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064 処す? 処す?

 僕の魔法で簡単に捕獲できてしまったお客さんたちの正体は、なんと勇者らしい。勇者と言えば、たくさんの魔族と魔物を殺して、ついには魔王様まで殺しちゃった危ない奴だと思ったんだけど……。


「これが本当に勇者なの?」

「これじゃねえ! オレは本当に勇者なんだって! なんか誤解があるみたいだ。とりあえず、これを解いてくれないか? オレたちは話し合いに来ただけで、最初からやり合うつもりなんてなかったんだって!」


 僕が疑いの目で見ると、勇者らしき少年がなんだか言い訳じみたことを言っていた。


「ああー、話を戻すぞお? こいつらの目的は、スラムの聖女であるジゼルらしい」

「処しましょう」


 ジャックの言葉を遮るように、オーレリアが決断を下した。その判断を支持するようにフェイディとバーグ、タンゴも頷いている。


「いやいやいや、ちょっと待ってくれよお! 言っておくが、俺だってこんなめんどくせえ問題は殺して終わりにしてえよお? だがよお、相手は腐っても勇者だぜえ? その動向は国でも確認してるだろうよお。この南スラムで消えれば、当然疑われるのは腐蝕銀鎖だ。これで、ジゼルの実力が大したことなくて、勇者たちが諦めるってのが一番よかったんだがあ……」


 みんなが僕を見て、次に光の輪に拘束されている勇者と名乗る集団を見る。それから、なにか残念なものを見るようなんで僕を見た。


 なんだか心外である。


「逆に考えてみてよ。僕に負ける程度の奴が勇者なわけがないよ。つまり、この勇者は偽物だよ」

「そうだったらよかったんだがなあ……」


 ジャックが溜息を吐きながら答える。


「いいか、ジゼル? お前の魔法の腕前は、それだけ突き抜けてやがるんだよお。それこそ、勇者と渡り合える程なあ。そして、その実力を見ちまった勇者たちは、ぜってえにジゼルを仲間にすることを諦めねえぞお?」

「えぇー……」


 それって、やっと南スラムという安住の地を見つけたというのに、僕は勇者に連れて行かれるということだろうか?


 しかも、勇者ということは、目的は魔王様の討伐のはずだ。


 魔物である僕が魔王様に盾を突くの? なんでこんなことになったんだ……。


 僕は思わず俯いてしまった。


「やっぱり処しましょう!」


 俯く僕を見ていられなかったのか、オーレリアが僕に抱きつきながら言う。


「そうだね!」

「それがよろしいかと」

「お、俺もそれがいいと思います!」


 オーレリアの言葉に即座に同意するバーグとフェイディ、タンゴ。その気持ちは嬉しいけど……。


「ちいと待ってくれやあ」

「何? ジャックは反対なの?」

「うぐっ」


 声をあげたジャックだけど、オーレリアに睨まれて苦しそうな声を漏らす。


「さっき言ったろお? あの勇者はぜってえに国に監視されてやがるってよお。そいつを殺しちまったら、どんな報復がくるかわかんねえぞ⁉ そうじゃなくてもよお、勇者ってのは人類の希望だぜえ? このクソみてえな戦争を終わらせてくれるかもしれねえ。こいつにそれができるかどうかはわかんねえが、皆がそれを望んでやがる! もし勇者を殺しちまえば、腐蝕銀鎖は全人類を敵に回すことに――――」

「かまわないわ!」

「は? いや、だからなあ――――」

「かまわないと言っているのよ、ジャック! 腐蝕銀鎖はファミリー、家族よ! 家族を生贄に差し出せと言われても、私たちは決して頷かない! 私たちは、遊びで家族をやってるんじゃないわよ! 家族を守って死ぬ覚悟なんてとっくにしてるわ! そうでしょう?」

「そうだぜ、ジャックの旦那!」

「オラたちの覚悟をナメてもらっちゃ困るぜ!」

「んだな! 聖女様には返し切れねえ恩があるんだ!」

「聖女様のために死ねる! これ以上に幸せなことがあるか?」

「ねえな! そうだろう、兄弟?」

「あったりめえよ!」

「国が相手かよ? 誰だって来いってんだ!」

「全人類が敵だってよ? 滾るな!」

「へへ、戦うのはいいけどよ? 勝っちまってもいいんだろ?」

「がははっ! いいな! やってやろうぜ!」


 オーレリアの問いかけに答えるのは、いつの間に集まっていた腐蝕銀鎖のファミリーたちだ。


 彼らは、本気で僕のために人類の敵になろうとしている。


 決して勝てはしないだろう。きっと後世で散々バカにされるはずだ。


 でも彼らは、そんなこと知ったことかと言わんばかりに、大声で叫ぶ。


 誰も、僕を売り渡そうなんて言い出さない。


 こんなことがあるんだ……。本当に、ニンゲンって不思議な生き物だ。


 もし僕に涙を流す機能があったら、きっととっくに流しているだろう。それだけ僕の心は溢れ出しそうなほどいっぱいになっていた。


「ったくよお、俺が頭こねくり回して、どうにか衝突を避けようとしていたのがバカみてえじゃねえか」


 ジャックが天を仰いで頭を掻きむしる。


「いっちょ、やってやっか! 野郎ども、後悔すんなよ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

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