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十二話 春野豊は魔王様を実家に招待する

 


 無事に仮病で早退できた。自転車を押しながらリズ様と通学路を歩いている。

 これは夢か?

 俺は実はあの戦いで死んでいて、都合よく見ている幻覚とか?

 何度もチラチラとリズ様の顔を見てしまう。



「なんだ?」

「なんか、夢みたいだなって……」

「夢か。そうだ、ユタカが言っていたデートができるのではないか?」

「あ、買い食いデートできますね!」



 田舎であんまり店はないけど、途中にコンビニがある。

 リズ様とお菓子をいくつか選んだ後、ホットスナックコーナーを見て唐揚げと肉まんを買った。


 飲み物を買い忘れたので、途中、自販機でお茶を買った。

 リズ様がボタン一つで物が出てくる事に感動して反応が良かったので、勢いでジュースもコーヒーも水も買ってしまった。



「そこの公園に入りますね」



 砂場と滑り台とブランコくらいしかない小さな公園だ。

 ブランコに座って一つ一つ食べ比べていく。



「どれも美味だな……こんなレベルの物が常に食べられるとは、恐ろしい世界だ」

「リズ様の創った世界じゃないですか」

「一応記憶も戻ったが、年月が経ちすぎていて他人の記憶とさほど変わらなくてな。どうにも実感が湧かぬのだ」



 リズ様はそう言って肉まんを頬張りながらブランコを揺らす。



「そもそも私が眺めていた時はこんなに文明が発達していなかったしな」

「確かに、急速に発展したのは最近な気がします」



 あんまり歴史は得意じゃないけど、ここ百年くらいの変化は凄いと思う。



「リズ様は、神様ではなくて、これからも魔王として生きていくんですよね」

「ああ、そうしたいと思っている」

「じゃあ、魔界で暮らすんですよね? 俺も一緒に行ってもいいでしょうか」



 驚いたようにこちらを見るリズ様。



「ユタカは地球に家族も友人もいるのだ。わざわざ魔界でなくても私をこちらに呼ぶ方が良いのではないか?」



 リズ様は地球で俺と暮らす事も視野に入れてくれているのだ。

 それだけで幸せな気持ちになる。



「いいえ。同じ地球にいたって結婚後に会わない家族もいますし、そこは全く問題じゃないです。神の力のお陰で移動も出来るようになりますし、二度と会えない訳でもないので」



 そこで一度言葉を切った。

 少しだけ迷って、それでも俺は話を続ける。



「ただ、異世界の居心地が良過ぎたんです。誰も俺の恋をおかしいと言わなくて、応援してくれて。こっちでも両親も山里も受け入れてくれましたけど、それって奇跡と言えるくらい凄い事なんです。それをわかっているから、地球で住みましょうなんて言えないです。リズ様が嫌な思いをして、もしリズ様が地球を嫌いになったらどうしようって……俺、そんな事ばっかり考えちゃって」



 リズ様はブランコから降りて、俺の前にしゃがんで手を握ってくれる。



「ユタカ、お前の言いたい事はわかった。お前はずっと気にしていたからな」



 気にしていた、というのは、今までの発言だけではなく、この移動中の俺の様子だと思う。

 近所の人に話し掛けられた時にリズ様をどう説明したらいいのか、という俺の迷いや落ち着かなさを感じ取っていたのだろう。



「でもな、何があっても私はこの世界を嫌いにはならない。お前が気に病む必要はない。それも含めて私の世界だからな」

「はい」

「だが、魔界に来たいのであれば大歓迎だ。ほとんど他の魔物に会う事もない。面白いものはないと思うが、野菜を育てて、散歩をして、静かに暮らすのなら最高の場所だ」



 公園を出てから、魔界の良い所や悪い所をリズ様は語り聞かせてくれた。

 俺のこちらの生活についても話し、最終的に高校を卒業したら魔界に住む事に決めた。

 少し前の俺だったら、すぐにでも魔界に行きたかっただろう。

 だが今は魔王様が待っていてくれることもわかっているし、とても穏やかな気持ちで将来を考えられた。

 魔力的に結婚済みという事実が一番俺を安心させたからだと思う。



 ゆっくり歩きながらそんな話をしていたら、とうとう俺の家が見えてきた。

 一軒家に三人暮らしだから、広さにはそこそこ余裕があるから来客には対応できる。

 事前に連絡も入れたから母が準備しているだろう。

 自転車の距離を歩いたから時間の余裕もあったはずだ。



「ほう、ここがユタカの家か」

「自転車置いて来るんでちょっと待ってて下さい」



 車庫の奥に自転車を置いて、すぐに戻って玄関のチャイムを鳴らす。

 インターホン越しに母のハイという声が聞こえる。



「ユタカだけど、準備いい!?」

『いいわよ!』



 バタバタとリビングから玄関先へ走って来る母の足音が聞こえる。

 ガチャガチャと鍵が内側から開けられる音がした。



「ただいま」

「お帰り。さ、どうぞどうぞ、中へ入って」



 俺が扉を開け、母が緊張したようにスリッパを出している。

 まだきっとリズ様の顔すらろくに見れていない。



「リズさ……ん、どうぞ」



 危ない。様って付けないように気をつけないと。



「お邪魔します」



 あれ?

 なんかリズ様の声の雰囲気が違う。

 いつもの少し気だるそうな低い声じゃなくて、爽やかな営業マンみたいだ。



「初めまして、須藤リズと申します。今日は突然の訪問にも関わらずお時間をつくっていただきありがとうございます」

「あらぁ、ご丁寧に」

「御手を失礼しても?」

「え、ええ……」



 リズ様は自然と母の手を取り、映画のワンシーンみたいに手の甲にキスをした。



「ユタカからお母様の話はよく伺ってます。料理がとてもお上手で、控えめで聡明な方だと聞いていましたので、お会いできてとても嬉しいです」



 白い歯を見せながら極上の笑みで母を見つめているリズ様を凝視した。


 ……誰!?



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