025 カチコミとパパ
「おらあああああああああ!」
「カチコミじゃあああああああああああ!」
「わりい紅の雫は消毒だあああああああ!」
「ぶっ殺せえええええええ!」
遠くで物騒な叫び声が響いている。
ここは、南スラムの中でも花街と呼ばれる区画らしい。スラムにしては建物や人々も着飾り、豪華な装いの街だった。
まぁ、今はドンパチの真っただ中だけどね。
そんな花街のメインストリートに面する一角の建物の中に僕はいた。僕の傍にはジャックとバーグの姿もある。
「ジゼルのお嬢! 頼んます!」
「かひゅ……、かひゅ……」
「いでえ、いでえよお……」
「ガハッ! ふ、不覚……」
ドアを蹴破るように現れたのは、肩に矢の刺さった男だった。
その男の向こうでは、胸に矢を受けた負傷者や深い傷を負った負傷者が乗せられた大八車が見える。
こうして大八車で負傷者を回収し、僕が拠点で治癒をする作戦だ。
「まず、矢を抜いちゃおう」
「そうだなあ」
「抜くのは任せてよ」
僕の指示で、ジャックとバーグが怪我人の矢を抜いていく。
「いでえ⁉」
「おま、ちょっとは手加減してよ⁉」
「手加減してたら抜ける矢なんざねえよお」
一見、無慈悲に味方に刺さった矢を抜いていくジャックとバーグ。
そして、全部の矢が抜けたのを確認すると、僕が治癒魔法を使う。
「痛くねえ! ありがとうございやす、ジゼルのお嬢!」
「おっしゃ! お嬢あざっす!」
「この借りは返さねえとな! お嬢! ありがとうございます! もういっちょ、行ってきますわ!」
「死なないようにねー」
さすがに死なれたら僕でも治せないからね。
「「「「「うぃーっす!」」」」」
わかっているのかいないのか、軽い調子で駆けていく男たち。
さっきまで死にそうな顔してたのに、みんな元気だなぁ。
「ジゼル、魔力は大丈夫かあ? 辛くはねえかあ?」
「うん」
血で汚れた手を払いながら、ジャックが訊いてくる。その顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
まぁ、今日だけでかなり治癒魔法を使ったように見えるのだろう。
でも、ハッテンバロー大要塞の治癒を一手に引き受けてきた僕の能力をナメてもらっては困るよ。これぐらい、全然へっちゃらである。むしろ、ハッテンバロー大要塞での業務に比べれば天国だね。
「パパは心配性だねー」
「パパじゃねえ!」
このバーグのパパ弄りも慣れてきたね。
だから、僕はバーグに教えてもらった追撃をジャックに入れることに決めた。
「え? 違うの、パパ……」
「な⁉ おめえ……⁉ いや、違うとかそうじゃねえんだが、まあ、なんだあ。どういう状況なんだあ? てめえの差し金か、バーグ!」
「どうだろうね?」
「パパ……」
「あああああああああああ! もう、それやめろ!」
ジャックが頭を両手で掻き毟る。どうやらいじめすぎちゃったみたいだ。
バーグがジャックに見えないようにウィンクしていた。それに僕は頷くことで応える。なんだか楽しいかも?
その時だった。
「ここですか! お願いがあります! 通してください!」
僕の聞き間違いじゃなければ、女個体のニンゲンの声だ。
オーレリアの妹分である僕の地位は、腐蝕銀鎖の中ではかなり高い。それに、貴重な治癒魔法使いだ。
その結果、何が起きるかというと、過剰なくらいの警備体制である。
僕のいる建物を二重に囲うようにニンゲンによる結界が敷かれているらしい。すごいね。
だから、不審者は入れないのだ。
「かまわねえ! 通してやんなあ!」
ジャックが叫ぶと、転がり込むような勢いで女個体のニンゲンが入ってきた。この花街ではそういう服が流行っているのか、スケスケの服を着たニンゲンたちだ。年齢はオーレリアとそう変わりはないと思う。
彼女たちは、みんな殴られたような痕や、切り傷があった。些細な怪我だけど、怪我であることには変わりない。治してあげ――――。
「お願いします!」
「「「「「お願いします!」」」」」」
「え?」
彼女たちは、入った途端に転ぶような勢いで床に頭を突いた。
きっと彼女たちの代表なのだろう。一人のニンゲンが頭を上げる。そのおでこは強く床に叩き付けたせいでだんだん青くなっていく。
でも、そのニンゲンはそんなことには一切かまわずに叫ぶ。
「お願いします! おっかさんを! おっかさんを助けてください! お願いします!」
そう言うと、ニンゲンはまた頭を床に叩き付ける。
おっかさん? おっかさんって何?
「ねえ、おっかさんって何?」
「おそらくだがよお、おっかさんってのは――――」
「腐蝕銀鎖の花街を取り仕切っていた女傑エリザベート……。生きていたのか……」
どうやら、ジャックとバーグは知っているみたいだ。
エリザベート。そのニンゲンがおっかさんと呼ばれているみたいだ。
「なにとぞ! なにとぞ、お願いします!」
「「「「お願いします!」」」」」
女ニンゲンたちがまた頭を下げた。どうやら、そのエリザベートという個体は、彼女たちにとってとても大切なものらしい。
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