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032 戦況確認

「急ぎましょう!」


 僕としてはもう少しこの感動的な景色の中にいたかったけれど、オーレリアに急かされる形で、僕たちは早歩きで花街の中を移動していた。


 僕とオーレリアを囲むように二十人ほどの男たちが護衛をしている。その中には、当然のようにジャックとバーグ、フェイディの姿もあった。


 オーレリアは腐蝕銀鎖の総長だからね。その他の護衛も腕に覚えのあるメンバーだと聞いた。


 つまり、ここにいるのは腐蝕銀鎖の中でも強者である。そんなメンバーが抜けたまま、腐蝕銀鎖と獅子心臓の戦争が始まるのはまずい。


 まずいはずなんだけど……。


 実は、僕はさっきから二度ほど階位上昇を経験している。たぶん、腐蝕銀鎖と獅子心臓の戦争はもう始まっている。


 そして、わかったことがある。やっぱり重要なのは付与魔法をかけることで、その有効範囲は結構広いみたいだ。


 これで経験した階位上昇は六回目かな? 僕も少しは強くなっているといいんだけど……。あんまり実感がわかないね。


 豪華な花街から出ると、一気にスラムの汚れた雰囲気になる。やっぱり、花街は特別みたいだ。


 その出口には二人の男が待機していた。


 知り合いなのか、オーレリアは警戒せずに近づいていく。


「総長! お疲れ様です!」

「我らが本陣までご案内いたします!」

「ええ、よろしく頼むわ」


 僕はオーレリアに手を引かれて、スラムの街を歩いていく。


 その時、気が付いたのだけど、スラムには人っ子一人見えなかった。でも、息遣いは感じる。隠れているのだ。


 まぁ、近くで戦争が起きてるからね。できる限り巻き込まれたくないのだろう。いつかの僕みたいに徴兵されても面倒だしね。


「戦況は?」

「クラウス殿の話では、六分か七分とのことでした。腐蝕銀鎖が優位に戦闘を進めています。しかし、獅子心臓の主力である炎魔と剛腕、毒虫の姿が見えません」

「そうですか……」


 オーレリアが考え込むように視線を下げる。


 察するに、炎魔やら剛腕、毒虫というのは二つ名なのだろう。つまり、二つ名が付くほどの強者ということだ。その姿が見えない。たしかに不安になるね。


「総長と聖女様をお連れしました!」

「ご苦労! 総長と聖女様にはご足労おかけいたしました」


 案内されたのは、スラムには珍しい石造りの建物だった。そこまで大きいわけじゃないけど、頑丈そうだ。


 中に入ると、クラウスたちが出迎えてくれた。


「クラウス、詳しい戦況を。他の者たちも、己の為すべきことを為しなさい!」

「「「「「はっ!」」」」」


 オーレリアの指示が飛び、止まっていた時間が動き出すように人々が動き出す。その内の一人が僕の方へと駆け寄ってきた。


「聖女様、残念ですが、こちらにも少なからず負傷者が。治癒魔法を頂けると助かるのですが……」

「うん。わかったよ」

「ありがとうございます! 負傷者はこちらに!」


 僕がそちらに向かおうとすると、ドアがまるで爆発するような勢いで開けられた。みんなが咄嗟に武器を構える中、現れたのは額に汗を浮かべた青年だった。


「ご報告! 剛腕が出たッス!」

「なんと!?」

「俊足、それは本当か⁉」

「ついにきたか……」

「場所はどこじゃ⁉」


 現れた青年の報告に、騒がしくなる部屋の中。むあっと一気に部屋の中の熱気が増した気がした。


「ここッス!」


 俊足と呼ばれた青年が、テーブルの上に置かれた紙の一点を指差す。たぶん、あの紙は地図なのだろう。


「うぅーむ……。どうするのが最適解か……。フェイディ!」

「はい」

「行ってくれるか?」


 唸るクラウスは答えを出したのか、フェイディに問いかける。


 フェイディはまるで確認するようにオーレリアをちらりと見て、オーレリアは頷くことで応えた。


「わかりました。俊足、案内を頼む」

「わかったッス! 付いて来てくださいね、フェイディさん!」

「ちょっと待って」


 僕は今にも駆けていきそうなフェイディを呼び止める。


「どうかしましたか?」

「あげる」


 振り返るフェイディにそう言って、僕はありったけの付与魔法をかけていく。


「こ、これは……! 力が湧いてくる!」

「がんばってね」


 がんばって勝って、僕の階位上昇に貢献してほしい。


「はい! ありがとうございます、聖女様! これなら……!」


 付与魔法をかけ終わると、フェイディはスキップしそうな勢いで部屋を出ていった。


「閃光の奴、なんだかツヤツヤしてやがったなあ」

「頭とか光ってたよね?」


 そんな軽口をたたくジャックとバーグを連れて、僕は案内されて隣の部屋へ。そこは呻き声と濃い血の臭いに支配された空間だった。


「治しちゃうぞー。治った」

「いた、くねえ!」

「うおおおおおおおおおおお! 治ったああああああああああ!」

「聖女様すげええええ!」

「っぱ聖女様なんだよなあ!」

「聖女様ばんざあああい!」


 みんな調子がいいなぁ。


 そんなみんなには、付与魔法もプレゼントしよう。


 そういえば、毒虫とかいういかにも毒使いみたいな二つ名もあったし、みんなにはアンチポイズンも付けちゃおう。


 僕の階位上昇のために、がんばってほしいなぁ。

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