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069 僕とオーレリア

「クラウス、あなたはどう思いますか? 私は、なんとしてもジゼルを守りたいの! そのために、あなたの知恵を貸して!」


 クラウスは、腐蝕銀鎖の軍師的な立ち位置にいる知恵袋だ。もしかしたら、僕以上の妙案を持っているかもしれない。


 そんなクラウスの後ろには、弟子であるカンデラが控えるように立っていた。


「まずは、勇者を撃退できたことは上々ですな。そして、忘れがちですが、バラモス伯爵の動きを止めてくれるのもいい。勇者の言葉ならば、バラモス伯爵も無視はできませんでな。そして、ハッテンバロー大要塞の攻略。勇者の言いだしたことですが、この条件もいいですな。ハッテンバロー大要塞を攻略できるほどの実力があるのでしたら、聖女様を預けるのに力不足ということもありますまい」


 クラウスは、白く長いひげを右手でしごきながら語る。


「クラウスは、ジゼルをあの勇者に引き渡せと、そう言うの⁉」


 まるでなんでもないように語るクラウスに向けて、オーレリアは噛みつくように吠える。


「総長、総長も本当はわかっているはずです。聖女様の才能は、能力は、こんなところにはあってはならないと」

「そ、それは……」


 なぜか、クラウスの言葉でオーレリアがうろたえる。他のみんなも俯いてしまった。どうしたんだろう?


「あの自称勇者が本当にハッテンバロー大要塞を攻略できるかはわかりませんが、総長も、皆も覚悟を決めておいた方がよいかもしれません」


 覚悟?


「では、御前失礼します」


 それだけ言うと、クラウスはこちらを心配そうに見ているカンデラを連れて、ガッツの後を追うように門から出ていった。


 残されたのは、沈黙が降りた場だった。みんなが黙って僕とオーレリアを交互に見ている。屋敷を取り囲むように勢揃いしていた腐蝕銀鎖のファミリーのみんなもまるで声を出せば殺されてしまうかのような、そんな緊張感さえ伴って僕たちを見ていた。


「ジゼル、今日はずっと一緒にいてくれる?」


 やがて沈黙を破ったのは、まるで懇願するように弱弱しい声で呟くオーレリアだった。


「一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝るの。いい?」

「いいよ」


 僕が頷くと、オーレリアは抱きついていた僕の体を解放し、僕の手を引いて屋敷へと戻っていく。


 いつもはドアマンが開けてくれる玄関のドア。今回は爺が開けてくれた。


 そして、僕たちの後を追うようにカンナと爺が付いて来る。


 やってきたのは、オーレリアの部屋だった。


 僕はオーレリアに求められるがままに椅子に座った。僕とオーレリアが椅子に座ると、中年のメイドさんがすぐにテーブルにお菓子とお茶を用意してくれた。


 たぶん、このメイドさんも外の異常は知っているだろうに、いつも通りに見える。さすが、総長であるオーレリアのメイドさんだね。優秀だ。


「ジゼル、今日はありがとう。ジゼルのおかげで助かったわ」


 ちょっと悲しそうな、それでも笑顔を浮かべてオーレリアが言った。


「勇者たちの目的は僕だったみたいだし、今回の事件の原因は僕だよ」


 なんだかオーレリアにお礼を言われると、心がくすぐったかった。


「むしろ、迷惑かけちゃってごめんなさい」

「いいのよ。私たちは家族じゃない」


 腐蝕銀鎖のみんなはファミリーであり、家族だ。それでも、オーレリアが僕に向けてくる感情はちょっと違う気がすることに僕は気付いていた。


 明らかに特別扱いだからね。鈍い僕でもさすがに気が付くよ。


 そのことがなんだか嬉しくて、なんだか恥ずかしかった。


「私ね、ずっと妹が欲しかったの。小さい頃、お父様とお母様にねだったこともあったわ。今思えば、お父様もお母様も苦笑いしていらしたわね。懐かしい……」


 昔を思い出して苦笑するオーレリア。


 妹か。年下の女の子の家族のことだよね?


 実際は違うけど、オーレリアは僕のことを年下の女の子だと思っている。だから、僕はオーレリアの妹分だ。カンナの言葉を借りるなら、この腐蝕銀鎖のナンバーツーらしい。


 そして、オーレリアは、僕のことをまるで本物の妹のようにかわいがってくれる。


 だから僕はオーレリアのことを気に入っているし、好きなんだと思う。


 もちろん腐蝕銀鎖のみんなのことも気に入っているよ?


 でも、オーレリアにはなんだか僕は特別な気持ちを持っているように思う。自分の心のことなのに、よくわからないけど……。


 この日から、オーレリアは特別僕をかわいがり始めた。いつも一緒にいるし、隙があってもなくても抱きついてくる。これまでは特別な日しかなかった浴場も毎日解放された。


 それは、まるで僕が勇者たちと旅立つことになることを知っているようだった。


 勇者たちと一緒に冒険に出ることになったら、命懸けの毎日になるだろう。


 まぁ、僕にはそうなった時のための秘策があるんだけど……。問題はオーレリアが受け入れてくれるかだよなぁ……。


 受け入れてくれるといいけど……。

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