悪意がないことがわかるから余計に手を負えないね。


 これにはさすがのキャメロンも気の毒そうにフィルレインを見ている。


「あなた、ぶっ飛ばしますわよ? 魔力を見る目を持たないドワーフには何を言っても無駄でしょうけど」

「ガハハハッ! それで、まな板女。お前はあの人間の少女に何を見たのだ?」

「私も気になるな。あの少女が卓越した治癒魔法使いであることはわかったが、フィルレインがあんなにも取り乱すなど予想もしていなかった」


 ベルリッヒンゲンとキャメロンの問いかけに、フィルレインは自分の体を抱くようにして静かに口を開いた。


「あれは……異常よ。才能だとか、特殊という言葉でも説明が不可能だわ……」

「異常……?」

「見て……」


 フィルレインは、オレたちに見えるように右手を伸ばしてみせた。その手は、小刻みに震えている。


「こんな恐怖を感じたのは、初めてよ……」


 オレにはよくわからなかったけど、ジゼルがすごい治癒魔法使いだということは嫌でもわかったつもりだ。


 でも、それだけじゃフィルレインがここまで怖がっている理由がわからない。すごい治癒魔法使いが仲間になってくれる。それは喜ばしいことじゃないのか?


「わたくしは、エルフの王族であるハイエルフ。ハイエルフの定義にはいろいろありますけど、一つだけ欠かせない要素があります。それが、魔力を見る眼ですわ」

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