047 削られる者たち
ジリジリ、ジリジリと腐蝕銀鎖に征服されつつある我が獅子心臓のアジト。その中でも最も豪華な部屋の中。銀の燭台に照らされた部屋の中には、さまざまな財宝が輝きを放っている。
「くそ! くそ! くそがッ!」
そんな優雅な空間で、私はこれ以上ないくらい悪態をついていた。自慢のツインヘッドベアの毛皮の上で何度も地団駄を踏み、歯ぎしりを繰り返す。
それもこれもあいつらのせいだ!
マルトゥー、タンゴ、ファイリー! この私が高い金を払って雇ってやったというのに、その恩を返すことなく、早々にくたばった負け犬どもめ!
私は、死にたくない。せっかく、せっかくこの南スラムの覇者になれたのだぞ? やっと、やっと自分の好きに生きることができるようになったというのに、それがたった三年で崩れようとしている。こんなのあんまりだ。
周りを見れば、今までかき集めてきた名物や名画が飾られている。
いつもは私の心を癒してくれる宝たちも、これが奪われるかもしれないと思うと、心が引き裂かれるような思いしかしなかった。
その時、ノックの音が飛び込んできた。
一瞬、ギクリッと体が硬直するが、腐蝕銀鎖だったらわざわざノックなどしないだろう。そう思い、背筋を伸ばして威厳のある声を意識して口を開く。
「入れ」
「失礼いたします、ペンネリクト様! ご報告いたします! 一階部分はすでに敵に制圧されました! 二階部分も敵の侵攻を受けております! 敵は倒しても倒してもどこかから湧いてくるように現れます! このままでは――――」
「うろたえるな!」
私は報告に来た若造に、不満をぶつけるように叫ぶ。
「すでに伝書鳩でバラモス伯爵様からの援軍が腐蝕銀鎖の後方を攻撃していると報告を受けている。バラモス伯爵様の軍には教会の治癒魔法使いも同行しておる。そう! 援軍はあるのだ! あの赤い炎が見えるか? きっと腐蝕銀鎖の腐れ外道どもを焼き払っているに違いない! なんとしても、バラモス伯爵様の軍が腐蝕銀鎖を殲滅するまで耐えきるのだ! 行け!」
「は、はっ! 失礼します!」
「はぁ……」
若造が扉を閉めるのを確認してから、私は大きな溜息を吐く。
「くそ! 伯爵軍め! なにをチンタラやっておるのだ! 早くしろよ!」
私は自分で壊してしまったローテーブルを蹴飛ばし、怒りを発散する。
「くそ……」
今日はなんて厄日だ……。
獅子心臓の強さの代名詞、二つ名持ちの強者が全滅。いくら待っても伯爵軍は腐蝕銀鎖を撃破できない。そして、じわりじわりと近づいてくる腐蝕銀鎖。自らの死のカウントダウン……。
「くそ……」
頭がおかしくなりそうだ。
◇
私、エデウスは、栄えあるバラモス伯爵軍を指揮する将軍の地位にある者だ。
「何と……?」
そんな私は今、混乱を処理するのに苦労していた。
「ですから、部隊の損耗率が急上昇しています! 火炎で見通しが悪くなり、気付くのが遅れました。すでに部隊の半数以上が負傷し、動けません!」
「敵の腐蝕銀鎖ですが、報告を纏めると、致命の一撃が魔法のようなもので防がれる。明らかに魔法的な物理防御を持っている。時間経過と共に敵の傷口が再生する。致命傷を与えたはずの敵が無傷で戻ってくるなどの証言が前線の兵士たちからありました。教会に確認をおこなったところ、そのような治癒魔法は存在するが、自分たちは使えないとのことでした!」
スラムの家とも呼べないような粗末な建物に火を放つように命じたのは、他でもないこの私だ。それは、スラムの地形を熟知した腐蝕銀鎖の伏撃が多かったからだ。
だから、スラムの家々を焼き払い、腐蝕銀鎖の兵が隠れる場所を潰した。
それに、こちらには教会に派遣要請したすべての治癒魔法使いがいる。アンチファイアの付与魔法を使えば、この炎の中でも兵は通常通りに動くことができるはず。
腐蝕銀鎖は炎に巻かれて焼死するか、それが嫌なら撤退するしかない。
そう考えた。
それに、万が一を考え、教会の動ける治癒魔法使いはすべて動員している。
だというのに――――!
「教会の治癒魔法師の魔力も尽き果て、救護所はもう飽和状態です!」
「くっ!」
思わず苦しげな呼気が漏れてしまった。
数の上では、我らは敵を圧倒していた。しかも、相手は獅子心臓の奴らとの二面作戦を余儀なくされている。確実に、楽に勝てるはずのタイミングでの参戦だった。
だというのに、蓋を開けてみれば我が方が劣勢に立っている。我らの数的優位性を嘲笑うかのように敵は倒れず、我が方の兵士たちだけが一方的に蹂躙されている。
こんなことがあっていいわけがない!
「相手は腐蝕銀鎖だろう……? なぜ治癒魔法が使える? 教会が裏切ったのか……?」
バラモス伯爵の命令で、腐蝕銀鎖の者たちは教会を破門されているはず。つまり、腐蝕銀鎖に治癒魔法のバックアップはない。そのはずなのに……。
「兵士たちからの証言ですが、腐蝕銀鎖の者たちから聖女様という言葉が何度も確認されているようです。ですが、聖女に関する情報はありません」
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