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039 門を巡る攻防

 そして、舞台は獅子心臓のアジトの門へと移る。


「いくぞおおおおおおおお!」

「「「「「おう!」」」」」


 男たちが持っているのは、丸太に紐を括り付けたものだった。原始的な、兵器と呼ぶのも烏滸がましいほどの代物だが、その威力は折り紙付きだった。


「「「「「そおおおおおおおおおおおれ!」」」」」


 丸太を前後させ、何度も門にぶつける男たち。盾を上に構えて頭だけは守り通し、全身がハリネズミのようになっても、決して手を緩めることなく己が使命をまっとうせんとする。


 対するのはアジトの中から門を押さえる獅子心臓の構成員たちだった。


「絶対に守り通せ!」

「門を押さえろ!」

「補強の板持ってこい! 槍でも棒でもいい!」


 彼らは丸太がぶつかる度に扉から吹き飛ばされそうになりそうになりながらも、門に張り付いて門が破られるのを阻止しようとする。


 ファイリーの死は、獅子心臓の心を壊してしまうほどの衝撃があった。


 だが、彼らはただ死にたくないの一心で戦闘を続けている。


「まだ倒せねえのか!」

「こいつら、何なんだ⁉」

「なんで死なねえんだよお!」

「普通死ぬだろ!」


 門を守る男たちに叫び返すのは、恐れを含んだ声だった。


 そう。門を破らんとする腐蝕銀鎖の男たちは、どう見ても致命傷を受けているように見える。


 だが、まるで傷なんて気にしないとばかりに動き続けていた。


「ア、アンデッドだ! 奴らアンデッドにちげえねえ!」

「おいらたちを祟りに来たんだ!」

「くそがああああああああああああ!」


 腐蝕銀鎖に対して奇襲攻撃をした過去が彼らを苛んでいく。


「もう、無駄だよ……。あいつら死なないんだ……。何したって無駄だよ……」

「アンデッドとか、教会の出番だろ!」

「あいつらは何やってんだ!」

「諦めるな! 何としても生きてやるぞ!」


 諦めを含んだ声に怒声。中には防壁の胸壁にもたれて座り込んでいる者の姿すらあった。それほどまでに彼らは追い詰められている。


 いつの間にか、防壁の上で矢を放つ者たちの姿も半分近くになっていた。門を守るために防壁を降りた者、矢の補充に向かった者、槍を取りに行った者、残りは死んでいた。


 獅子心臓の彼らは、アジトの門を守るために、門を破壊せんとする腐蝕銀鎖の男たちを最優先で殺す必要がある。頼みの防壁から身を乗り出して、矢を撃たねばならないのだ。その隙を見逃す腐蝕銀鎖の弓兵たちじゃない。どんどん獅子心臓の弓兵は討ち取られていく。


 そして、腐蝕銀鎖の男たちは何をしても倒れず、丸太を門に打ち付ける。


 獅子心臓の者たちにとっては八方塞がりな状況だった。


 しかも――――。


「おい、お前らがんばりすぎだって」

「そうそう。俺たちの活躍まで奪うんじゃねえよ!」

「交代だ! 交代!」


 そう軽い調子でやってきたのは、どこかから外してきたのだろう、扉を盾のように構えた腐蝕銀鎖の男たちだった。


「俺たちでやっちまいたかったが、そろそろやべえからな」

「後は頼むわ」

「頼んだぜ!」


 そう言って、獅子心臓のアジトの門を破壊しようと丸太を打ち付けていた男たちが交代する。


 獅子心臓の者たちにとっては、それは希望に映ったのか、それとも絶望に映ったのか。


 しかし、交代した腐蝕銀鎖の男たちに矢を撃ち込んでも倒れない様子を見て、絶望が広がっていく。


 そして、ハリネズミのような恰好で悠々と下がっていく腐蝕銀鎖の男たちを見て、こう思ったはずだ。


 もしかしたら、自分たちはとんでもないモンスターを相手にしているのではないだろうか。それはたまたま人間の形をしているだけで、中身はまったくの別物なのではないだろうか。そんな考えまで浮かんでくる。


「くそっ! 教会の奴らはどうした⁉ なぜ来ない⁉」

「そりゃ、普通はこんな戦場には近づかんさ」

「バラモス伯爵様は? そっちにも応援を頼んでんだろ?」

「……俺たちは、見捨てられたのさ……」


 座り込み、もう生を諦めてしまった男の呟きが、やけに戦場に大きく響いた。


「そ、そんなわけ……」

「あるわけねえよ……なあ?」

「……ああ」


 自信のない、煮え切らない態度で応える獅子心臓の者たち。彼らの心の中にも不安はあるのだ。だが、見えないふりをして戦っている。信じたくないのだ。自分たちが切り捨てられる側になったことなど。


 しかし、バラモス伯爵は現に腐蝕銀鎖を切り捨てた過去がある。そんな相手を心底信じきれないでいた。


 だが、そんな彼らの諦めは、別の形で裏切られることになる。


「見ろ! 火が見える!」


 それに最初に気が付いたのは、胸壁から腐蝕銀鎖のメンバーを睨みつけていた射手の男だった。


 だんだんと暗くなってきた南スラム。その中央を走るハインドスクエアの門へと続くメインストリート。そこから逆流するように雪崩れ込んでくる火を持った一団。


 その一団は、腐蝕銀鎖の無防備な後方を襲うような動きを見せる。


 しかし、そのことに気が付いていないのか、腐蝕銀鎖の獅子心臓を襲うという動きに迷いはない。

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