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027 紅の雫のアジト

「おっしゃあ! んじゃあよお、みんなで一緒に総長に怒られるかあ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「まあ、仕方ないね」


 ジャックが護衛たちを煽り、バーグがやれやれと首を振っていた。


 でも、二人の顔にあるのは本気の色だ。


 本気なのは二人だけではない。今では僕の護衛を任されていたみんなが、やる気に満ちている。


 もともと、この花街は腐蝕銀鎖のシマだったと聞いた覚えがある。彼らにとって、この花街のニンゲンたち、そしてそれを取りまとめていたエリザベートに仲間意識があるのだろう。


 それに、紅の雫がやった支配方法は、エリザベートを人質にしたひどいものだった。それも腐蝕銀鎖のみんながこんなにも怒っている理由だ。


 僕もみんなにこんなに慕われているニンゲンというものに興味がある。


「じゃあ、行こうか」

「おうよお! その前に、治癒処の場所移動をしっかり連絡しとかねえとなあ」

「そっか」


 僕が移動しちゃうと、ここが治癒する場所として機能しなくなっちゃうのか。


「よし、お前らあ!」

「わ、私たちですか⁉」

「そうだ、お前らだあ。お前らはここに残ってよお、ジゼルが紅の雫のアジトに向かったって伝言を頼むわあ。そんぐらいならできんだろお?」


 ジャックの言葉に、女のニンゲンたちの代表が頷いた。


「わかりました。おっかさんをよろしくお願いします!」

「「「「「お願いします!」」」」」


 ゴンッと重たい音が響き渡る。


「ああ……」


 せっかく治したのに、また女のニンゲンたちが床に頭を叩きつけたのだ。


 僕はもう一度治癒をして、護衛たちの案内に従って紅の雫のアジトを目指す。


 ここはスラムとは思えないぐらい華やかな装いの街通りだけど、今は怒声や悲鳴が聞こえてきて台無しだね。


「そういえば、今って勝ってるの? 負けてるの?」

「おん? 情報によるとだなあ、もう花街の八割方は制圧成功したみてえだなあ。残すところは紅の雫のアジトと残党くらいだと思うぜえ」

「勝ってるんだ」


 しかも、けっこう圧勝っぽい。相手はこのスラムでも二番目に大きい勢力を誇っていたらしいけど、予想以上に弱い印象だ。


「クラウス老。噂では聞いていたけど、すごい人みたいだね」

「いや、バーグ。今回は完璧な奇襲になるからなあ。もう再起不可能と思ってた奴らが、いきなり千を超える兵隊で襲ってくるんだぜえ? ここまでお膳立てされたら、サルでも勝てらあなあ」


 そう言ってケタケタと笑うジャック。


 でも、次の瞬間には、まるで狩人のような鋭い顔つきになる。


「まあ、あの爺さんの用兵は見事なのは否定しねえけどよお。それが本当に発揮されるのは、獅子心臓との戦争だろうぜえ」


 クラウス。たしかあの会議の場にいた老ニンゲンだよね?


 そんなすごい人だったんだ。そんな強そうには見えなかったけど、人は見かけによらないなぁ。


 そんなことを思いながら歩いていくと、大きな屋敷のようなものが見えてきた。腐蝕銀鎖の屋敷よりも立派だと思う。


 腐蝕銀鎖の屋敷は質実剛健といった感じで地味だったけど、このお屋敷は逆に装飾華美のような印象を受けた。


 矢の応酬をしているのか、屋敷と地面の間を何かがビュンビュンと飛んでいる。


 屋敷の窓からサッと顔を出して、矢を撃ってすぐに顔を引っ込めているのが見えた。


 対する地上に展開しているのが腐蝕銀鎖の兵隊だろう。どこかから外してきたのか、雨戸のような木の板を盾にして矢を防ぎ、木の板の隙間から反撃の矢を放っているようだ。


 地上に展開している腐蝕銀鎖の兵隊はそれだけではない。


 木の板を盾にしながら、屋敷の閉められた門に向かって丸太をぶつけていた。


 さながら攻城戦だね。


「ったく、下手くそどもめがよお……」


 そう言って一人で先に歩き出すジャック。ジャックは背中に背負っていた大きな弓を構えながら、腰に吊った矢筒から矢を取り出す。


「ジャックって弓が得意なの?」

「うーん……。たぶん、このスラムでは最強の射手じゃないかな? 少なくとも、おいらは相手にしたくないよ。ほら、ジャックって右足を引きずっていたでしょ? だから、弓使いの間では足引きの弓使いには気を付けろって言われてるんだって。それで付いた二つ名が地擦りのジャック」

「へー……」


 そして、僕はジャックの実力をすぐに知ることになる。


 敵兵が窓から矢を撃つためにほんの一瞬見せる顔や上半身。それをいとも簡単そうに射抜いていくジャック。


 屋敷の二階の窓にあった窓は八。ジャックは、その射手八人を次々と射殺してしまった。


 あまりにあまりな展開に、怒号の響いていた戦場に沈黙が降りてしまったほどだ。


「おい、矢を持ってこいよお。片付けてやっからよお」

「へ、へい!」


 戦場の視線を独り占めしたジャックは、いつものジャックだった。ダルそうに矢を受け取ると、ザクッと地面に矢束を突き刺す。


「ほれ、射手は何とかしてやっから、早く突撃しろよお」

「は、はい!」

「と、突撃だあ!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

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