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067 ジゼルの決意

「待ってください! ガッツは救世の剣なしでハッテンバロー大要塞を戦い抜くつもりですか⁉」


 エルフの少女が驚きの声をあげる。


 約束を果たす質として救世の剣を僕たちに預けるんだから、ガッツは救世の剣を使えないね。どうするんだろう?


「そう、なるね。でも、それぐらいしないと、オレたちの強さは劇的に上がらないし、信じてもらえない。この人たちの信頼を得られないよ」

「そうかも、しれませんが……」

「勇者が救世の剣を使わなくてどうする?」

「ガハハハッ。ワシはガッツの考えを支持するぞ! どうせ斬り捨てられるなら、魔族と合戦するのも一興よ!」


 ガッツの決意は固そうだね。


 それに、ドワーフのおじさんの言う通り、このままではガッツたちは腐蝕銀鎖の手によって始末されてしまう。もう手段を選んでる場合ではないのだろう。


「どうだ? これがオレの覚悟だ!」


 そう言い切ったガッツ。その目はまっすぐに僕を見ている。まるで僕に答えを出せと言っているみたいだった。


 まぁ、妥協点としてはこのあたりなのかな。


「いいよ」


 僕はコクンッと頷くことで応える。


 そして、僕はガッツたちを拘束しているスピリットバインドを解除する。


「おお!」

「ゆる、された……?」

「く……っ」

「おう? よいのかの?」


 光の拘束が解けて、ガッツたちは自由を取り戻した。


「ジゼル⁉」

「おまッ⁉」

「聖女様⁉」

「えっと……?」

「え、あ、え……?」


 僕が勝手に決めてしまったからか、オーレリアたちが驚いて武器を構える。


 僕は横にいるジャックの弓に触れると、そっと下に引いた。


「ジゼル……?」

「いいんだ。みんな、僕のためにありがとう。でも、僕はこの人たちが約束を守ってくれたら、行こうと思うんだ。だから、みんな、僕のために死ぬなんて言わないでよ」

「ジゼル……」

「聖女様……」


 もう背後から抱きついてくるオーレリアの力はすごいことになっている。僕だから耐えられるけど、普通のニンゲンの少女だったら耐えられないんじゃないかと思うくらいだ。


 僕を見下ろすジャックもバーグも情けない顔をしているし、フェイディは目頭を摘まんでいた。タンゴなんて間抜けな顔をさらしていた。


 それだけ、僕の言葉が意外だったのかな?


「みんなが、僕のことを大事に思ってくれるのは嬉しいよ。でも、僕だってみんなに死んでほしくないよ。だから、いいんだ」

「聖女様……!」

「オラたちのために、そこまで……!」

「でも! でも……」

「こんなのって……!」


 先ほどまで、あんなに盛り上がってたみんなが、ずーんと肩を落として言葉を失ってしまう。


「ジゼル、考え直して!」

「そうだよ。おらたちには、ジゼルが必要なんだよ」

「そうだぜえ! それによ、魔王討伐ってのは必ず成功するわけじゃねえんだ。むしろ、失敗している勇者の方がはるかに多いんだぜえ? こんなの、死にに行くようなもんだあ!」


 オーレリアたちが、僕の翻意を促してくる。


「でも、もう決めたことだから」

「ジゼル……。本当にいいの?」

「聖女様、我らのことはお気になさらずともよいのですよ? 皆、自分の心に従って生きているのです。このことで聖女様のことを快く思っていない者などおりません」

「そ、そうです! 俺だって、やれます!」


 きっとフェイディの言う通り、みんなが僕のことを思っている心は本物だ。


 そんなみんなだから、僕は死なせたくない!


「僕だって自分の心に従った結果だよ。だから、僕はガッツたちが約束を守ってくれたら、行くよ。オーレリアたちは、何かガッツたちに約束してほしいこと、ある?」

「ジゼルを傷付けないこと! 体だけじゃないわ! 心もよ! これだけは譲れないわ!」


 僕の意志が固いのがわかったのだろう。僕が問いかけると、オーレリアは泣きながら叫んだ。見上げると、顔をぐしゃぐしゃにしたオーレリアと目が合った。オーレリアは、自分の顔を隠すように僕の髪に顔を突っ込んだ。頭皮が濡れるのを感じる。これって、鼻水じゃないよね?


 ちょっと心配になる。


「ジャックたちは、ガッツに何か条件はないの?」


 勇者に条件を付けられる機会なんてもうないだろう。


 だからジャックたちにも話を振ってみる。


「あのよお、ジゼル。俺たちは、何か貰うためにジゼルを差し出すわけじゃねえんだ。条件なんて付けられるかよ!」

「そうだね」

「このフェイディも辞退します」

「お、俺も、です」


 みんなけっこう謙虚だよね。勇者が魔王様を倒したら、おそらくかなりの報酬を貰えるだろう。それを巻き上げられるまたとない機会なのに、しないんだね。


「というわけで、キミたちがハッテンバロー大要塞を攻略したら、付いて行ってあげるよ」

「あ、ああ! じゃあ、これが約束の救世の剣だ」


 ガッツが腰の剣を鞘ごと抜こうするので、僕は首を横に振った。


「いらないよ」

「え? だが……」

「あのなあ、ちったあ考えろ。もし、お前らが失敗したら、なんで俺たちが勇者の聖剣を持ってるんだって詰められるだろうが。そんなもんいるかよ」

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