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062 新魔法

「ジゼル! なぜ来たんだ! 隠れて!」


 わたくしたちに不遜にも殺気をぶつけてきた人間の男が叫びます。


 しかし、わたくし、フィルレインは、そんな些事などどうでもよくなってしまいました。


 わたくしは、気が付けば腰が抜けて膝から崩れ落ち、ただただ茫然とジゼルと呼ばれた人間の少女から目が離せませんでした。


「な、なんて……。嘘、嘘よ……」


 それは圧倒的なまでの、暴力すら纏うほどの絶対的な魔力量でした。


 わたくしはエルフの王族である誇り高きハイエルフ。この目は人間には見えない魔力を見ることができます。


 自分の目を信じるとしたら、あのジゼルと呼ばれた少女は、歴代でも随一の魔法の使い手と言われるお父様の三、四倍以上の魔力量です。わたくしの十倍以上はあるでしょう。


 魔法の実力は魔力量だけで測ることはできませんが、ジゼルのそれはもはや畏敬の念を覚えるほどまでに突き抜けていました。


「あ、ぁ……」


 お尻が暖かく湿っていきます。エルフの王族が人前で粗相など憤死ものです。


 ですが、そんなことすらどうでもよくなるほどの衝撃をわたくしは感じていました。


 ジゼルこそが、聖女と呼ばれる存在だ。


 わたくしは、スラムの聖女などまるで期待していなかった。人類の最高戦力であるわたくしたちの足を引っ張らない程度の実力があればいいと思っていたが、とんでもない!


 ジゼルこそが唯一の至宝であり、わたくしたちなどせいぜい綺麗な色をしている石程度の価値しかない!


「ど、どうした、まな板女⁉」

「まさか、魔法か⁉」

「そんな!」

「ち、ちが――――」


 わたくしの醜態を見て、ベルリッヒンゲンとキャメロンが勘違いして武器を抜きます。ガッツも武器こそ抜いていませんが、相手の方を向いてしまいます。


 このままでは、誤解から戦闘になってしまう! 相手はわたくしたちが懇願して仲間になっていただくべき存在だというのに!


 こちらの二人が武器を抜いたことで、相手の拳闘士たちも殺気を帯び始めます。


 いけない! このままでは!


 その時、ジゼルは右手をゆっくりとこちらに向けるのが見えました。



 ◇



 なんだか僕が登場したことで一気に場の空気が変わってしまった。


 さっきまでは余裕な表情をしていたお客さんたちが、今では武器を抜いて臨戦態勢だ。その内、緑の服を着た人は一人でに座り込んでるし、よくわからない。


 そのせいで、今やいつ爆発するかもわからない状況だ。


「聖女様を守れ!」

「オラたちもやっぞ!」

「今こそ、恩返しの時だっぺ!」

「そうだ!」

「今やらなくて、いつやんだってばよ!」


 しかも、騒ぎを聞きつけてきたのか、腐蝕銀鎖のニンゲンたちが次から次へと武器を持って駆けつけてきた。


 もう本当に一触即発のピンチだね。


 だって、相手はジャックやバーグなどのスラムの二つ名持ちでも敵わないような絶対的強者だ。数を集めれば勝てるというものでもないだろう。


 このままだと、みんなが大怪我しちゃう。中には死んでしまう者もいるかもしれない。


 それは嫌だな……。


 だから、僕はお客さんたちに向けて右手を向けた。


 ここは新しく覚えた魔法の実験台になってもらおう。上手くいけば、一気に戦いが終わるし、怪我人も出ない。


 僕が右手を上げたからだろう。お客さんたちは警戒したようにビクッとしていた。


 でも、そんなことで僕の魔法からは逃げられないよ。


「スピリットバインド」


 そっと呟くと、光の輪がお客さんを拘束するように現れた。


「なぬ⁉」

「これは⁉」

「動けない……⁉」


 さすがにこれには驚いたのか、お客さんたちがなんとか体を動かそうとしているのがわかった。


 でも無駄だよ。


 スピリットバインドは、相手の動きと魔法を封じることができる。


 彼らにできるのは、お話しすることだけど……。この場合、お話というか命乞いになるのかな?


「どうなってやがる……?」


 呆然としたように呟くジャック。僕はその問いかけに答える。


「もう大丈夫だよ。もうこのニンゲンたちは動くことも魔法も使えない。あとは煮るなり焼くなり、好きにしてもいいよ」

「すごい……!」

「これはまた……」

「すごいんだなあ!」


 僕の言葉に、タンゴもフェイディもバーグも驚いていた。


「どうなってるんだ?」

「聖女様の魔法だってよ!」

「すっげー!」

「さすが聖女様だ!」

「聖女様、万歳!」

「「「「「ばんざーい! ばんざーい!」」」」」

「むふー」


 僕はすっかり一仕事終えた気分だった。


「さすがジゼル様です! かわいいだけではなく、こんなに強力な魔法まで使えるなんて! このカンナ、もう何度ジゼル様に驚かされたのかわかりません! これはぜひオーレリア総長にもお伝えせねば!」


 カンナは両手を組んで、まるで僕を尊敬するように見ていた。相変わらず、カンナはリアクションが大きいから見てて飽きないね。


「マズいことになったかもしれねえ……」


 みんなが歓声をあげる中、ジャックの悲壮感を纏った呟きがやけに大きく耳を打った。

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