034 優位に進める
「伝令! 伝令! 毒虫を撃破! 聖女様のご加護のお力です!」
「よくやった! 皆にそう伝えてくれ!」
「まさか、最初に倒せたのが毒虫とはな……」
「聖女様のご加護は素晴らしいな!」
みんなの視線が、オーレリアの膝の上に座った僕に集まる。
「僕はただ付与魔法を使っただけだよ」
「そいつがすげえんだよお! 聞いた話だと、傷とかもりもり勝手に治るらしいじゃねえかあ! こんなの奇跡だぜえ!」
「毒に耐性ができる魔法もあるのかな? そのおかげで毒虫も倒せたし、ジゼルのしたことは本当にすごいことだよ」
「ジゼルは本当にすごいですね。ジゼルのおかげで、厄介な毒虫も倒せました」
ジャック、バーグがグッと親指を上げて、オーレリアは後ろから僕に抱きついてくる。
「聖女様のご加護に感謝を!」
「腐蝕銀鎖の聖女様に栄光あれ!」
「これで獅子心臓のアジトへの道が開けました!」
腐蝕銀鎖の作戦室。そこには明るい声が響いていた。クラウスたちも安堵した顔をしている。
僕にはよくわからないけど、毒虫というニンゲンを倒せたようだ。
いや、毒虫は本当にニンゲンなんだろうか?
毒虫と呼ばれているみたいだし、もしかしたら、僕と同じようにニンゲン陣営に逃げ込んできた魔物の可能性もあるかもしれない。
もしそうだとしたら、いろいろと協力したかったんだけど、毒虫と腐蝕銀鎖は敵同士。下手に情けを見せるのは得策ではないかもしれない。
「毒虫にはジャック殿をぶつけようと思っておったんですが、これで余裕ができましたな」
クラウスがほくほく顔でジャックを見ていた。ジャックはクラウスの狙いがわかっていたのか、当然だとばかりに頷いていた。
「俺もそう思ってたんだがあ……。こいつは嬉しい誤算ってえやつだなあ。ジゼルのおかげだあ」
「退いてくれ! 急病人だ!」
ジャックが答えるとの同時に、外の方が騒がしくなってきた。
急病人ということは、僕の出番かな。
「ジゼル、お願いできる?」
「うん」
僕はオーレリアの膝の上から飛び降りると、部屋の外に向かう。
「どうぞ」
「ん」
その時、近くにいた腐蝕銀鎖の幹部の一人が、優雅な足取りでドアまで向かうと、ドアを素早く開いてくれた。このニンゲンも腐蝕銀鎖の幹部だから偉いはずなんだけど……まるで僕を上役のように接してくれる。これがオーレリアの妹分の効果か。すごいね。
外に出ると、なんだか嗅ぎ慣れない臭いがした。たぶん、毒の臭いだ。少量だから影響はないだろうけど、毒虫というのは本当に毒を使う相手だったらしい。
「聖女様! こいつら、毒虫の毒にやられちゃいまして……。聖女様のご加護でおらたちは大丈夫だったんですけど、呼吸が苦しそうで……」
そして、外に並べられた担架。その数は二十ほどだ。
「ちょっと調べるね」
患者の一人に近付くと、ゼヒゼヒと苦しそうな呼吸をしており、時折体がビクビクと震えている。
たぶん、呼吸器系を麻痺させる毒と、神経に作用する毒の二種類は確実に使われている。
いつもの僕だったら毒のサンプルを取ってその場で解析。そして、毒に対する抗体を作り出すのだけど、それにはスライムの能力が必要だ。見えないように指先だけスライムボディーに戻すという手もあるけど、それはリスクが高い。
せっかく腐蝕銀鎖の中でいい感じに立場を築けているのだ。それを手放すのはもったいない。
だったら、効果は落ちるけど、魔法で治してしまおう。
「キュアポイズン」
キュアポイズンはすべての毒に対応している回復魔法だ。広い分野をカバーしているので、特化している抗体には効果は劣るが、これで大丈夫だろう。
観察していたニンゲンの呼吸が、心なしか楽そうになった気がする。
この程度の毒なら、僕のスライムボディーを使えれば一瞬で治せるんだけど、まぁ、仕方ないね。
「魔法を使ったよ。少しずつ良くなるんじゃないかな?」
「ありがとうございます!」
「見ろ! 呼吸が落ち着いてきたぞ!」
「ありがとうございます、聖女様!」
「さすが聖女様だ!」
「聖女様万歳!」
なんだかすっかり聖女様って呼ばれるのも慣れちゃったなぁ。僕はただのスライムなんだけど……。
でも、やっぱり感謝っていいね。心がホクホクするよ。この温かい気持ちを忘れずにいたいね。
「では、そろそろかの」
「いよいよ総力戦じゃな」
「炎魔の婆さんもでてくるだろうしよお」
「そうだね」
「問題は、やっぱり炎魔か……」
「それだけではありません。さすがに敵のアジトですからね。兵の質も高いでしょう」
「うぅーむ……」
小屋の中に戻ると、みんながいそいそと武装や必要なものをかき集めて移動の準備をしていた。
獅子心臓のアジトへの道を守っていた毒虫は倒れた。今ならば、獅子心臓のアジトへの直接攻撃もできる。それほどまでに戦況は優位に進んでいるみたいだ。
このままだと前線との距離が長くなりすぎるから、拠点を移すのかな?
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