049 獅子心臓の終焉
「なんだか、呆気ないほど簡単に崩れたね。あとは残党狩りって感じかな?」
おいらはバーグ。
今は制圧し終わった敵の本部を後にし、敵に協力していた教会の治癒魔法使いを確保したところだ。
これで、クラウスさんに頼まれたことは終わったね。
「クラウスさんに伝令を出そうかな? 誰か行ってくれる?」
「じゃあ、オラが!」
「この後どうすればいいのか訊いてきてくれる?」
「はい!」
おいらの指示で、伝令に走ってくれる腐蝕銀鎖の男。この部隊の隊長はおいらだからね。みんな、おいらの指示に素直に従ってくれるから助かる。
おいらはクラウスさんやジャックみたいに頭がよくないから、ちゃんと確認は取った方がいいよね。
「バーグさん、こいつらは殺さないんですか?」
ファミリーの発言にビクッと体を震わせる教会の治癒魔法使いたち。
腐蝕銀鎖にとって、教会は一方的に破門を言い渡してきて、治癒魔法を使うことを拒否してきた連中だ。思うところがあるのだろう。
でも、ここは拒否しないとね。
「うん。教会との交渉に使う人質だって」
「ほーん」
「なるほどなあ。それで金をがっぽがっぽですね!」
「景気のいい話じゃん!」
おいらは曖昧に微笑んでやり過ごす。
まあ、おいらにはこの人質を使ってどんな交渉をするのかわからないけど、たぶん、クラウスさんなら上手く使ってくれるだろう。
「だから、この人たちは殺しちゃダメだよ?」
「「「「「はい!」」」」」
「うん」
返事が元気よくて大変よろしい。
◇
「なぜだ⁉ なぜ引き返す⁉ 戦え! 戦えよ!」
自慢のコレクションに囲まれた自室。
私は窓に張り付いて、無様に逃げ出すように、バラバラと秩序なんてまるでない撤退をする伯爵の正規軍を見て絶叫した。
爪が皮膚を突き破りそうなほど握りしめた右手。その拳の中には、伯爵からの伝書鳩で送られてきた小さな紙が握られている。
その小さな紙には、伯爵が三千の兵を援軍に送ったこと、持ちこたえていれば、助けてやるというなんとも上から目線の言葉が書かれていた。
「何が助けてやるだ! たった千にも満たないならず者に負ける軍なんぞ、援軍と呼べるか⁉ ふざけやがって!」
やりきれない思いを力に変えて、窓の横の壁を力任せに殴る。怒り心頭なのか、痛みは感じなかった。
「くそがッ! どうすれば……。どうすればいい……?」
皮膚が破れてしまった手の甲にはかまわず、両手で頭を掻きむしって考えを巡らせる。
もうアジトは二階部分まで腐蝕銀鎖に占拠されてしまった。仮に今このアジトに入り込んでいる腐蝕銀鎖を全員殺せたとして、待っているのは伯爵の正規軍を壊走させた腐蝕銀鎖の精鋭だ。
ダメだ。もう勝てるビジョンが見えない。
一般兵のフリをして投降するか?
無理だ。私の顔は腐蝕銀鎖に割れている。しかも、私は三年前の襲撃事件の当事者だ。許されるわけがない。
「どうすれば……。どうすればいいのだ……」
頭を掻きむしる手が止まらない。指の先端はもうぬるりとした感触がしていた。
その時、部屋の扉が蹴破られるように開けられる。
「ヒッ⁉」
まさか、腐蝕銀鎖が!?
だが、現れたのは、見慣れた獅子心臓の部下だった。そのことに安堵する。
私は腰を伸ばして、努めて冷静であるフリをする。
「ノックはどうした? 何か緊急の報告か?」
いつものように威厳のある声を出そうとするが、どうしても声が震えてしまった。
「は? 報告? いまさら何を言ってるんだ? もう伯爵の軍は来ないんだろ? そんなこともうみんな知っているぞ? もう勝ち目がないことくらいな」
しかし、いつもはかしこまった態度の部下が、不遜な態度で近づいてくる。その手には、血が滴る剣を持っていた。
そして、部下は剣を持っていない方の手で、首に下がった獅子心臓のファミリーの証であるペンダントを引き千切ると、その場で投げ捨てた。
「これで俺は獅子心臓の、あんたの部下じゃない。その首、俺が生きるために活用させてもらうぞ!」
「なっ⁉」
土壇場での裏切り。最悪だ。今は護衛を置いていない。私に勝てるか……?
「がはッ⁉」
しかし、次の瞬間、私を襲おうとしていた部下だった男の胸から剣の切っ先が生えた。
「すいませんねえ、部隊長殿。お頭の首は俺が貰いますよ」
部下を殺したのは、何度か見かけたことがある程度のファミリーの男だった。
こいつもか⁉ こいつも私の首を⁉
「ギザマ……⁉」
部下だった男が、怨嗟の声をあげて崩れ落ちる。
それを無感情に見下ろしていた男が、今度はギラギラした目を私に向けてきた。
「お頭の首を持っていけば、命だけは助かる可能性がある。いや、もうそれしか助かる道はねえ! だから、ねえ、お頭? その名の通り、ちょいと頭を貸しちゃくれませんかね?」
「や、やめろ……」
「いつもの偉そうな態度はどこ行ったんです? まあ、こっちとしては楽でいいんですがねえ」
そう言って、名前も知らない男は、血で汚れた剣を振り上げた。
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