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057 タンゴ③

 教会からの破門が解除されたことを知ったニンゲンたちは狂喜乱舞した。中には泣いているニンゲンもいるくらいだ。


 腐蝕銀鎖のニンゲンたちが破門されていたのは知っていたけど、それって治癒魔法が受けられないだけじゃないのかな? もっと何か違う意味があるの?


 ニンゲンの生態って、まだまだよくわからないことが多いなぁ。


 魔族側にも神官と呼ばれていた魔族がいたことを思い出す。彼らは、主に魔族同士の決闘の審判という仕事をしていた。あとは、ニンゲンを魔神への生贄にするとか。もしかしたら、ニンゲンの神官にも治癒魔法以外の役割があるのかもね。


 今日は教会からの破門が解除されたお祝いなのだろう。オーレリアの宣言の後、自然と宴会へと移行していった。


 その時、僕たちに近付いてくる人影があった。


「総長、聖女様、ご機嫌麗しゅう」

「クラウス、カンデラ、楽しんでいますか?」

「それはもう」


 クラウスとカンデラは木のコップを手に持って、嬉しそうに掲げてみせた。


「それはよかったです。二人には、今回はずいぶん骨を折ってもらいましたね」

「なんの、なんの」


 僕は知らなかったけど、教会と交渉したのはたぶんクラウスとカンデラなのだろう。この二人は、南スラムでは珍しい頭脳派だからね。適役だね。


 クラウスとカンデラが去ると、次はフェイディ、エリザベートなど、腐蝕銀鎖の幹部が次々と挨拶しに来た。もちろん、ジャックとバーグも来たよ。


 どうやら、幹部は僕たちへの挨拶が許されているみたいだね。


 僕はお肉を頬張りながら、挨拶する幹部たちを見ていた。


 僕は、ニンゲンの料理が好きだ。ハッテンバロー大要塞ではまともに食べられなかった反動なのかもしれないけど、食べるという行為自体が好きになれたんだよね。


 ハッテンバロー大要塞では、食事は生きるのに必要な作業みたいな感じだったからなぁ。それを考えたら、大きな進歩だね。


 そういえば、幹部の挨拶は終わったけど、タンゴは来なかったなぁ。まぁ、もともとタンゴは敵だったし、二つ名持ちは無条件で幹部になれるというわけじゃないのだろう。



 ◇



 俺、タンゴは肩身の狭い気持ちを感じながら腐蝕銀鎖の宴会に参加していた。


 前を見ると、大きな台の上でもぐもぐと無表情で食事を食べているジゼルが見える。あんなにたくさんの人に注目されているのに、豪胆というか、なんというか。俺なら動けなくなってしまいそうだ。


 そんなことを思いながら、俺は飲むことも食べることもないまま、その場で立ち尽くす。


 俺は数年前にあった腐蝕銀鎖への襲撃事件に関与していない。だから生きることを許されはしたが、俺が憎き獅子心臓の幹部だった事実は消えはしない。


 周りを見ていると、みんな楽しそうに飲み食いしている。でも、俺はその輪の中に入ることができずに、かといってこの場を去ることもできず、この場で立っていることしかできなかった。


 その時だった。俺の周囲がざわざわし始めた。


 どうしたのかと周りを見ると、ジゼルのいる台の方から二人の男が歩いてきた。ひょろりとした男と、縦にも横にも大きい男だった。


 見覚えがある。地擦りのジャックと破砕のバーグだ。かつては俺が一方的に意識していた相手だ。少し前までは無所属だったのに、今では立派な腐蝕銀鎖の幹部だ。


 始めは勘違いかと思ったけど、二人は明確に俺の方に近付いてくる。


「よお!」

「キミがタンゴくんだね?」

「え、あ、は、はい。タンゴ、です……」


 まさか二人に話しかけられるとは思わず、俺は一気に緊張してしまった。言葉が上手く紡げない。


「おい、あれって……」

「毒虫、だよな」

「ジャックさんたちが毒虫に何の用なんだ?」

「知らねえよ」


 周りの人たちも何事かとこっちを見ていた。


「そんなにビクビクすんなってえ。俺らは、ジゼルに頼まれてきてなあ」

「え? 聖女様が?」


 ジャックさんがコソッと耳打ちするように教えてくれる。


「ああ。なんか馴染めてねえみてえだからよお」

「タンゴくん、キミ、ジゼルに薬の作り方を教わったんだって?」


 みんなに情報を広めるためか、今度はバーグさんが大きな声でそう言った。


「薬?」

「え? あいつ、聖女様に薬の作り方教わったのかよ⁉」

「いいなあ……」

「毒虫って毒使いだろ? 薬って作れるのか?」

「毒と薬は紙一重って昔から言うからなあ。期待してるぜえ?」

「がんばってね」


 ジャックさんがそう言うと、俺の肩をポンッと叩いて、バーグさんと一緒に行ってしまった。


「おめえ、薬作れるって本当か?」

「最近ちょっと膝が痛くてよ。なんかいい薬持ってねえか?」

「オラは明日たぶん二日酔いだから、その薬が欲しいんだな」


 すると、待ってましたと言わんばかりに周りの人々が俺の周りに集まってきた。


「え? え? あ、え、お、俺が作った薬、使ってくれるのか?」


 俺はもともと敵だった毒使いだぞ? なんでそんな奴が作った薬なんて信じられるんだ?


「当たり前だろ! おめえは聖女様が選んだお人だぜ?」

「オラたちにとっては、それだけ十分よ」

「ほら、薬って今は持ってるのか? あるならくれよ」


 俺は、どうやら聖女様の信用を見誤っていたらしい。まさか、俺なんかが作った薬を使ってくれる人がこんなにいるなんて!

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