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026 娼婦たちのお願い

「おう、お願いしますだけじゃあなんの情報もねえんだよなあ。そのエリザベートってのは今どこにいるんだよお?」


 たしかに。


 ジャックの言葉は乱暴だけど、言う通りだ。エリザベートっていうのがどこにいるのかわからないと治癒のしようがない。


「それが……」

「紅の雫のアジトだと思います! あそこには地下牢が――――」

「お願いします! おっかさんはもう体が……」

「あたしたちの誰かが逃げようとすると、おっかさんの体の一部が、腕や足が切り取られて広場に磔にされるんです!」

「だから、あたしたちは、どんなひどい目に遭っても、逃げることができなかった……」

「この花街でおっかさんに感謝してない娼婦はいません! だから――――」

「お願いします! どうか、どうかおっかさんを助けてください!」


 問われたニンゲンたちが、まるで堰を切ったように口々に語り出す。


 よく見れば、ニンゲンたちは日常的に暴力を振るわれていたのか、青あざや古傷のようなものがあるのが見えた。


 なんだか、その姿はハッテンバロー大要塞の治癒室に瓶詰にされていた自分を思い出させた。


 僕には何か依存するような対象はなかったけど、彼女たちにとってそのエリザベートというのが依存対象……。いや、この場合は恩人という表現でいいのかな?


 そして、そのエリザベートを助けることもできずに、これ以上エリザベートに怪我をさせないように紅の雫の命令を唯々諾々と聞くしかなかった。


 僕の場合は人質とかはなかったから、ハッテンバロー大要塞から逃げることができたけど、彼女たちのように大切な存在を人質に取られたら逃げることもできなかっただろう。


 そう思うと、僕の環境も最悪だと思っていたけど、僕よりもひどい境遇のように思えて、なんだか無視もできない。


「お願いします、通してください!」

「早くしないと!」

「どうか、どうかおっかさんだけでも!」


 拠点の外からは、さっきからそんな叫び声が頻繁に漏れ聞こえてくる。


 たぶん、彼女たちもこのニンゲンたちと同じようにエリザベートを救ってほしいと頼みに来たのだろう。


 オーレリアにはここを動かないように言われているけど……。


「行くしかないね」


 僕は立ち上がる。


「いいのかあ? 絶対にお姫さんに怒られるぜえ? それに、ジゼルの安全を考えるなら――――」


 なんだか必死に現状を変えようとする彼女たちを自分を重ねてしまった。ならもうダメだ。


 それに、こんなに慕われているニンゲンというのにも興味がある。


「ジャックとバーグがいるから大丈夫だよ」

「あん?」

「ははっ! そう言われちゃ仕方ないよね、相棒」

「まあなあ……」


 バーグに肩を叩かれて、ジャックは苦笑いをしながら頷いていた。


「ありがとうございます!」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

「どうか、おっかさんを!」

「お願いします! お願いします!」

「おっかさん……」


 ニンゲンたちの礼を受け取りながら、僕は歩き出す。


「あ、そうだ」


 このニンゲンたちも怪我してるんだったね。


「えい」


 僕が治癒魔法を使うと、ニンゲンたちを緑の光の粒子が包み込む。


「これは……?」

「痛くない! 痛くないよ!」

「これが魔法……!」

「ありがとうございます!」


 怪我の他にも病気をしているみたいだったし、そっちも治しておいた。


 僕の前で怪我や病気をしている味方がいるなんて、なんだか気持ち悪いからね。


 それに、お礼を言われると、僕の心がほかほかするんだ。やっぱり、心地いいものだね。


「ジゼルのお嬢!」

「お嬢! どこ行くんです?」

「トイレですかい?」

「ちょっと紅の雫のアジトまでー」


 僕が答えると、僕の護衛にあたっていたニンゲンたちがギョッとした顔をした。


「あそこは今、激戦地ですぜ⁉」

「そんな所に連れてって、お嬢に何かあったら死んでも詫びきれねえ!」

「見つかっただけで俺たちが怒られちまう」

「ジゼルのお嬢だって総長に怒られちまいますぜ?」


 口々に僕を止めようとする護衛のニンゲンたち。


 彼らは僕を守るためにいるからね。僕が危険な場所に行くのは看過できないのだろう。


 でも!


「僕は、彼女たちと約束したんだ。エリザベートを助けるって。でも、エリザベートってまだ生きているのかもわからない。だから、僕が行かないと。だから――――僕と一緒に怒られてくれないかな?」

「それは……」

「エリザベートさんを助けてえのは確かですがね……」

「みんな!」


 その時、あるニンゲンが声をあげる。


「昔の話だ……。おらは花街の娘に身の程知らずの恋をして、でも、エリザベートさんが店主に口を利いてくれたばかりか、金まで貸してくれてよ。今じゃおらの自慢の嫁なんだ。嫁がいたら、迷わず行けって言うと思う。だから、おらは行く!」

「……そいやあ、酔ってやらかして、出禁になった店にエリザベートさん口利いてくれたことがあったなぁ」

「俺も昔、世話になったよ……。だったらよ、今こそ動くべきなんじゃねえのか?」

「そうじゃなくても、紅の雫はオデのミーミアちゃんにひどいことした奴らだ! ミーミアちゃんもおっかさんには世話になったって言ってた。もう許しておけねえよ!」

お読みいただき、ありがとうございます!

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