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068 勇者撃退

 たしかにジャックの言う通りかもしれない。


 ジャックの言葉を借りれば、勇者というのは人類の希望らしい。そんな勇者が聖剣を持たずに死に、その聖剣が腐蝕銀鎖のアジトから見つかったら面倒なことになるだろう。


「そう、だな……」


 ガッツもそのことに気が付いたのだろう。すごすごと聖剣を腰に戻す。


「だが、それじゃあオレの気が済まない! せめてこれだけは受け取ってくれ! 少ないがオレの全財産が――――」


 そう言って、ガッツは後ろ腰に着けていたポシェットを外そうとする。


「やめろ! 我らは、そんな端た金が欲しくて聖女様を条件付きとはいえ、貴様らに預けようとしているのではない! すべては聖女様のご意志だ! あまり我らを愚弄するなよ?」

「そ、そんなつもりじゃあ……」


 僕自身は貰えるものは貰っておけばいいと思うのだけど、フェイディにとってはそうではないらしい。その気持ちはみんなも同じなのか、フェイディの言葉に頷いている者たちも数多くいた。


 きっと、これを矜持というものだろう。今までよく理解できない感情だったけど、ちょっとかっこいいかも。


「わかった……」


 すごすごと外しかけていたポシェットを腰に戻すガッツ。なんだかその姿はちょっと情けなく見えた。これが本当に勇者の姿なのだろうか。


「話は以上です! 立ち去りなさい!」

「ああ……。行こう、みんな」


 オーレリアの強い拒絶によって、ガッツたちは少しふらふらとしながら踵を返して立ち去っていく。


 正直、僕にすら勝てないのだ。ハッテンバロー大要塞を攻略するなんて、夢のまた夢だろう。


 勇者たちの姿が完全に見えなくなると、場を支配していた緊張が少し緩んだ気がした。それだけみんなが、勇者たちを警戒していたということだろう。


「なんとかなったね」

「なってないわよ! ジゼル! なんであんな提案を勝手に飲んだのよ! あいつらがその、はってんば? ようさい? を攻略したら、ジゼルが連れて行かれてしまうのよ?」


 僕の言葉を即否定するように叫ぶオーレリア。


 僕はハッテンバロー大要塞にいたから、難攻不落の大要塞だと知っている。たぶん、ガッツたちが攻略を成功させる確率が限りなくゼロに近いことも。


 だけど、そんなことを知らないオーレリアからしたら、僕が連れて行かれる可能性がある条件を飲んだという時点で許せないのだろう。


 周りにいるジャックたちも納得いっていないのか、少し厳しい顔をして僕を見ていた。


「大丈夫だよ、みんな。さっきガッツが言っていたでしょ? ハッテンバロー大要塞は七百年間で一度も陥落したことないんでしょ? なら、大丈夫だよ」

「だがよお、ジゼル。ハッテンバロー大要塞の攻略は、あいつらが自分から出した条件だぜえ? おそらくだが、攻略の鍵を持ってるんじゃねえかあ?」


 ジャックに言われて気付かされた。


 そうだった。ガッツが自分から言い出した条件だから、もう攻略法を知っている可能性もあるのか……。


「うーん……」


 でも、攻略法を知っている程度で、あのハッテンバロー大要塞が攻略できるだろうか?


 僕はハッテンバロー大要塞がただの丸太小屋だった時から知っている。つまり、ハッテンバロー大要塞の造りを知っている身だ。ハッテンバロー大要塞には抜け道や、もしもの時のための秘密逃走経路もなかったはずである。ハッテンバロー大要塞を攻略しようと思えば、正面から魔族たちと闘うしかない。


 そして、仮にもハッテンバローは大要塞と呼ばれるほど大きい。その中で暮らしている魔族や魔物の数は膨大だ。それらがすべてがハッテンバロー大要塞の防衛をしているわけじゃないけど、守備兵の数だけでもかなりの数である。


 そんな膨大な数に守られたハッテンバロー大要塞をたった四人で攻略しようなんて無謀を通り越して自殺行為である。


 だから、何の心配もないんだけど、それを説明すれば、なぜ僕がそのことを知っているのかとなってしまう。


「ぐぬぬ……」


 みんなとここまでいい関係を築けたんだ。それを壊してしまいたくない。そんなこと、考えただけでゾッとする。


「たぶん、大丈夫だよ」


 だから、僕は何の根拠も示すことのできないまま、そう言うことしかできなかった。


「たぶんって……」

「聖女様……」

「えー……」


 バーグ、フェイディ、タンゴがなんだか残念なものを見るような目で僕を見ていた。


「遅れまして、申し訳ありません」


 そんな時だった。クラウスが裏門の方から歩いてくる」


「やれやれ、歳は取りたくないものですな。状況は、兵を指揮していたカンデラから聞いております。厄介なことになりましたの」


 腐蝕銀鎖のファミリーが妙に統率されている。飛び出して勝手に攻撃したりするニンゲンがいないと思ったら、裏でカンデラが指揮を執っていたようだ。


「しかし、聖女様のお力は素晴らしい! まさか、勇者すら圧倒されるとは! カンデラに話を聞いた時は興奮し、この目で直に見たかったと残念に思ったものです」

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