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十四話 炎の勇者デュラムは先生になる

 


 ユタカの世界から自分の世界へ戻ってきた。

 魔王城でフランセーズと解散し、別行動になった。

 魔王不在で、俺達勇者がどう動けばいいのか保留になっているからだ。

 フランセーズはラトラディションへ行って、気持ちの整理をすると言っていた。

 滅んだ国の再建なんて、俺にはどうするのかもサッパリだが、あいつならやり遂げる気がする。



 俺も孤児院建設の夢を実現させるぞ。

 そう意気込んではみたが、現実は厳しい。


 孤児院を開きたいと思った所で、現状は金もコネも土地もない。

 色々と状況が変わってしまって神からの報酬もアテにできないしな。


 だが幸い、この魔王城には寝泊まりする場所も、食糧庫もある。

 いきなり孤児院とまではいかなくても、子供に無償で食事を提供するような場所から始めてみるのも悪くないかもしれない。

 どうせ今は城に誰もいない。

 勝手に城を使って魔王が怒るとも思えないし、大廊下を借りて一回やってみよう。



 魔王城は、人里からはかなり離れている。

 まずは簡単にお腹をすかせた子供を移動させる方法を考える。

 魔王がやってた配置タイプの魔方陣が一番楽かもな。


 魔王城って事を隠して子供を連れて来るって、なんだか俺が魔王の手先で、誘拐事件を起こしているみたいだ。

 勇者とは真逆の行いに一人で苦笑する。


 魔方陣の勉強から始めるか、と思った時、魔王城に人の気配がした。

 もちろん、魔王でもユタカでもない。その気配には魔力が少な過ぎる。



「人間がわざわざ近寄るなんて命知らずかよ」



 魔王は実際の所そんなに危険ではないが、そんな事を知らない人間は普通こんな気軽にやってこない。

 何があるかわからないからこそ、危険を想定して近寄らない。それが人間側にできる一番の自衛だ。

 ここで魔王城に何もなかったなんて情報が出てしまっては、危機感がなくなっておかしな行動に出る人間が増えるかもしれない。

 程々にビビらせて丁重にお帰りいただこう。

 俺は気配を感じた方へ静かに移動した。



 ◇◇◇



 手当たり次第に部屋を覗いている十歳くらいの子供がいた。

 まさか盗賊でも冒険者でも調査隊でもなく子供とは。

 ビビらせて追い返すという気分にはなれなかった。



「おい少年」

「うわあああ!?」



 背後に立って声を掛けると、子供はその場で飛び跳ねんばかりに驚いている。



「ヒャ……あ、れ……人間……?」

「そうだよ、炎の料理人デュラム様だ」



 安心したのか少年はへたり込んでしまう。

 よく見れば服はボロボロで臭いも酷い。何より骨と皮と言ってもいい痩せ方。

 俺は過去の自分を見ているようで、すぐに行動は決まった。

 その当時の俺がして欲しかった事をコイツにしてやる。


 無料こども食堂の一人目の利用者、ご案内だ。



 とは言ってもまだ食事は作っていないから、まずは風呂だ。

 さっさと全身を洗ってお湯に浸からせる。

 その間に着ていたボロ服を洗って、俺のシャツを用意する。

 風呂から出してシャツを着せ、俺の部屋のベッドに運び込む。

 そのまま添い寝して一定リズムで背中を叩いてやる。

 あっという間に少年は眠りに落ちた。



 よし、ここからが本番だ。

 あの様子じゃあ、一気に物を食べさせるとキツイかもしれないから、消化に良いスープをメインにしよう。

 胃が慣れて来た頃には、食べ切れない程の料理を並べて、好きな物を好きなだけ食べさせてやるんだ。

 魔王城なんかに来るんだ、きっとろくでもない状況だろう。

 数日預かった所で問題ないはずだ。



 ◇◇◇



「少年、名前は?」



 渾身の出来となった野菜ゴロゴロスープを一心不乱に口に運ぶ少年。

 ゴロゴロと言ったが、ダイスより少しだけ小さい四角に切り揃えた沢山の野菜。

 その旨味が滲み出たスープは最高だ。

 野菜だけでなく、動物の肉も小さく刻んで入れてある。これは具というより、肉と脂の旨味を追加する用途だな。

 それだけでグッと味に深みが出る。


 少年は一通り食べ進んで、ようやく『ジン』と口にした。



「ジン、美味いか?」

「美味しい、今まで食べた中で一番!」



 それは良かった。

 ジンはぐっすり寝たお陰もあって、かなり元気だ。

 十二時間は起きなかったので、それだけスープが煮込めたからかなり食べやすくなったし、味も具に馴染んで最高だった。



「ジンはなんで魔王城なんかに来たんだ?」

「魔王城に、お宝があるって噂を聞いて……それで、一攫千金を狙おうと思った」

「え、どっかの悪党の命令とかじゃねーのかよ!?」



 奴隷のように子供を死地に送り込む大人を幾度となく俺は見てきた。

 てっきり強制されて城に入ったのかと思ったが、予想は外れたらしい。



「命令じゃない。忍び込むなら体が小さい子供の方が有利かもって思って……。それに誰も近付かないくらい危険なら、誰にもお宝は奪われてない可能性が高いだろ。どうせこのままでも餓死するくらいなら、魔王に挑んで死んだ方がカッコイイじゃん」

「うぐぅっ……!!」



 最近の子供ってこんなにしっかりしてるの?

 感動しちゃった。涙が溢れて止まらない。



「え、え、大丈夫?」

「ぐすっ、ぐうぅ……だいじょーぶ、いつもの発作……少年、マジでカッコイイよ」



 ナプキンで顔を拭ってから、ジンの頭を撫でる。

 一瞬怯えたように固まったが、すぐに力が抜けて、口元が笑い出した。



「なあジン。お前は帰る場所、あるのか?」

「ない」



 簡潔に一言だけ。

 帰る場所があれば、魔王城に来るなんて選択肢は取らないと思う。

 ちゃんとした居場所があれば、子供がこんな遠くの不確かで危険な情報に飛びつくはずがない。



「家族は?」

「いない」

「そうか、俺と一緒だな」

「え」



 ジンは俺を見上げた。



「ジン、俺の家族にならねぇ?」

「家族?」

「これから俺は孤児院をつくる。どれだけ経営が苦しくても、食事だけはお腹いっぱい食べられる、子供のための家をつくりたいと思ってる」

「すごい……」

「だからさ、まずはジンが一人目の家族になってくれたら嬉しいなって思ってさ。どんな料理が子供に合うか聞きたいし、家作りにも子供目線の意見が全面的に欲しい。お前は頭も良いし、頼りになりそうだし」



 そう言うと、ジンは照れ臭そうに俯いた。

 でもすぐに顔を上げる。



「なります! お願いします、魔王様!!」

「魔王さまぁ!?」

「俺も、料理でも、家事でも、なんでも覚えます! 孤児院のため、魔王様ために頑張ります!」

「違う、違うぞ、俺は魔王じゃねぇ」



 そりゃそうか、魔王城でいきなり出てきた存在をそう思っても当然だ。

 魔王じゃないが、何もせずに魔王城をフラフラしてる勇者とも言い辛い。

 誤解を解くにしてもただの人間が暮らしている理由もすぐには浮かばない。



「えーっと、最初にも言ったが、俺は料理人で人間だ。ここには料理の指導で立ち寄っただけで……」

「では先生ですね!」

「お、おお……それでいいや」



 まあ、追い追い説明していけばいい。

 こうして俺の孤児院への第一歩が始まった。



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