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八話  ユタカは悪魔召喚を目の当たりにする

 


「私は恨まれる身に覚えが全くないのだが……?」



 リズ様が切実な声でそう言った。

 双子はギリッと音がする程、歯を食いしばって怒りをあらわにする。



「貴様はグリストミル様の(かたき)だ!」



 グリストミルの名前を聞いた瞬間に、リズ様はこめかみを押さえていた。

 俺も苦笑するしかなかった。

 まさかグリストミルの縁者だったとは。

 グリになって大人しくなったと思ったら、別方向からリズ様に絡んでくるんだからこのトラブルメーカーっぷりは才能ではないだろうか。



「僕達がグリストミル様を思い出した時には既にグリストミル様は地球にいた。追い掛ける間もなく、グリストミル様の気配が消失していくのを、僕は、僕達は……どうする事もできなかった!」



 涙ながらに叫ぶ。

 そうか、グリストミルも神界から存在が消え、リズ様同様、忘れ去られた存在だったんだ。

 ようやく思い出した相手に会う事も叶わず、その悲しみをぶちまけているのか。



「リスドォル、お前が、お前が……グリストミル様から全てを奪い、僕達からも大切な御方を奪った!!」



 リズ様は完全に被害者なのだが、視点によって都合よく事実がねじ曲がる事はよくある話だ。

 本当にリズ様は不幸体質なんだと実感した。



「それで、レジャンデールを襲ったのはどういう理由だ」



 うんざりとした様子でため息混じりにリズ様が聞く。

 自分の事はいいとしても、友を傷つけられた事には怒りを感じているのが、リズ様と繋がっている俺にはわかる。



「貴様も大切なものを全て失い、絶望に突き落とされて死ぬのだ! この力はそのための準備に他ならない!」

「ほう、魔神ごときが神の力が戻った私に勝てるとでも?」



 リズ様が静かに臨戦態勢に入る。

 しかし双子は何故か距離を取った。



「ハッ! 僕達も馬鹿ではない。魔王と神の融合体であるお前に勝てるなんて思ってはいないさ」

「レジャンデール神の力は貴様を葬るための、いわば供物!」



 双子が片手を天に掲げ、掌から光を放った。

 光の先には魔方陣が展開され、緑色の輝きが一瞬で走る。



「召喚魔法か。流石に完成が早いな……」



 双子が奪ったレジィの力は強力で、瞬時に魔法を完成させてしまったようだ。

 あっと言う暇すらない速さで魔方陣に魔力供給が終わり、召喚が確定してしまった。完成した魔方陣を破壊することは出来ないらしく、俺達はただ指をくわえて眺めるだけになった。



「魔王、多分あれは悪魔召喚だ」



 魔方陣の内容を理解しているのはリズ様とフランセーズだけで、俺とデュラムはキョトンとしている。

 リズ様とフランセーズは理論派で、俺とデュラムは感覚派なのがよく出ている。



「悪魔ってなんか凄そうですね」

「魔王より強いのか?」



 俺とデュラムがそう言うと、リズ様もフランセーズも微妙な顔をした。



「序列で言うなら天使の次くらいだが、個々の戦闘力で言えば人間より多少頑丈という程度だな」

「悪魔は基本的には擬態して種族に入り込んで、その種族に破滅をもたらすと言われているけど、戦闘に参加した記述を見た事はないね」



 ふむふむ。二人の悪魔に対しての認識は共通して戦闘向きではないという事か。

 戦闘能力は無いけど、内側から操ったり、騙したり、トロイの木馬みたいな攻撃を仕掛けるタイプのようだ。

 地球で伝わってる悪魔とそこまで大きなイメージの差はないかも?


 そんな事を考えていると、直ぐ目の前に落雷が起きた。

 轟音が響いた後に残る黒い雷が少しずつ人の形になっていく。



「我は悪魔クラウン」



 クラウンと名乗った存在は、肩に掛かる黒髪のダウナーな雰囲気のある男だ。

 年齢は二十代前半くらいで、細身の長身だけど、少し猫背気味で表情にあまり覇気を感じない所がミステリアスさを演出している。

 頭には二本の角があり、見た目で言えば完全にリズ様より魔王度が高い。

 服装も黒を基調としたゴシックなデザインでビジュアル系魔王って感じがする。



「魔王より魔王だね」

「魔王より魔王じゃん」

「リズ様より魔王っぽいですね」



 俺達三人はほぼ同時に思った事を口に出していた。

 纏ってる黒い雷もだし、黒いコウモリみたいな翼もそれっぽいんだよな。



「見た目で魔王は決まらぬ」



 ちょっとムッとしてるリズ様が可愛い。



「ましてや悪魔は、多少の催眠や記憶改変くらいしかできぬ存在と私は認識しているが?」

「その通りだな」



 リズ様の言葉に、クラウンは無表情に答える。

 事実を事実として静かに告げる声は風格があり、魔王を目の前にしても怯むことのない余裕はまだまだ底が見えなさそうだ。



「僕達が何の意味もなくこの悪魔を喚んだと思っているのか?」



 双子が勝利を確信したように口の端を吊り上げる。



「魔王である貴様は、魔物の中でも例外中の例外だ」

「しかし、他の種族にも、そういう存在がいてもおかしくあるまい?」



 そう双子が言い終えた時。

 クラウンの額に大きな目玉が現れた。



「我の力、見せてやろう。全てを忘れ、魔王が本来在るべき姿へと誘ってやる」



 カッとその目が光り、あまりの明るさに世界が白に染まった。



「ぐっ、あ、あぁ!」

「リズ様!?」



 リズ様の声に慌てて目を凝らす。

 何が起きた!?

 クラウンは腕を組み、余裕の表情で現状を告げた。



「もう魔王はお前達の知る存在ではない。こいつは大切な者を忘れ、魔物である本能に忠実となったのだ。本来の魔王が誕生した瞬間に立ち会えた事を喜ぶがいい」



 そう言うとクラウンは双子の後ろに下がった。

 そんな事より俺は頭を抱えて苦しそうなリズ様に近付き、肩を揺する。



「リズ様、リズ様!」

「五月蝿い、その名で呼ぶな!」



 いきなり振り払われて、リズ様の長い爪で俺の手の甲が切れてしまう。

 初対面でもこんな激しい態度だった事がなくて新鮮な気持ちになる。



「えっと……じゃあ、魔王様……俺の事がわからないんですか?」

「貴様なぞ知らぬわ、馴れ馴れしいぞ」

「っしゃあ!」



 さっきのクラウンの発言からすると、俺が大切な存在ってことだよな。

 めちゃくちゃ嬉しかったので、自然とガッツポーズが出ていた。



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