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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第72話 洞窟と秘密の会話

第72話 洞窟と秘密の会話


 紬は、もう一度水の中を覗き込んでいた。


「……めっちゃきれいだなぁ」


 水はどこまでも透明で、光源草の淡い光が水面に揺れている。


 けれど、よく見ると少しだけ気になることがあった。


「この水……普通の水じゃない?」


 紬は《知識と生存》を開いて、水を調べてみる。


 どうやら、この水はかなり塩分濃度が高いらしい。


「塩水なんだ」


 海のようなものなのだろうか。


 でも、こんな森の地下深くに、これほど大量の水がある。


 紬は少し不思議に思いながら、さらに水底を覗き込んだ。


「……ん?」


 水底の岩。


 その周囲に、何かが見える。


 透明な小さな結晶が、いくつも岩に付いていた。


「これ……」


 少し近づいて見る。


 水の中で、きらきらと光っている。


「塩……?」


 岩塩とは少し違う。


 水底から、結晶が少しずつ伸びているように見える。


「塩の水晶が……水の中で育ってる?」


 紬はしばらく、その様子を眺めていた。


 洞窟の中には大量の岩塩。


 そして、この塩分の高い水。


 その水底には、塩の水晶。


「……これなら、塩はしばらく安心かな」


 料理にも使える。


 保存にも使える。


 これだけの量があるなら、塩を探して森を歩き回る必要もなくなりそうだ。


 でも。


 紬はもう一度、周囲を見渡した。


 光源草、塩の水、岩塩、中央にある古い石碑、その周りに咲くカランコエ、そして、二本のネギ。


「ここは……なんなんだろう?」


 普通の洞窟ではない。それだけは、なんとなく分かった。


「今日はもう帰ろうか」


「ギョ」


 ルーチェが返事をする。


 紬は籠を持ち直し、来た道を戻っていった。


 階段を上り、岩塩のある場所を通り、光源草の淡い光の中を歩く。


「……外だ」


 洞窟の入口から出ると、森の空気が戻ってきた。


 そこで紬は、入口の近くにいる存在に気づいた。


「アルブレーヴ?」


 白い身体。


 二本の角。


 アルブレーヴが、洞窟の入口で待っていた。


「私がここに入ったの、分かったのかな……」


 紬は少し考えてから、アルブレーヴに近づく。


「ねぇ、アルブレーヴ」


「……」


「ここって、とても大事な場所なの?」


 アルブレーヴは紬を見つめる。


 そして。


「ふんす」


「……そうなんだ」


 どうやら肯定らしい。


 アルブレーヴは紬の周りを少し歩くと、鼻を近づける。


「え?」


 くん。


 くんくん。


「……匂い?」


 紬は自分の服を見下ろした。


「洞窟の匂いがついたのかな?」


 アルブレーヴは、しばらく紬の匂いを確認していた。


 その間に、ルーチェが洞窟の入口近くへ戻ってくる。


 白色ラタと小さなカーバンクルも、その姿を見つけた。


ルーチェはアルブルーブの角に止まり、2匹も背中に乗った。


 アルブレーヴがルーチェを見る。


 紬には聞こえない声で、言葉を交わす。


【アルカンシエル、中はどうだ】


【私はルーチェよ。ルーチェって呼んで】


【……中はどうだ】


【中は大分、光魔が減ってきてるわ。カランコエが枯れてた】


【ただ?】


【ただ……】


 白い子ネズミとカーバンクルが、たどたどしく鳴く。


【うえたの……】


【うえた、みどりのー】


【キラキラ、だすのー】


 アルブレーヴが二匹を見る。


【ルーチェ、どういうことだ?】


【この子たち、紬の持ってきた植物を枯れたところに植えたのよ。効果はあるか、分からないけど……】


 アルブレーヴは少し考える。


【ふむ……あの植物か】


 その視線の先には、洞窟の中で植えられた二本のネギがある。


【まぁ、様子見だな】


 そんな会話が交わされていることを、紬は知らない。


 聞こえてくるのは、


「ギョ」


「チューチュー」


「キュッ」


 いつもの鳴き声だけだった。


「……何を話してるんだろう?」


 紬が首を傾げる。


 するとアルブレーヴが歩き出した。


「あ、待って!」


 紬も慌てて後を追う。


「アルブレーヴ、帰るんだよね?」


「ふんす」


 森の中を歩いていると、白い子ネズミとカーバンクルが、アルブレーブの背中から降りる。


「今日はここまでかな?」


 二匹は森の奥を振り返る。


「じゃあ、またね」


「チューチュー」


「キュッ」


 二匹は森の中へ戻っていった。


 小さな白い姿が、木々の間へ消えていく。


「またねー!」


 紬は手を振った、そこから大分歩き。


 やがて家が見えてくる。


 気づけば、もう夕方だった。


 空は薄暗くなり、森の中を冷たい風が吹き抜ける。


「さむっ……」


 ぶるっと身体を震わせる。


「秋も、だいぶ深くなってきたなぁ」


 隣を歩くアルブレーヴを見る。


「アルブレーヴ、うち寄ってく?」


「……」


 アルブレーヴは紬を見た。


 そして。


「ふんす」


 そのまま歩いていく。


「そっか」


 紬は少し笑った。


「じゃあ、またね」


 紬とルーチェは家の中へ入っていく。


 扉が閉まる。


 その少し後。


 アルブレーヴが、再び家の近くへ戻ってきた。


 そして、森の中で風に揺れているネギの前で足を止める。


「……」


 ゆっくりと顔を近づける。


 ネギの葉が、ゆらゆらと揺れた。


 すると。


 葉の先から、小さな光がいくつもこぼれる。


 細かな光の粒が、夜の森へ舞う。


 その一つが、アルブレーヴの鼻先をかすめた。


 アルブレーヴは目を細める。


 そして、独り言のように呟いた。


【……頼むぞ……】


 森は、静かに闇に包まれた。


さいごまでお読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や☆で評価して下さると執筆の励みになります。

ほんとにあると嬉しいです!

どうぞこれからも紬の物語を楽しんでください!


よろしくお願いします!



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