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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第81話 タイタンサーモンの泉

第81話 タイタンサーモンの泉


 洞窟の奥から聞こえてくる水の音は、どんどん大きくなっていた。


 ざぁぁぁ……。


「……結構近くなってきたね」


「ギョ」


 紬とルーチェは、光源草に照らされた道をゆっくりと進んでいく。


 やがて、前方から強い光が見えてきた。


「……あれ?」


 紬が目を細める。


 洞窟の先が、明るくなっている。


 そして――。


 ざああああああっ!!


「わっ……!」


 突然、ものすごい水音が響いた。


 洞窟の出口から、滝のように水が流れ落ちている。


「滝……?」


 紬は少し驚きながら近づいていく。


 その先には、外の光が見えていた。


「出口だ!」


 紬の顔がぱっと明るくなる。


「ルーチェ、出口だよ!」


「ギョ!」


 二人はそのまま出口へ向かって歩いていく。


 そして――。


 ざああああああっ!!


 大量の水が、目の前に落ちている。


 滝の裏側。


 洞窟から出るには、この滝をくぐるしかないようだった。


「……これ、くぐるんだよね?」


「ギョ」


「だよねぇ……」


 紬は少しだけ滝を見つめる。


 水の勢いはかなり強い。


 けれど、出口はすぐそこだ。


「よし……」


 紬は背負籠をしっかり背負い直した。


「行こう!」


「ギョ!」


 二人は滝の中へ入った。


「わっ!」


 頭から水をかぶる。


 冷たい。


 けれど、ほんの少し進むと――。


「……出た!」


 滝を抜けた。


 そして――。


「出てこれたーーー!」


 両手を高く上げた。


「やったーー!」


「ギョェー!」


 ルーチェも大きな声で鳴く。


 ざああああああっ!!


 すぐ後ろでは、滝がものすごい勢いで水を落としている。


 紬はそんなことも気にせず、しばらく両手を上げたまま喜んでいた。


「長かったぁ……」


 洞窟の中を歩いて。


 分かれ道を進んで。


 水の流れる場所を見つけて。


 不思議な蝶にも出会って。


 そして、ようやく外に出られた。


「……ん?」


 そこで、紬はふと顔を上げた。


「…………」


 泉。


 見覚えのある泉。


 紬は目を丸くした。


「……ここ」


 その時だった。


 ざぶん。


 泉の水面が大きく揺れた。


「……え?」


 紬が泉を見る。


 水の中から、ゆっくりと何かが浮かび上がってくる。


 大きな背びれ。


 そして――。


 ゆっくりと、水面から顔を出した。


「…………」


 タイタンクイーン。


 巨大な身体を水の中に沈めたまま、顔だけを水面から出している。


 その目が、まっすぐ紬を見ていた。


「…………」


 紬も、タイタンクイーンを見る。


「……こんにちは?」


 そっと手を振る。


 タイタンクイーンは動かない。


「お邪魔しますー……?」


 紬が小さく頭を下げる。


 すると。


 すー……。


 タイタンクイーンが、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「……近づいてきた」


「ギョ……」


 ルーチェもタイタンクイーンを見つめる。


 そして、


「ギョエッ! ギョエギョエ!」


 ルーチェが何かを話すように鳴いた。


「ルーチェ、何話してるの?」


「ギョ!」


 タイタンクイーンは、しばらくルーチェを見る。


 そして――。


 ゆっくりと身体の向きを変えた。


「……?」


 大きな背中が、紬の目の前に現れる。


 水面から少しだけ背中が出ている。


「……どうしたの?」


 紬が首を傾げる。


 すると――。


 ふっと。


 頭の中に、何かが伝わってきた。


 言葉ではない。


 けれど、意味は分かる。


 ――乗れ。


「……え?」


 紬は目を瞬かせた。


 もう一度、タイタンクイーンを見る。


「乗って……いいの?」


 タイタンクイーンは動かない。


 ただ、大きな背中をこちらへ向けている。


「……いいんだ」


 紬はそっと手を伸ばした。


 触れた鱗は――。


「……冷たい」


 ひんやりとしていた。


 泉の水に包まれていたせいか、冷たい鱗が手のひらに触れる。


「じゃあ……お邪魔します」


 紬はゆっくりと足を上げた。


 タイタンクイーンの背中へ、そっと足を乗せる。


 滑らないように気をつけながら、もう片方の足も乗せた。


「よいしょ……」


 そのまま、そっと腰を下ろす。


「……乗れた」


「ギョ」


 ルーチェは紬の隣を飛んでいる。


 タイタンクイーンはゆっくりと動き始めた。


 すー……。


 水をほとんど揺らさないように、静かに泉を進んでいく。


「わぁ……」


 紬はタイタンクイーンの背中に乗ったまま、泉を見渡した。


 長い洞窟の中を歩いてきた後だからだろうか。


 水の上を進む感覚が、とても不思議だった。


「タイタンクイーンに送ってもらうなんて、贅沢だね」


「ギョ」


 ルーチェが鳴く。


 やがて、タイタンクイーンは岸へ近づいていく。


「もう着くの?」


 すー……。


 大きな身体が岸へ寄せられる。


 紬はゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう」


 そっと背中から降りる。


 足が地面についた。


 紬はタイタンクイーンを振り返る。


「送ってくれて、ありがとう」


 頭を下げる。


 すると――。


 ふっと、また頭の中にイメージが届いた。


 ――早く帰れ。


「…………」


 紬は固まった。


「……え?」


 タイタンクイーンは、静かに紬を見ている。


 そしてもう一度。


 ――早く帰れ。


「……帰れってこと?」


「ギョ」


 ルーチェが鳴く。


「ふふっ」


 紬は思わず笑った。


「分かった分かった。帰るね」


 タイタンクイーンは、それを確認するように一度だけ水面を揺らした。


「じゃあ、またね」


 紬は手を振る。


 ルーチェも、


「ギョ!」


 と鳴いた。


 タイタンクイーンはゆっくりと泉の中へ戻っていく。


 大きな身体が水の中へ沈み――。


 やがて、背びれだけが遠ざかっていった。


「……行っちゃったね」


「ギョ」


 紬は泉をもう一度眺める。


 滝の水が、ざあああああっと泉へ流れ込んでいる。


 その音を背中に聞きながら、紬は歩き始めた。


「帰ろうか、ルーチェ」


「ギョ」


 森へ続く道を、二人で歩いていく。


 長い洞窟。


 たくさんの光源草。


 不思議な蝶。


 透明な水草。


 そして、タイタンクイーン。


 今日は本当に、いろんなものを見つけた。


 しばらく歩いてから、紬は大きく息を吐いた。


「……やっと帰れるー」


 ルーチェが隣で鳴く。


「ギョ」


 夕暮れの森を、二人はゆっくりと進んでいった。


 そして――。


 今日の長い探索は、ようやく終わりを迎えた。

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