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065 ガッツ

 オレ、ガッツは、思いもよらないところで人生最大のピンチを迎えていた。


 目の前には、人類の希望である勇者パーティであるオレたちを殺すというありえない選択をした腐蝕銀鎖というマフィアの構成員がぶち上っている。


 オレは王都のスラムの生まれだ。スラムの流儀はわかっているつもりだったし、いざとなれば仲間たちもいる。


 それに、言っちゃあれだけど、スラムの聖女なんて最初からあまり期待していなかった。国一番といわれているおばあちゃん治癒魔法使いにも会ったけど、オレたちの求めるレベルに達していなかったから。それに、過酷だろう旅に付いてこられるとも思えなかった。


 もう治癒魔法使いは自分たちで育てよう。オレたちの中で、そんな結論が出ていた。


 だから、素質のありそうなスラムの聖女に会いに来たわけだけど……。


 まさか、一瞬にして無力化されるとは思わなかった。


 オレ自身はまだまだだけど、他の三人、キャメロンも、ベルリッヒンゲンも、フィルレインも超一流の強さを持つ人類の上澄み中の上澄み。頂点だ。


 オレが拘束されるのはわからなくもないけど、他の三人も拘束されるなんて思いもしなかった。とくにハイエルフであるフィルレインは魔法に長けている。まさか、そんなフィルレインさえ拘束されているとは思わなかった。


 こんな強力な魔法を使えるんだ。絶対に仲間にしたい!


 でも、もう事態はそんなことを言っている場合ではないところまで進んでしまった。


 今はどうにかして処刑を避けないと!


「まさかこんなところに、とんだバケモノがおったもんじゃの! ワシらの冒険は始まる前に終わってしまったか。まあ、これも人生か! そうじゃろ、まな板女?」

「話しかけないでくれる? 今、精霊たちにお願いしているの」

「ガハハハッ! エルフは往生際が悪いのう。まあ、それも人の性か。ワシは辞世の句でも考えるかの」


 もうベルリッヒンゲンは諦めちゃったみたいだし、フィルレインがこの状況をどうにかできるとも思えなかった。


「お、お前たち! 自分が何を言っているのかわかっているのか⁉ 我らは栄えある人類の希望である勇者パーティだぞ⁉ それを殺すだと⁉ そんなこと許されるわけがない! お前たちは自殺願望でもあるのか⁉」


 キャメロンの言葉に、しかし、腐蝕銀鎖の面々は、その末端の兵に至るまで、まるで動揺していなかった。


 もう彼らは、もう結論を出してしまったのだ。


 今さら勇者の権威なんて意味がない。


「キャメロン! ここはオレに任せてくれ!」

「しかし……」

「頼む……!」

「わかった……。頼んだぞ、勇者よ」

「ああ!」


 とはいえ、オレだってこの場を丸く収める方法なんてすぐに思いつくわけがない。どうにかしないとと考えれば考えるほど頭が空転する思いだ。


 そんなオレの耳にぽつりとした呟きが聞こえた。


「みんなには、死んでほしくないな……」


 突破口が、見つかった!


 あとは全力で手を伸ばすだけだ。



 ◇



「みんなには、死んでほしくないな……」


 それは、僕の意図しないところで、勝手に口が紡いだ言葉だった。


 もしかして、僕の本心は――――。


「ジゼル……」

「お前ってやつはよお……」


 オーレリアが後ろからギュッと僕を強く抱きしめ、ジャックが僕の頭を撫でる。


「気にしなくていいんだよ、ジゼル。おらたちは世界が相手だって負けないんだから!」

「お、俺もがんばります!」

「聖女様、そんな顔をしないでください。私たちは、もう覚悟済みです」

「私も戦いますよー!」


 バーグが、タンゴが、フェイディが、カンナが覚悟を決めた「やっちゃうぞ!」という顔をしていた。


「聖女様は、こんな時までオラたちのことを……!」

「ここで聖女様に甘えちゃいけねえよな……」

「やらせてくだせえ!」

「ここで引き下がるなんてできるかよ!」

「そうだ!」

「子どもは、大人に頼ったっていいんだ!」

「俺たちはファミリー、家族!」

「腐蝕銀鎖は永遠だ!」


 集まったみんなも思いの丈を叫ぶ。その中には一つも僕を否定するものは一つもない。


 だって、世界が相手なんだよ?


 この前だって、伯爵が相手だからって手を引いたのに。なんで今度は世界が相手だっていうのに、そんなに笑っていられるの?


 死んじゃうんだよ?


 それに、命は一つしかない。


 死んでしまったら、さすがの僕にも治すことができない。そのことはみんな知ってるはずなのに……。


 なんで、そんなに温かい目で僕を見るの?


 中には僕を心配させまいと力コブを作ってるニンゲンもいるし、武器を突き上げているニンゲンもいる。


 僕はスライムだ。腐蝕銀鎖のみんなは知らないけど、ニンゲンの敵である魔物なのに……。


 それに、僕はスライムだから、家族というものを知らない。スライムは細胞分裂で増えるからね。


 家族って、ファミリーって、こんなに温かいものなの?


 僕はこんなに温かいものがあるなんて、失うことが怖くなるものがあるを知らなかったよ……。

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