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031 エリザベート救出

 廊下の隅や部屋の中を覗いても、いくつも死体が折り重なるように転がっていた。中には腐蝕銀鎖の死体もあるだろうけど、大半は紅の雫の死体だろう。


 そんな中を、僕たちはバーグを先頭に歩いていた。


「そこの角を左ですわ」

「うん。敵の拠点なのに詳しいね?」

「紅の雫のアジトではありましたが、その前は腐蝕銀鎖の持ち物でしたから」

「総長! 大変でさあ! 早く来てください!」


 敵の残党の不意打ちを警戒して、わりとゆっくり歩いていた僕たち。だけど、それが一気に緊迫した雰囲気に変わる。


 僕たちは、そのまま報告に来た男に急かされるように地下牢へ。


 地下牢の中は、濃い死臭に満ち、牢屋の中には死後何年も放置されているような白骨死体まであった。


 そんなジメジメとした不快な地下牢の中を、僕たちは小走りで進んでいく。たどり着いたのは、錠前が破壊された一番奥の牢屋だった。


「ッ⁉」

「ッ!」


 一番奥の牢屋に入った瞬間、息を呑むような音が連続する。


 それはそうだろう。そこには、僕も想像していなかったような猟奇的な物体があったからだ。


 それは、女のニンゲンなのだろう。右半身は手足が切り取られているだけで、他に目立った外傷はない。問題は左半身だ。


 それは、まるで何かの実験を思わせた。被検体の左半身は、まるで解剖するかのように皮膚が剥がされ、肉も削がれている。まるで、どこまで壊せばニンゲンが死ぬのかテストしているかのようだった。


 女の残された右目は僕たちの登場に気が付いていないのか、ジッと床の一点を見つめている。


 恐るべきは、猟奇的な死体に思える彼女が、この状態でも生きていることだった。


「な、なんとかしてくだせえ、総長! 聖女様!」

「……ジゼル、できる?」


 僕の実力を知っているはずのオーレリアも、さすがにこの状態からの治癒は難しいと思ったのか、僕に不安そうな目を向けながら尋ねてきた。


 だから、僕は簡潔に返す。


「容易く」


 僕が右手を女に向けると、彼女を包み込むように緑色の光の粒子が飛び回る。


 光が晴れた時、そこには傷一つない裸の女がいた。


「エリザベート!」


 オーレリアは女に駆け寄ると、恐る恐るといった感じでその頬に触れる。


「ぁ……。お嬢様? あぁ……大きくなられて、お綺麗にになられましたね……。あぁ……お嬢様の夢が見られるなんて……。今日の夢はラッキーだわ……」


 ぼんやりと、本当に夢を見ているかのようにしゃべり出すエリザベート。


「早く拘束を外して! そして、服を!」

「拘束はおいらが壊すよ」

「へい! 服を探してきやす!」


 オーレリアの指示で、場が動き出す。


 バーグがエリザベートの手首の錆びた拘束を簡単に壊す。


「あんたは……。破砕のバーグじゃないかい? どうしてこんな所に……?」

「ジャックもいるよ。おいらたちは腐蝕銀鎖に入ったんだ。まあ、入ったのは今日だけどね」

「地擦りも……? やれやれ、今日はやけに面白い夢だね……」

「夢なんかじゃないわ、エリザベート! 助けに来るのが遅くなってしまって本当にごめんなさい……」

「体も痛くないどころか、傷一つない……。こんなの、夢じゃなきゃおかしいんだよ……」


 うぅーん。一応、外傷はすべて治したし、病気も治した。精神も治したはずなんだけど、どうやらエリザベートは、あまりのギャップに現状が夢だと勘違いしているようだ。なんだかふわふわしたしゃべり方をしているし、夢見心地なのかもしれない。


 そんなことを考えていたら、オーレリアが僕の肩を掴んでエリザベートの前に連れて行く。


「エリザベート、この子がジゼル。私の妹分で、エリザベートの怪我を治した凄腕の治癒魔法使いよ」

「この子が……?」


 エリザベートは何かを思い出すようにしながら僕を見ていた。


「知らない子だ。夢に知らない子が出るなんてあるんだねえ。それにしてもべっぴんさんだ」

「はぁ……。まあ、しばらくしたら現実だってわかってくれるかしら?」


 極論を言えばエリザベートが今のままでも不都合があるわけではない。一応、約束通り助けたしね。なので、僕たちは服を着たエリザベートを連れて、地下牢を出た。


「それにしても、リアルな夢だねえ。あの憎かった紅の雫の奴らが死んでるし、臭いもかなり本物に近い」

「だから、これは現実なのよ。あとでサムの首も見せてあげるわ」

「そいつはいいね! サムの首なんかあったら、まっさきに蹴飛ばしちまうよ」


 カラカラと笑うエリザベート。どうやらサムのことは嫌いみたいだ。


 僕たちがそのまま屋敷を出ると、そこには百を優に超えるニンゲンの女たちが待ち構えていた。中には、おっかさんを助けてほしいと僕に直談判しに来た娼婦たちもいる。


「おっかさん!」

「おっかさんだ!」

「おっかさん、こんなにやつれちゃって……」


 一斉にエリザベートに集まる女たち。中には手で顔を隠して泣いてるニンゲンもいれば、泣きじゃくっているニンゲンもいた。


「あんたたち……。あぁ……夢でももう一度この子たちに会えたんだ。あたしゃ幸せ者だね……」


 その後、エリザベートは集まったニンゲンの女たちを一人ずつ抱きしめて言葉を交わしていた。


「ありがとうございます、ジゼル様、総長!」

「聖女様、ありがとうございます!」


 エリザベートと言葉を交わした後に、ニンゲンの女たちはわざわざ僕のところまで来てお礼を口にする。


 心がホカホカするね。


 でも、のんびりしている場合ではない。腐蝕銀鎖と獅子心臓の戦争が、もうすぐで始まるのだから。

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