↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
70/73

070 ガッツ②

「はあー……」


 ハインドスクエアの領主、バラモス伯爵の屋敷に用意されたオレたちの部屋。その部屋に入った瞬間、体がガクッと重たく感じた。たぶん、精神的な疲れだ。


 まさか、こんな田舎のスラムにあんなすごい人がいるなんて……!


「いやあ、今回ばかりは死ぬかと思ったわい。ガハハハッ!」

「わたくしは、少し着替えに……」

「おう! 着替えてこい、まな板女! 臭くてかなわんわい」

「く……っ!」


 あーあ。みんな気付いてても言わなかったのに。ベルリッヒンゲンは容赦がない。


「二人に話があるんだ。フィルレインも着替えが済んだら話を聞いてもらいたい」


 フィルレインが恥辱に震えながら、自分の部屋に戻っていくのを見送って、オレはキャメロンとベルリッヒンゲンを話に誘った。


「ふぁー……」


 質のいいソファーに座ると、そのまま腰がとろけそうになるのを感じる。やっぱり疲れているみたいだ。


「ふぅ……」

「こりゃあ極楽じゃわい。もしかしたら、ここは死後の世界かもしれんぞ?」

「縁起でもない」


 オレと同じく、疲れた様子でベルリッヒンゲンに文句を言うキャメロン。


「でも、本当に死んでもおかしくなかったよ……」

「そうじゃの! ガッツのおかげで命拾いしたぞ!」

「ありがとう。そして、すまない。私が迂闊なことを言ったせいで……」


 オレは「本当だよ」という言葉を努力して飲み込んだ。それだけ、キャメロンが家の権力を持ち出した時はどうしようかと思ったほどだ。


 スラムの人間は、基本的に貴族が嫌いだ。


 しかも、腐蝕銀鎖というマフィアはこの街を治めるバラモス伯爵と非公式とはいえ二度も戦闘を経験しているらしい。貴族の権威なんて、マイナスにしか働かないだろう。


 でも、キャメロンも少し頭の固いところはあるけど、バカじゃない。自分の発言が何をもたらしたのかわかっている。


 だから、オレからは何も言わない。キャメロンの家の権威が有利に働くこともあるしね。


 例えば、同じ貴族であるバラモス伯爵には効果大だ。しかも、オレは救世の剣と王様から認められた勇者である。権威で偉ぶっている奴には効果覿面だ。


「ああ、そうだ」


 オレは目の前のローテーブルに置かれたベルを鳴らす。


 すると、部屋の隅に控えていたメイドさんが一人、オレたちの近くにやってきた。


「何か御用でしょうか?」

「バラモス伯爵と面会したい。日程の調整をお願いできる? それと、お茶と菓子をください」

「かしこまりました」


 メイドさんが部屋から出ていくのを見送っていると、入れ違いに他のメイドさんが大きなワゴンを押してやってきた。たぶん、お茶とお菓子だろう。余計なことを言っちゃったな……。


「お? 約束を守るのか?」

「ああ。そうしないと、信頼は得られないからね」


 ベルリッヒンゲンの言葉に頷けば、彼は大きく首を横に振った。


「約束とは、守るためにあるのだ。守らない約束など、約束ではない。信頼がどうとか関係なかろう?」

「そっか……」


 たしかに、そうかもしれない。


 ベルリッヒンゲンの言葉は直接的だけど、考えさせられることが多いなあ。


「失態を雪ぐ機会を貰いたい。バラモス伯爵との話し合いは任せてくれ」

「期待しているよ」


 こういう話し合いは、同じ国の貴族であるキャメロンに任せた方がいいだろう。貴族同士、勝手もわかっているだろうしね。


「しっかし、見た目は幼いながら、ありゃあ見事な治癒魔法使いじゃったな。まさか、魔法一つでこのパーティが封じ込められるなど、微塵も予想が付かんかったわい。ワシもまだまだじゃのう」

「そう、だね……。ぜひとも味方になってほしいよ」


 オレはまだまだ未熟者だけど、他のメンバーは人類の最高峰を集めたパーティだ。それがまさか魔法一つで、それもオレよりも年下の女の子一人を前に敗れるとは思いもしなかった。


「あの少女も、ガッツと同じく選ばれた人間なのだろう」


 若干選民思想のあるキャメロンですらも認めざるを得ない相手。それが、あのジゼルという凄腕という言葉すら霞むほどの腕前の治癒魔法使いの少女だ。


「というかじゃな、あれは治癒魔法なのか? まったく動けんかったが? あんな治癒魔法なんぞ聞いたことも見たこともなかったぞ?」

「私も初見だ。治癒魔法には味方の動きを助けたり、敵の動きを阻害するものがあるとは聞いていたが、あのレベルのものは聞いたこともない」

「そうなんだ……」


 エルフのフィルレインや、ドワーフのベルリッヒンゲンが言うには、エルフやドワーフにも治癒魔法使いはいるが、人間に比べて数が極端に少ないらしい。


 だから、母数の多い人間の中から優秀な治癒魔法使いを探していたというわけだ。


 あの、王城でこの国一番の治癒魔法使いとして紹介されたおばあちゃんを見た時に二人がした失望の顔は、今でも鮮明に思い出せるほどひどいものだったよ。


「まあ、なんにせよ、オレたちがハッテンバロー大要塞を攻略するという目標に変わりはないんだし、攻略した時のご褒美が増えると考えたらいいんじゃないか?」

お読みいただき、ありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。

下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。

☆1つでも構いません。

どうかあなたの評価を教えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。