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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第3章 冬霞~森に広がる新たな縁~

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第90話 香りに誘われて

第90話 香りに誘われて


 家の中で手をこすり合わせながら、紬は今日の食事について考えていた。


「今日は、温かいものが食べたいなぁ」


 外はすっかり冷え込むようになり、雪こそまだ積もっていないものの、冬が近づいていることを肌で感じる。


 こんな日には、温かい料理が食べたくなる。


「今日はポトフにしよう!」


 紬はさっそく保存してある食材を確認した。

取り出したのは、乾燥させておいた山菜とキノコ、それからスタンプボアの燻製。

ほかにも、ポトフに入れるパーコロを用意する。


「これだけあれば、おいしいものが作れそう!」


 紬は食材を並べながら、もうひとつ作りたいものを思い出した。


「カチワリ団子も作ろうかな」


 ほんのり甘い、堅パンのようなものを作ってみたいと思っていたのだ。カチワリの実を使えば、きっとおいしくなるはず。そう考えた紬は、まずポトフから取りかかることにした。


     *


 暖炉に火をくべ、料理を始める。まずは、カチワリの殻を器として使い、その中にスタンプボアの油を入れた。

火にかけて油が温まったところで、乾燥させた山菜とキノコ、スタンプボアの燻製を加える。


 じゅうっ。


 食材が油に触れ、小さな音を立てた。


「いい音〜」


 紬は木の道具でゆっくりとかき混ぜながら、食材を炒めていく。乾燥した山菜やキノコは、油を吸いながら少しずつ柔らかさを取り戻していった。

そこへ、塩を振る。

続いて、乾燥させておいたロリエーヌとボンヌオドールを加えた。


「この組み合わせ、どんな香りになるかな?」


 紬は鼻を近づけ、ふわりと漂ってきた香りを確かめた。


 燻製の香ばしさに、山菜やキノコの香り。そこへハーブの爽やかな香りが重なっていく。


「うん、いい感じ!」


 食材を炒め終えると、大木の水を注いだ。

じわじわと温まっていた水が、やがて小さな泡を立て始める。紬はパーコロを加え、全体を軽く混ぜた。

あとは、ゆっくり煮込むだけだ。


 暖炉の火加減を調整しながら、紬は鍋の様子を見守った。しばらくすると、湯気とともに料理の香りが広がり始める。

燻製の旨みが溶け出したスープに、山菜とキノコ、ハーブの香りが混ざり合う。


「お腹が空いてきちゃった……」


 まだ完成していないというのに、紬のお腹が小さく鳴った。


「もう少し、もう少し!」


 自分に言い聞かせるようにつぶやき、紬は次の料理に取りかかった。


     * 


 カチワリ団子を作るため、紬はカチワリの実を用意した。

まずは、実を蒸し焼きにする。

火加減に気をつけながら、しばらく加熱していくと、実が少しずつ柔らかくなってきた。


「そろそろいいかな?」


 状態を確かめてから取り出し、中身をすり潰していく。

力を入れながら、少しずつ形を崩していった。

なめらかになってきたところで、乾燥アカツブとブルブルベリーを加える。

さらに、大木の水を少しずつ混ぜながら練っていった。


「こんな感じかな?」


 生地を手でまとめ、丸く形を整える。最後に、平たくなるように押さえた。できあがった生地を暖炉に置いてある焼き石の上に並べる。

表面が焦げすぎないように気をつけながら、じっくりと焼いていく。

しばらくすると、表面が少しずつ乾き、焼き色がつき始めた。


「おおっ、いい感じ!」


 紬はひっくり返し、反対側も焼いていく。

やがて、香ばしい匂いがポトフの香りに加わった。

焼き上がったものをひとつ手に取り、少し冷ましてから味見をする。かじると、外側はしっかりとしていて、中はほどよく詰まった食感だった。カチワリの実の風味に、アカツブとブルブルベリーの甘みが加わっている。


「うん! ほんのり甘くておいしい!」


 まさに、堅パンのような仕上がりだった。


 噛むほどに味が広がり、ポトフと一緒に食べるのにもよさそうだ。


「これは成功かな!」


 紬は満足そうに頷いた。あとは、ポトフが煮上がるのを待つだけ。その間に、暖炉の上にある換気屋根を開けることにした。料理をしていると、どうしても煙や湯気がこもってしまう。換気屋根を開けると、暖炉の熱とともに、料理の香りが外へと流れていった。


 ポトフの香ばしい匂いと、ハーブの爽やかな香り。

そこへ、焼き上がったカチワリ団子の甘い香りまで混ざっていく。


「よし、これで大丈夫!」


 紬は換気屋根を確認し、再び料理へと向き直った。

その香りが森の中まで届いているとは思いもしないまま。


     * 


 ポトフが煮上がる頃には、家の中が食欲をそそる香りで満たされていた。


「できたー!」


 紬は嬉しそうに声を上げた。

具材は柔らかくなり、スープにはスタンプボアの燻製の旨みが溶け込んでいる。

ハーブの香りも強すぎず、ちょうどよい具合だった。

カチワリ団子も皿に並べ、食事の準備を整えていく。


「ルーチェ、ご飯だよ!」


「ギョ!」


 声をかけると、ルーチェが嬉しそうに近づいてきた。

料理の匂いに気づいていたのか、先ほどからそわそわしていたのだ。


「ふふっ、そんなに急がなくても、ちゃんとあるよ」


 紬は笑いながら、食事を並べていった。

そのときだった。

家の外から、小さな物音が聞こえてきた。

とことこ、とことこ。


「あれ?」


 紬が扉の方を見ると、そこには白い子ネズミのラタと、白いリスのカーバンクルがいた。


 二匹は家の中を覗き込み、紬の方へ顔を向けている。


「ラタ? カーバンクル?」


 紬は目を丸くした。


「どうしたの? 遊びに来たの?」


 二匹は返事をする代わりに、鼻をひくひくと動かした。

そして、料理のある方へ視線を向ける。


「あっ……もしかして、匂いにつられてきた?」


 二匹は顔を見合わせた。どうやら、その通りらしい。


「ふふっ。ちょうどご飯ができたところなんだよ」


 紬は二匹を招き入れた。せっかく来てくれたのだから、一緒に食べよう。そう思い、二匹にも食べられるように、料理を少しずつ取り分けた。

ルーチェも二匹が来たことを喜んでいるようで、そばから離れようとしない。


「じゃあ、みんなで食べようか!」


 紬の声を合図に、それぞれが食事を始めた。


 温かなポトフを口にすると、燻製の旨みとハーブの香りが広がる。


 柔らかくなった山菜やキノコもおいしく、パーコロもスープによく合っていた。


 カチワリ団子をかじれば、ほんのりとした甘さと、堅パンのような食感が楽しめる。


「うん、おいしい!」


 紬は満足そうに頷いた。

ラタも小さな口で食べ進め、カーバンクルも夢中になっている。ルーチェも、いつものように「ギョ」と鳴きながら食事を楽しんでいた。


 外は冷たい冬の空気に包まれている。

けれど、家の中には暖炉の火があり、温かな料理があり、仲間たちがいる。それだけで、なんだか心まで温かくなる気がした。


     * 


 やがて、みんなのお腹がいっぱいになった。


 紬は食器を片づけ始め、ルーチェたちは少し離れたところでのんびりと過ごしていた。


 そのとき、ラタとカーバンクルが部屋の隅に目を向けた。


 そこには、スタンプボアの革で作ったポーチが掛けてある。


 二匹はポーチをじっと眺め、それからルーチェへと視線を移した。


【これ、だれかいるー】


【へんなのー】


 ルーチェは二匹の視線を追い、ポーチを見上げた。


【そうね。青い妖精がイタズラ中よ】


 二匹はもう一度ポーチを見つめ、顔を見合わせた。


 どうやら、ポーチの中に何かがいるらしい。


 紬には三匹が何を話しているのか分からない。


「ねえ、三人で何を話してるの?」


 紬が不思議そうに尋ねると、三匹はそろって紬の方を振り向いた。


 けれど、ルーチェは何も答えず、ただ静かに紬を見つめていた。


「えー、なになに? 気になるんだけど!」


 紬が問いかけても、三匹は顔を見合わせるばかり。


 どうやら、紬には内緒の話らしい。


 部屋の隅に掛けられたポーチは、何事もなかったかのように静かに揺れていた。


 そのとき――。


 ポーチの蓋の隙間から、青い光がきらりと瞬いた。


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