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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第74話 モコモコモコ

第74話 モコモコモコ


 紬が家の外へ出ると大きくのびをして、大きなあくびをした。のんびりルーチェが後ろから着いてきた。


「ギョエー」


「おはよう、ルーチェ」


 軽く挨拶を交わしていると、森の中から小さな影が二つ走ってくる。


 白い子ネズミと、白いリス。


「あ、おはよう」


 昨日までと同じように、二匹は紬の足元までやってくる。


 そして。


 白いリスが、何かを抱えていた。


「……ん?」


 それは、白くてふわふわしたものだった。


 小さな毛の束。


「これ……何?」


 紬がしゃがみ込むと、白い子ネズミも隣から顔を出す。


 二匹はその毛を紬の前に置いた。


「モコモコ……」


 指先でそっと触れてみる。


 柔らかい。


 そして、思ったよりもずっと暖かかった。


「わぁ……すごいふわふわ」


 紬は毛を両手で持ち上げた。


 光に当てると、細かな毛がふわふわと揺れる。


「これ、どこで見つけたの?」


 当然、返事はない。


 白い子ネズミは、


【チュー】


 と鳴き。


 白いリスは、


【チチッ】


 と鳴いた。


「うーん……」


 紬は二匹を見る。


「これって、二匹の毛じゃないよね?」


 白い子ネズミは短い毛。


 白いリスも、こんなに長くてふわふわした毛ではない。


 少なくとも、今目の前にある毛とは違う。


「じゃあ……誰の毛なんだろう?」


 紬の中に、小さな疑問が生まれた。


 そして、その疑問はすぐに別の興味へ変わっていく。


「この毛の持ち主、探してみる?」


 白い子ネズミが、ぴょんっと跳ねた。


 白いリスも、嬉しそうに走り回る。


「決まりだね」


 ルーチェが翼を広げる。


「ギョエー!」


「ルーチェも行くの?」


「ギョ」


「じゃあ、みんなで探そうか」


 こうして、今日の目的が決まった。


 白くてふわふわな毛。


 その持ち主を探す。


 ただそれだけの、小さな探し物だった。


     *


 森の中へ入ると、二匹は先へ進んでいった。


 白い子ネズミが地面をくんくん嗅ぎ。


 白いリスは木の根元や茂みを覗き込んでいる。


「そんなに簡単には見つからないか」


 紬も周囲を見回した。


 地面には落ち葉。


 木々の間から差し込む光。


 秋の森は、少しずつ色を変え始めている。


「この辺りかな?」


 紬は足元にしゃがみ込む。


 落ち葉を少し避けてみる。


 毛はない。


「こっちも違うね」


 少し進む。


 今度は木の幹を確認する。


 白い毛が引っかかっていないか探してみる。


「……ないなぁ」


 ルーチェが頭上を飛び回りながら、


「ギョー」


 と鳴いた。


「ルーチェ、何か見えた?」


「ギョ」


 ルーチェは少し先の木へ飛んでいく。


 紬たちも後を追った。


 そこには、木の枝に白い毛が一本だけ引っかかっていた。


「……あった!」


 紬はそっと取る。


「やっぱり、この毛と同じだ」


 長さも、色も似ている。


「ということは、この辺りにいるのかな?」


 二匹も周囲を探し始める。


 けれど、姿は見えない。


「うーん……」


 紬は空を見上げた。


 太陽は少しずつ高くなっている。


「そろそろお昼にしようか」


 白い子ネズミと白いリスが振り返る。


「今日はちゃんと持ってきたんだよ」


 紬が背負っていた袋を下ろす。


 中から取り出したのは、昨日作ったものだった。


「カチワリの蒸しパン!」


 ふわっとした蒸しパンから、ほんのり湯気が立つ。


 カチワリを細かくしたものに、ミナハーブやタニム、塩。


 そこに魚なども合わせた、紬のお気に入りの携帯食だ。


「はい、どうぞ」


 小さく割ったものを二匹の前に置く。


 白い子ネズミが近づく。


 くんくん。


 そして一口。


【チュッ】


「おいしい?」


 今度は白いリスが食べ始めた。


【チチッ】


「ふふっ」


 ルーチェにも渡す。


「ルーチェも」


「ギョ」


 ルーチェは器用にくわえると、ぱくっと食べた。


「みんなで食べると、おいしいね」


 森の中で、四つの小さな気配が並んで食事をする。


 風が吹く。


 木の葉が揺れる。


 秋の森は、静かだった。


     *


 食事を終え、再び毛の持ち主を探していると。


 白いリスが突然、木の根元で立ち止まった。


「どうしたの?」


 白いリスが、地面を掘る。


 すると、その近くに青紫色の実がいくつか落ちていた。


「……ブルーベリー?」


 紬はしゃがみ込む。


 けれど、知っているブルーベリーよりもずっと大きい。


 直径は三センチほど。


 ころんとしていて、青紫色の皮がつやつやしている。


「これも、この森の植物かな」


 紬が一つ拾い上げる。


 すると、いつものように。


 白い本が淡く光った。


 ページが開く。


【名称】ブルブルベリー

【分類】植物

【食用】可能

【状態】良好

【特徴】青紫色の実をつける。直径約3cm。

【味】甘酸っぱく、果汁が多い。

【効能】眼精疲労や、目に対する病気に良いとされている。


「ブルブルベリー……」


 名前がちょっと面白い。


「ブルーベリーに似てるけど、ブルブルベリーなんだ」


 紬は実を見つめた。


「食べられるなら……」


 一つを軽く洗う。


 そして、口へ入れた。


「……ん!」


 ぷつっと皮が弾ける。


 中から甘酸っぱい果汁が広がった。


「おいしい」


 思わずもう一口。


「甘酸っぱくて、結構好きかも」


 白いリスがじっと見ている。


「食べたい?」


【チチッ】


「じゃあ、どうぞ」


 紬が一つ渡す。


 白いリスが嬉しそうに食べ始める。


 白い子ネズミも近づいてきた。


「はい、君も」


【チュッ】


「ふふ」


 また一つ、小さな食べ物を知った。


 それだけなのに、少し嬉しい。


「目にいいっていうのも、冬にはありがたいね」


 これから細かい作業をすることも増える。


 食料だけじゃなく、体を守ってくれるものが増えていく。


 それは、この世界で生きていくうえで大切なことだった。


「さて」


 紬は立ち上がる。


「もう少し探してみようか」


 二匹が先へ走る。


 ルーチェも飛び上がった。


「今度こそ見つかるかなぁ」


 白いふわふわの毛。


 それがどんな生き物から抜けたものなのか。


 まだ紬には分からない。


 けれど、少しずつ手がかりは増えている。


 枝に残った毛。


 地面についた小さな跡。


 そして、森の奥へ向かうように続く気配。


「この先かな?」


 紬は二匹の後を追う。


 森の奥へ。


 奥へ。


 木々の間を抜けていく。


 すると――。


「……あれ?」


 紬が足を止めた。


 少し先。


 木々の影から、何か白いものが見えた。


 風に揺れている。


 ふわふわ。


 もこもこ。


 そして。


 ワサワサ。


 白い毛が、まるで風に舞うように飛んでいる。


「……もしかして」


 紬は目を凝らす。


 けれど、木々の向こうにいるものの姿までは、まだ見えない。


 ただ。


 木々の影から、白くふわふわの毛がワサワサと飛んでいた。

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