028 地擦りのジャック
ジャックは宣言通り、次々と紅の雫の射手を射殺していった。
その弓捌きは正確無比。一撃で敵を無力化している。
これがスラムでも二つ名付きで呼ばれる者の力なのか。すごいね。
紅の雫側もさすがに危機感を抱いたのだろう。もう窓から顔を出す勇気のある者はいなかった。もしかしたら、射手が全員死んでしまった可能性もあるかもね。
そんなことを考えていたら、なんだか体の奥底から力が漲ってくるような感覚があった。いろいろ経験してきた僕だけど、初めての経験だ。
「もしかして……」
これが噂に聞く階位上昇⁉
魔族、そして魔物は、ニンゲンを倒すと階位上昇という現象が起きる可能性がある。僕は学者じゃないので詳しくは知らないけど、魔族や魔物は敵を倒すと、相手の強さのようなものを少しずつ吸収し、それが溜まると自分も一段に強くなるらしい。
でも、だとするとちょっとおかしい気がする。
だって、僕は敵を倒していない。
どういうことなんだろう?
直近で敵を倒したといえば……。僕の視線はジャックへと向かう。
ジャックはそれこそ二十人は下らないニンゲンをこの短時間で射殺してみせた強者だ。僕はそのジャックに、複数の付与魔法をかけている。
もしかしてだけど、その付与魔法が原因なのだろうか?
でも、今までも僕はハッテンバロー大要塞で魔族に付与魔法を使った覚えはある。その時は階位上昇は起きなかった。
階位上昇が起きるには、敵との距離も重要なのかも?
わからないことだらけだね。
でも、付与魔法をするだけで、僕に倒した相手の強さが少しでも入ってくるのなら、付与魔法のかけ得じゃないかな?
べつに、もし違ったとしても少しの魔力を消費するだけだし、これからはみんなに付与魔法をかけていこう。
「どうしたの、ジゼル? やっぱり怖くなっちゃったかな?」
僕が立ち止まったからだろう。バーグがしゃがんで、心配そうな顔で僕を見ていた。
「だ、大丈夫……」
階位上昇は魔族と魔物しかないかもしれないし、ここは黙っておこう。僕はあまりニンゲンの生態には詳しくないのだ。
「本当に大丈夫?」
「それよりも、これから戦うんだよね?」
「え? うん。そうなるかな」
「腕が鳴るぜ!」
「俺たちには聖女様が付いてるからな!」
「あんまり調子に乗ってると死んじまうぞ?」
「ちげえねえ!」
振り返ると、みんなやる気満々だった。目を血走らせていたりするのはかわいい方で、中には意味もなくナイフをぺろぺろしているニンゲンもいるくらいだ。正直、何を考えているのかまったくわからなくて怖い。
このニンゲンたちに付与魔法を与えれば、僕はもっと強くなれるかもしれない。
まだ推論の段階を超えないし、間違っている可能性もあるけど、可能性が少しでもあるならやるべきだ!
僕はまだ階位上昇をさっきの一度しか経験してないけど、魔族の中にはそれこそ五十回とか経験している魔族もいるくらいだからね。いざという時のために強くなっておいた方がいい。
「これから、みんなに付与魔法をかけるよ。マッシブ、リジェネード、プロテク、ブロック――――」
「おおおおおおおおおおおおお!」
「力が湧いてきたあああああああああああ!」
「すげえええええええ!」
「これが、聖女様の祝福……!」
「祝福を受けた我々に敵などいるか?」
「否! 断じて否!」
なんだかすごい盛り上がってるところ申し訳ないけど、強さが上がる魔法は筋力が上がるマッシブくらいで、あとは防御や回復系の補助魔法なんだけど……。まぁ、本人たちが喜んでいるなら、いっか。
「なんかすごいやる気だね」
そう言うバーグもさっきから準備運動に余念がない。みんなと一緒に突撃する気かな?
「これは聖女様! ジャックの姿が見えたのでもしやと思いましたが、このような所へようこそおいでくださいました」
「クラウス」
「ちょっと! 何でジゼルが最前線まで来てるのよ⁉」
「お姉様」
現れたのはクラウスとオーレリアだった。ここは対紅の雫の最前線だし、一番重要な場所だ。やっぱりこの二人はいるよね。
「娼婦? たちに頼まれたんだ。エリザベートを助けてって」
「そう……。だからって……。危ないでしょ? 早く戻りなさい」
「まあまあ総長。エリザベートの状態ですが、一刻を争う状態やもしれませぬ。ここは聖女様に待機していただくのも手やもしれませぬぞ?」
僕の肩を掴んで押すオーレリアに待ったをかけたのがクラウスだった。
「状況は非常に優位に進んでおります。ここからの逆転は獅子心臓が動かなければありますまい。そして、獅子心臓の拠点には見張りを付けております。状況は限りなく詰みに近い。むしろ、腐蝕銀鎖の本隊である我々と行動を共にした方が安全でしょう」
「僕は彼女たちに約束したんだ。お願い、お姉様」
「うぐ……っ、わか、り、ました。わかりましたわよ、もう! でもクラウス! ジゼルに傷一つ付けたら許しませんからね!」
「傷くらいすぐに治せるよ?」
僕は治癒魔法のスペシャリストだからね。
「そういう意味ではありませんわ!」
叫ぶオーレリアを見て、みんながにこにこしていた。どうしてだろう?
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