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061 ジャック④

 勇者。


 遠い昔、魔王を討伐した英雄を指す言葉だ。それにあやかって、魔王討伐を目指す者を勇者と呼ぶことがある。


 勇者を名乗ることは簡単だ。なんなら、俺だって今からでも勇者を名乗ることはできる。だが、気位の高いエルフや、偏屈なドワーフまで仲間にいるのが不可解を超えて不可能だ。エルフとドワーフは水と油。決して交わることがない。それが同じパーティにいるってのはどう考えても――――。


「まさか……!」


 俺の頭の中に一つの可能性が浮上する。


 だが、どう考えたって荒唐無稽な話だし、それこそおとぎ話のような話だ。


 しかし、それしか思いつかない。


「まさか、抜いたのか、救世の剣を……?」


 俺の視線が、ガッツの腰に佩いた剣へと向かう。


 俺の視線に気が付いたのだろう。ガッツが苦笑を浮かべて、剣の柄を軽く撫でるように手を置いた。


「オレも予想外だったんだけど、抜けちゃってさ。ちんけなスラムの盗人が、それが今や勇者様になっちまったよ。一応、紹介しておくと、このエルフがエルフのお姫様のフィルレイン。こっちのドワーフは、ドワーフ一の戦士のベルリッヒンゲン。こっちの人間の騎士は、この国で一番強い魔剣士のキャメロン。そして、オレが勇者のガッツ。オレたちは本気で魔王の討伐を目指している。そのためには、強力な治癒魔法使いが必要なんだ。正直、オレたちが来たからって、あなたたちの聖女が必ずオレたちの仲間になるとは限らない。聖女が一定の水準を超えてなかったら、この話は自動的になかったことになるから、そんなに構えなくてもいいよ」


 そう語るガッツの顔や、彼の仲間たちの顔を見ていると、初めからそんなに期待していないことがわかった。


「だから、一目でいいから、あなたたちの聖女に会わせてはくれないかな?」


 だが、俺の勘がこいつらとジゼルを会わせてはいけないと叫ぶ。


「その顔を見りゃわかるぜえ。おめえら、最初から期待してねえんだろお? だったらよお、ここは大人しく手を引いちゃくれねえかあ?」

「一目見せてもらうだけでいいんだけど、それもダメかな?」

「うちのお姫様はそんな気やすくないんでなあ。それとも、無理やり押し通るかあ? たしかに、それをやられたら、俺たちは勝てはしないだろうが、一人ぐらいは道連れにするぜえ?」


 実際にはできない可能性が高いが、こちらも牙を見せて威嚇しとかねえとな。


 これで諦めてくれたらいいんだが……。


「さっきから聞いていれば、くどいぞ! あまりこういう使い方はしたくないが、私はアスカム侯爵家の嫡子だ! さっさと従え!」

「ちッ」


 そうじゃねえかと思っていたが、どうやらキャメロンは貴族。それも上級貴族の嫡子らしい。


 チラッとバーグが俺を見る。


 そう。貴族とことを構えるのは面倒だ。相手が提示した条件は、ジゼルを見せるだけ。すべては俺の心配のし過ぎで、ジゼルが無理やり連れて行かれることなんてなくて、すべてが丸く収まる可能性もある。


 だが、実際に教会の治癒魔法使いとジゼルの実力差を見たらわかる。


 ジゼルこそ、こいつらの求めているパーティの最後のピースだ。


 考えろ! 考えろよ、ジャック! お前の頭は何のためにある! 


「くッ」

「ジャックさん、俺、いけます」


 解の出ない問いにぶつかった。そう思った時、隣にいたタンゴがそう呟いた。


 横目で確認すれば、タンゴは目の座った敵意剥き出しの犬のような顔でガッツたちを睨んでいた。


「へへっ」


 こういう後先考えねえ蛮勇は若者の特権かねえ。俺たちが迷っている間に、タンゴはもう覚悟を完了したらしい。


 こいつは負けてられねえな!


「ちょっ⁉ ちょっと! 本当に一目見せてくれるだけでいいんだって!」


 俺の殺気に気が付いたのだろう。エルフ、ドワーフ、騎士が戦闘態勢に入る。


 だが、ガッツは戦闘に反対なのだろう。こちらに背を向けて、慌てて仲間を止めようとする。


 その背中、貰った!


 俺の一矢が戦闘の合図になるだろう。フェイディもバーグも覚悟を決めるはずだ。


 やってやるぞ!


「どうしたの?」

「はあ⁉」

「なっ⁉」


 今まさに戦闘が始まる。その時になって、後ろから不思議そうな声を聞いた。


 振り返らないことはできなかった。


 だってよお、このタイミングでジゼルが出てくるなんて誰が予想できるんだよ!



 ◇



 なんだか不穏な気配を感じて、僕は玄関の方へと歩いていく。すると、いつもは立っているはずのドアマンの姿がなかった。


「どうしたんだろう?」


 たぶん、表での戦闘に駆り出されているのかも?


 もういつ始まってもおかしくないほど空気が張り詰めているからね。


「どうかいたしましたか、ジゼル様?」


 カンナには戦闘の気配がわからないのか、不思議そうな顔で僕を見ていた。


「とりあえず、外に出てみようかな」

「かしこまりました」


 僕はカンナが開けてくれたドアを通って、外に出た。


「えぇー……」


 なんか、こっちの二つ名持ち勢揃いだし、相手はそれでも勝てなそうなくらい強そうだし……。


 これ、どういう状況?

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