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053 一カ月後

 獅子心臓、バラモス伯爵の軍団を破り、一か月ほど経ったある日。


「うーん……」


 僕は微妙な気持ちで自分の体を見下ろしていた。


 今日の僕の衣装は、薄いピンクのドレスである。でも問題は衣装ではなく、その下にあるスライムボディーの方だ。


 この一か月で、僕の擬態はさらに精度を増している。ニンゲンの女個体を間近で見る機会がたくさんあったからね。ニンゲンにはわからないほどのほんのちょっとの違いかもしれないけど、よりスライムバレにくくなったのは喜ぶべきことだ。


 まぁ、擬態に対しては今のところ問題はない。問題は、僕の身体能力だ。


 僕は一か月前の交戦で、腐蝕銀鎖の人々に付与魔術をかけて、かなり階位上昇をした。


 階位上昇。僕のような魔物や魔族の体に起こる爆発的な強化だ。その条件は、ニンゲンを殺すこと。そして、ニンゲンを殺した者に付与魔法をかけていた者も、そのおこぼれに与ることができるらしい。僕は直接ニンゲンを殺していないけど、付与魔法でサポートしたから階位上昇したのだろう。


 まぁ、僕は博士や学者みたいに頭がいいわけじゃない。僕の仮説も間違っている可能性もある。


 そして、僕は知らなかったんだけど、ニンゲンもニンゲンを殺すと階位上昇に似たことが起こるらしい。


 腐蝕銀鎖のニンゲンたちは、『進んだ』と表現していたけど、どうやら身体能力が強化されるみたいだ。


 ニンゲンにも階位上昇に似た現象があったのは驚きだけど、ニンゲンは個体によってぜんぜん強さが違う。むしろあった方が自然だと今では思えている。


 話を戻そう。


 肝心の僕の階位上昇によってもたらされた力。これがかなりしょぼい。おそらく、階位上昇によって習得する魔法をいくつか習得した他には、硬くなることしかできなかった。


 確証はないけど、たぶん僕の能力の伸びる方向は、耐久力が上がる方向なんだともう。じゃなきゃ硬くなるしか覚えないとかありえない。


 あとは、もともと生成できる毒がより強力になったくらいかな。


 僕だって嘘だって思いたいよ?


 でも、いろいろ試してみたけど、攻撃力とか素早さとか、ぜんぜん上がってなかったんだよね……。


 でも、耐久力が上がったということは、それだけ死ににくくなったということだし、まぁよしとしておこう。不満があるからって変化するものでもないしね。


 そして、話は擬態の話まで戻る。


 擬態の精度が上がったというけど、具体的には何をしたのか。それは、ニンゲンの骨よりちょっと硬い程度に手抜きした作った骨格を、僕のスライムボディーの中に再現してみた。ちゃんと関節も再現した力作である。これで、僕の擬態はまた一段進化したと言ってもいいだろう。


 実は、オーレリアに抱かれている時とか冷や冷やしていたんだよね。でも、これでもう怯えなくてもいい。


「さて……」


 僕は優雅にお茶を飲み干すと、立ち上がって窓ガラスから外を見渡した。見渡す限りに広がるのは、意外としっかりとした造りかけの家々だ。腐蝕銀鎖の者たちの新しい家になる予定である。


 アジトに近いところにあるのは、石を積み上げて立派な造りになっている。この辺りは腐蝕銀鎖のファミリーの中でも、重要な幹部の家だね。そして、アジトから遠くに向かうごとに造りが甘くなっていくので、腐蝕銀鎖の階級によって住む家が変わるのだろう。


 腐蝕銀鎖のアジトも綺麗に直したし、言うことなしだね。


 そんな成長著しい腐蝕銀鎖だけど、その活動は南スラムだけには収まらない。


 なんと、東スラムや北スラムの獲得にも意欲的だ。


 クラウスが言っていたけど、東スラムや北スラムは、いろいろな小規模組織が群雄割拠している状態らしい。抗争も激化の一途をたどっており、もうすでにかなりの数の避難民が安寧を求めて南スラムに来ているのだとか。


 そのため、一時的に南スラムの治安が悪化している。それを鎮めるのは、腐蝕銀鎖のお仕事だ。


 でも、治安の悪化も一時的なものだろう。その時、腐蝕銀鎖はどう動くのかが議論されている。


 主に二つの案があり、一つは腐蝕銀鎖が東スラムや北スラムに直接乗り込んで、一気に占領してしまうという案だ。占領後、腐蝕銀鎖が直接統治できるメリットは大きい。


 そしてもう一つが、東スラムや北スラムのある小規模組織を支援して、間接的に占領する形だ。こちらは、旨味は減るかもしれないけど、負担は少ない。僕が東スラムや北スラムに直接行かなくてもなんとかなるだろう。


 階位上昇をしたいから、僕としては派遣されてもぜんぜんいいんだけど、腐蝕銀鎖のみんなは過保護だからなぁ……。


 どっちになるんだろう?


 まぁ、今のままだと後者かな?


 そういえば……。


「ねえ、カンナ。タンゴとの面会許可は出た?」


 獅子心臓の二つ名持ちだった毒虫のタンゴ。僕は彼に面会許可を求めていた。


 これは僕の勘だけど、タンゴは僕と同じく魔王軍を抜け出した脱走兵である可能性が高い。僕としては、彼の処遇は気になるところだ。

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