第82話 帰ってきた我が家
今回は短めです。
第82話 帰ってきた我が家
森の中を歩き、ようやく家へ戻ってきた紬は、扉を開けたところで立ち止まった。
「…………疲れたぁ……」
洞窟の中を、ほとんど一日歩き続けた。
何度も分かれ道を進んで、光源草に照らされた道を歩いて、水の流れる場所を見つけて。
最後には滝をくぐって、泉まで渡った。
お腹も空いている。
足も重い。
腕も腰も痛い。
本当なら、このまま布団に倒れ込みたい。
けれど――。
紬は自分の服を見る。
「……先に着替えないと」
泉に入ったせいで、服はすっかり濡れていた。
このままでは身体が冷えてしまう。
元の世界なら、風邪をひいても薬を飲めば治ることが多い。
けれど、ここは異世界。
薬だって、必要になれば自分で作らなければならない。
「風邪ひいてからじゃ遅いもんね……」
紬は重たい身体を動かし、寝室へ向かった。
――その背中には、紬が気づかないものが一緒についてきていた。
洞窟の中で紬の背中に隠れていた、青い蝶。
紬はその存在に気づかないまま、家まで帰ってきていた。
寝室に入り、濡れた服を脱ごうと腕を上げる。
「いたた……」
腕に痛みが走った。
袖をめくってみる。
腕には、まだ青紫色のあざが残っている。
「……まだ残ってる」
腰にも手を当てる。
「こっちも痛い……」
洞窟の穴に落ちたときにぶつけた場所。
歩いている間は気が張っていたせいか、そこまで気にならなかった。
けれど、家に帰って安心した途端、身体のあちこちが痛く感じる。
「結構、ぶつけたんだなぁ……」
紬はゆっくりと着替え始めた。
そのとき。
ふわり。
紬の背中から、青い蝶が離れた。
紬は気づかない。
青い蝶は、ゆっくりと寝室の中を飛んでいく。
そして――。
部屋の隅に置かれていた、スタンプボアで作ったポーチに止まった。
ちょこん。
ポーチの上で、青い蝶が羽を動かす。
ぱた。
ぱた。
ぱた。
「ふふふ……」
小さな笑い声が響く。
けれど、紬は着替えることに集中していて気づかない。
青い蝶は楽しそうに、もう一度羽ばたいた。
そして――。
すっ。
その姿が消えた。
何事もなかったかのように、寝室は静かになった。
着替えを終えた紬は、ゆっくりと寝室を出る。
「……寒い」
濡れた服を着替えても、身体の冷えはまだ残っている。
紬は暖炉へ向かった。
薪を入れ、火をつける。
ぱちっ。
小さな火が薪へ燃え移っていく。
やがて、暖炉から暖かな空気が広がり始めた。
「……あったかい」
紬は暖炉の前に座り込んだ。
冷えていた身体が、少しずつ温まっていく。
ルーチェも隣で羽毛をふくらませながら、暖炉の火を見ている。
「ルーチェも寒かった?」
「ギョ」
紬は小さく笑った。
その直後。
ぐぅ……。
「…………」
紬はお腹を押さえる。
「……お腹空いた」
洞窟の中を一日歩いていたのだ。
空腹になるのも当然だった。
「何か食べよう……」
とはいえ、今日は料理をする気力がほとんどない。
紬は保存してある食べ物を取り出し、簡単に食事を済ませることにした。
温かいものを口に入れる。
「……おいしい」
ゆっくり食べているうちに、身体の力が少しずつ戻ってくる。
けれど、それと同時に眠気も強くなってきた。
「……眠い」
大きくあくびをする。
「今日は……もう寝よう……」
食器を簡単に片づける。
本当なら、今日見つけたものを整理したい。
ウォーターグラスのことも。
洞窟のことも。
タイタンクイーンのことも。
でも――。
「……明日でいいや」
今日はもう限界だった。
紬は寝室へ戻った。
ベッドに入る。
布団を身体にかける。
「……あったかい……」
布団にくるまると、すぐに目を閉じた。
「おやすみ……ルーチェ……」
「ギョ」
それから、ほんの少しもしないうちに。
「すぅ……」
紬の寝息が聞こえ始めた。
深い眠りだった。
ルーチェも自分のベッドへ入ろうとする。
そのとき――。
「…………」
ふと、ルーチェが部屋の隅を見た。
スタンプボアで作ったポーチ。
その周りが、淡い青色の光に包まれている。
「…………」
ルーチェはしばらくポーチを見つめた。
そして――。
【はぁ……】
小さくため息をついた。
それ以上は何もせず、自分のベッドへ戻っていく。
「ギョ……」
ルーチェも目を閉じた。
静かな夜。
紬は深い眠りの中。
ルーチェも、やがて眠りについた。
けれど――。
「ふふふ……」
部屋のどこかから、小さな笑い声が響く。
楽しそうに。
嬉しそうに。
まるで、誰かが遊んでいるように。
その声は、しばらく夜の静かな部屋に響いていた。
一人と一羽の寝息。
そして――。
もう一人が楽しそうに遊ぶ声。
静かな夜は、ゆっくりと更けていった。
紬は案外洞窟内で気を張っていたと思います。
なので早めに就寝してるので今回短めにしました!
さいごまでお読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や☆で評価して下さると執筆の励みになります。
ほんとにあると嬉しいです!
どうぞこれからも紬の物語を楽しんでください!
よろしくお願いします!




