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058 轟く

 教会からの破門が解除された宴会から数日。


 僕は自室で優雅にお茶を飲みながら、最近のスラムの動向をカンナから聞いていた。


「タンゴ様の薬屋ですが、大繁盛のようです。特に腹痛の薬が旅人を中心に人気だとか。タンゴ様は、ジゼル様がお教えになったレシピ以外にも薬を作ろうと日々研究をされていらっしゃるようです。勤勉な方ですね。ジゼル様はこれを見越してタンゴ様に薬の作り方をお教えになったのですか?」

「え?」


 何かあった時のために、同じ魔物仲間であるタンゴに恩を売っておこうと思っただけだったんだけど、なんだかすごく大事になっているようだ。


 僕がこれを予見していたなんてことはないし、こんなことになるなんて少しも思っていなかったのが本音である。


「なんだかすごいことになってるんだね。でも、なんでみんなタンゴの薬屋に行くんだろう? 僕のところに来てくれてもいいのに……」


 なんだかお客さんを取られたようで、ちょっとタンゴにジェラシーである。


「ジゼル様は、この腐蝕銀鎖の総長であるオーレリア様の妹分です。いわば、この腐蝕銀鎖のナンバーツーですよ? 普通は、そんな方に気軽に声をおかけすることはできませんよ」


 そう言って苦笑するカンナ。


「そうなんだ……」


 それなりの地位にいるとは思っていたけど、まさかこの大人数な腐蝕銀鎖の中でも上から二番目だとは思わなかったよ……。


「でも、たまに変わった人が来るよね? あの人たちはどこから来てるの?」


 そう。僕の患者は完全にタンゴに取られてゼロになったわけじゃない。たまに大きな古傷を持っている人が僕の治癒魔法を求めてやってくるのだ。それこそ片腕や片足を失った人などである。タンゴの薬じゃ治せない人が来る感じなのだろうか? でも、たまにスラムのニンゲンとは少し雰囲気の違うニンゲンが来るんだよなぁ。あの人たちはどこから来ているのだろう?


「おそらく壁の中から来られた方々ですね。他にも隣のスラムや、遠いところでは隣の領地からもいらっしゃいますよ」

「へー……」


 思ったよりも遠くからも来てるんだなぁ。


「でも、捕まえた治癒魔法使いは教会に返したんだよね? 何でそっちに行かないんだろう?」

「はい?」


 僕の問いかけに、カンナが「こいつは何を言ってるんだ」と言わんばかりにビックリしていた。なかなかレアな顔である。


「……ジゼル様? 謙虚なのは美徳かもしれませんが、ジゼル様はもう少しご自分の実力を客観的に理解するべきだと思います」

「そうなの?」

「そうなのです。いいですか、ジゼル様? たしかに、壁の中にも、隣町にも、隣の領地にも治癒魔法使いはいらっしゃいますよ? ですが、ジゼル様ほどの使い手はいらっしゃいません。ここにいらっしゃるような方は、他の治癒魔法使いでは治せなかった大怪我を負った方ばかりです」

「なるほどね……」


 まぁ、僕は治癒魔法に関しては自信がある。そんなこともあるかもしれない。


「ここハインドスクエアは魔族との前線ではございませんが、前線に近い街ですから、戦争に従事した方がたくさんいらっしゃいます。過去には伯爵が軍を率いて前線に向かったこともあるとか。その時に一命は取り留めたものの、大怪我を負ってしまった方も大勢います。今はその方々の治療を有料でしている状態ですね。こうやって壁の中の権力者に貸しを作り、伯爵の暴挙を止めてもらおうというしているようですよ」

「そんなことになっていたんだ……」


 僕の知らないところで、そんな駆け引きが為されていたなんて知らなかったよ。


「あの、ジゼル様? このことは以前の会議でもジゼル様も聞いていらしたはずですが……」

「え……?」


 そうだっけ?


「はあ……」


 カンナが呆れたような目で溜息を吐いていた。ぐぬぬ。なんだか悔しい。



 ◇



 腐蝕銀鎖のアジトである石造りの屋敷。その応接間で、俺はくつろいで本を読んでいた。南スラムに根を張る腐蝕銀鎖の歴史は長い。その長い歴史の中で集められた蔵書は、俺も唸るほどだった。


 しかも良書が多い。それだけ腐蝕銀鎖の歴代トップの趣味がよかったのだろう。こんな良書たちが埃を被っているなんて、なんてもったいねえ話だ。


 今の総長であるオーレリアは、まだまだ知識も経験が足りない。その足りないものを補うために、今はクラウスの爺さんと勉強中らしい。実用書以外は読む暇がないのだろう。


 ジゼルは今はたまに治癒魔法を使うくらいだし、時間があるだろう。今度は読書を勧めてみるのもいいかもしれねえ。


「あん?」


 そういや、すっかり読める前提で考えていたが、ジゼルは文字って読めるのか?


「どうしたのジャック?」


 テーブルを挟んだ向かいの席に座るバーグが俺を不審そうな目で見ていた。


「いや、そういやあジゼルって字が読めるのか気になってなあ」

「どうだろうね? 意外に読めそうではあるけど……。おらにとってはジャックが文字を読めることの方が不思議かな?」

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