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040 挟み撃ち

「クラウス殿! 戦況はどうなっていますか? ファイリーの炎が見えましたが……」


 フェイディがこの場に現れたのは、ジャックがフェイリーという魔法使いを倒したという報告があった直後だった。ちょうど僕もハリネズミみたいになった男たちの治療を終えて帰ってきたところだった。


 ここはおんぼろで壁に穴が開いてるような木造のあばら家だ。そんな場所に、腐蝕銀鎖の幹部メンバーが揃っている。


 こんな場所に本陣を構えることはしないだろうという、相手の思考の裏をかいた敢えての布陣らしい。


 しかも、壁に開いた穴からは獅子心臓のアジトが見えるという好立地らしい。


 ここに住んでいた者たちには、使用料として破格の値段を払っているらしいよ。腐蝕銀鎖の財政は厳しいけど、腐蝕銀鎖はケチだという悪評が広がるより、腐蝕銀鎖は気前がいいと思われた方がいいからね。


「フェイディ。おかえりなさい、剛腕のマルトゥーを倒したのでしょう? 見事な働きです。怪我はないかしら?」

「総長! ありがとうございます。私は大丈夫です。むしろ、今が私の最盛期かもしれないと思ってしまうほどです。それでファイリーは……?」

「ジャックとバーグが倒してしまいましたよ。あの二人の噂は本物ですね」

「フェイディ殿、お疲れ様です。これで役者が揃いましたな」


 オーレリアとクラウスの言葉に、ホッとした様子を見せるフェイディ。


 僕はそんなフェイディをよそに、オーレリアの膝の上に座った。すると、オーレリアがそんな僕を後ろから抱きしめてよしよししてくれる。


 もうすっかり僕の定位置がオーレリアの膝の上になってしまったね。


「クラウス殿、その役者が揃ったというのは?」

「うむ。実は儂が第一軍と第三軍を率いることになっておるのだが、フェイディ殿はそこに加わってもらいたい。他にも、ジャック殿とバーグ殿も付ける予定ですの」

「……それは、獅子心臓への最後の一押しに?」

「いや……」


 一瞬、期待の顔色を覗かせたフェイディ。彼にとって、獅子心臓は腐蝕銀鎖を追い込んだ張本人だ。自分の手で叩き潰したいという欲求があってもおかしくはないのかもしれない。


 でも、そんなフェイディに対して、クラウスは申し訳なさそうに首を横に振る。


「すまないがな、フェイディ殿。第三軍には別にやることがある」

「別に?」


 今は獅子心臓との戦争中だ。それこそ強い人なんていくらでも欲しい状況だろう。それでも、敢えてフェイディを外すどころかジャックやバーグを外してまで何をしようとしているのだろう?


 フェイディも思いつかないのか、少し思案するような表情を浮かべていた。


 その答えを口にしようと、クラウスが口を開く。


「ロッツからの報告じゃが、バラモス伯爵軍が動いたらしい。しかも、軍には冒険者のような恰好をさせておるとか」

「ッ⁉」


 他のみんなはもう知っていたのか、フェイディの息を呑む音だけが大きく響いた。


「つ、つまり、それは……?」

「普通、スラムでの暴動をやめさせようというのなら、兵士の格好のはずじゃて。それを敢えて兵に冒険者のような姿をさせる。正規兵ではできないことを、正規兵がやったと知れたら非難されるようなことをやるつもりじゃの。ここまで言えば、わかるじゃろ?」


 わかんないけど?


 そのバラモツ伯爵? とかいうのも初めて聞いたし、そこの兵隊がなにをするつもりかなんて、僕にはわからない。


 でも、フェイディもみんなもわかっているのか、厳しい表情をしていた。その表情を見て、なにかよくないことが起こるんだなと僕は予感した。


「相手は腐っても正規軍。おそらく獅子心臓の輩よりも強いに違いない。そこで、こちらも強者をぶつける。兵の皆もがんばっておるが、どう考えても獅子心臓のアジトを落とす前にバラモス伯爵軍が来る。挟み撃ちじゃな。するのは好きじゃがされるのは大嫌いじゃ。じゃが、ここを切り抜けんことには腐蝕銀鎖に明日はない」

「「「「「…………」」」」」


 クラウスの言葉に、みんなが暗い表情を浮かべている。


 その時だった。オーレリアが後ろから僕を強く抱きしめると、立ち上がる。


「聞け! これはチャンスよ!」


 うん? クラウスの話を聞いているとかなりピンチぽかったけど、チャンスなの?


「相手のバラモス伯爵軍は、冒険者の格好をしているのでしょう? なら、それはもうバラモス伯爵の正規軍ではなく、ただの冒険者よ! なら、たとえ殺してしまってもお咎めはないでしょう? だったらこのチャンスに、今は亡き同胞たちの無念を晴らしてやりましょう!」


 オーレリアの言葉に、俯き気味だった人々が顔を上げる。その顔には、隠し切れない闘志のようなものが見えていた。中には不敵な笑みを浮かべている者もいるくらいだ。


「左様ですな!」

「そうだ! こんなチャンス滅多にないぞ!」

「なら、やるしかないでしょ!」

「今は亡き同胞たちよ、我々に力を与えたまえ!」


 オーレリアの言葉の持つ力ってすごいな。さっきまであんなに暗い雰囲気だったのに、今はみんなやる気満々だ。話を聞いていると、どうやら不利な状況らしいけど、これならなんとかなるかも?

お読みいただき、ありがとうございます!

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