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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第71話 洞窟の秘密

第71話 洞窟の秘密


 岩塩を見つけたことで、思いがけず洞窟の中へ入ることになった紬。


 入口から見ると、それほど大きな洞窟には見えなかった。


 けれど。


「……思ったより、広いね」


 少し進んだだけで、天井は高くなり、奥行きもずっと続いている。洞窟の中は薄暗い……と思っていたのだが、意外にもそうではなかった。


 壁や天井のあちこちに、淡い光を放つ草が生えている。


「これも……植物?」


 紬が近づいて見てみると、白っぽい緑色の草が、岩の隙間から伸びていた。


 そっと手を近づけると、ほんのりとした明かりが手元を照らす。


「……キレー……」


 思わず呟く。


 紬が《知識と生存》を開く。


【名称】光源草(ライトプラント)

【分類】植物

【特徴】光の強い魔力により発光する。

【生育環境】地上では育たない。


「光の草初めて見た…洞窟内だから育つのかな…」


 ルーチェは気にする様子もなく、洞窟の奥へ進んでいく。


「はやっ!待って、待って」


「ギョ」


 白い子ネズミと小さなリスも、ルーチェの後を追っている。


 いつの間にか二匹はルーチェの背中に乗っていた。


「……そこ、気に入ったの?」


「チューチュー」


「ギョェー」


 どうやら問題ないらしい。


 ルーチェは岩をひょいっと飛び越える。


 そのたびに、背中の二匹が揺れる。


「わっ」


 紬だけが少し慌てながら、その後ろをついていった。


 しばらく進むと、岩塩の結晶がいくつも見えてきた。

透明に近い結晶が岩肌から突き出している。

入口から差し込む光と、光源草の明かりを受けて、きらきらと輝いていた。


「わぁ……」


 思わず足を止める、かなりの量だ。


「こんなにあるなら、しばらく塩には困らなそう」


 紬が岩塩を見ていると、ルーチェが一歩前へ出た。


 そして。


 コツン。


 嘴で岩塩をつつく。


 パキッ。


「あっ」


 小さな結晶が落ちてきた。


 紬は慌てて手を伸ばし、それを受け止める。


「ありがとう、ルーチェ」


「ギョ」


 どうやら、取ってくれたらしい。


 紬はそれを籠へ入れる。


「じゃあ、もう少しもらおうかな」


 ルーチェが岩塩を割り。


 紬が拾う。


 白い子ネズミと小さなリスは、ルーチェの背中からその様子を眺めている。


 そんなことを何度か繰り返しながら、さらに奥へ進んでいった。


 すると。


「……あれ?」


 道の先に、何かが見えた。


 岩壁に沿って、細い階段が続いている。


「階段……?」


 自然にできたものには見えない。


 一段一段が、まるで誰かが作ったように並んでいる。


「誰かが作ったのかな……」


 紬は階段の先を見上げる。


 けれど、そこからは何も分からない。


 ルーチェは迷うことなく階段へ向かった。


「ちょっと待ってよ」


 紬も後を追う。


 一段。


 また一段。


 少しずつ下へ降りていく。


 洞窟の中なのに、なぜか空気は澄んでいた。


 光源草の明かりも途切れない。


 そして、階段を下りきった先には――。


「…………」


 紬は言葉を失った。


 そこには、大きな空間が広がっていた。


 部屋のほとんどを、水が満たしている。


 底が見えるほど透明なのに、かなり深い。


 天井や壁には光源草が生えていて、水面を淡く照らしている。


「……すごい」


 洞窟の中に、こんな場所があったなんて。


 紬がゆっくり辺りを見回す。


 水の中央には、ぽつんと島のような場所があった。


 そこへ続くように、石の橋が架かっている。


「橋まである……」


 自然にできたものではない。


 誰かがここを使っていたのだろうか。


 紬は少しだけ緊張しながら、石の橋を渡っていく。


 ルーチェたちもついてくる。


 橋を渡った先。


 島の中央には、古びた石碑が立っていた。


「石碑……?」


 表面には、見たことのない文字が刻まれている。


 紬は《知識と生存》を開いて確認してみる。


 けれど。


【閲覧不可】


「……読めないか」


 知らない文字。


 そして、本にもこれ以上の情報は表示されない。


 紬は無理に調べることをやめ、石碑そのものを観察する。


 すると。


「……ん?」


 石碑の上から、淡い光が伸びていることに気づいた。

光は天井へ向かって、まっすぐ伸びている。その周囲には、白い花が咲いていた。


「この花……」


 見覚えがある。


 石壁の近くで見つけた、あの白い花。


 紬は《知識と生存》を開いた。


【名称】カランコエ

【属性】光

【成長条件】特殊な条件を必要とする。

【希少性】非常に珍しい。

【花言葉】あなたを守る・守護天使

【その他】表示不可

【理由】条件が足りません。

【成長条件】一部条件達成。

【必要条件】ハイエルフによる作付けを必要とする。


「……ハイエルフによる作付け、か」


 前に見つけたときには分からなかったことが、少しだけ分かるようになっている。


「ここで育てられてたのかな……?」


 紬は周囲を見渡した。


 石碑の近くに咲いているカランコエは、元気そうだ。


 白い花がいくつも咲いている。


 けれど。


「……あれ?」


 少し離れた場所。


 水の近くにあるカランコエは、元気がない。


 葉はしおれ、花もほとんど残っていない。


「こっちは枯れかけてる……」


 同じ場所にあるのに、どうしてだろう。


 紬は水の近くまで歩いていく。


 そして。


「……ん?」


 白い花の間に、何かが見えた。


 土が少しだけ盛り上がっている。


 その隣にも、もう一つ。


「……植物?」


 しゃがみ込んで、そっと土を見る。


 まだ植えたばかりなのだろう。


 根元には、柔らかな土がふわっとかかっている。


 そして、その土から伸びているのは――。


「……ネギ?」


 紬は目を丸くした。


 見間違えるはずがない。


 自分が育てているネギと同じものだ。


 少し前に、白い子ネズミと小さなリスに分けてあげた。


「これ……」


 紬は後ろを振り返る。


 白い子ネズミと小さなリスが、少し離れたところからこちらを見ていた。


「もしかして……」


 二匹が植えたのだろうか。


 紬はもう一度、目の前のネギを見る。


 まだ小さい。


 でも、ちゃんと土に根を張っている。


「こんなところに植えたんだ……」


 どうしてここに植えたのか。


 紬には分からない。


 ただ。


 枯れかけた白い花のそばで、二本のネギが小さく揺れている。


 洞窟の中を流れる風に葉を揺らしながら。


「……元気に育つといいね」


 紬がそう言うと。


「チュ……」


「チューチュー」


 二匹が小さく鳴いた。


 ルーチェも、ネギと白い花をじっと見ている。


 紬は三人の視線の先にあるものを、もう一度眺めた。


 古い石碑。


 白い花。


 水。


 そして、小さな二本のネギ。


「……この洞窟、まだ何かありそうだなぁ」


 そう呟きながら、紬はゆっくり立ち上がった。


 洞窟の奥では、光源草が静かに光を放っている。


 その淡い光に照らされて、二本のネギが小さく揺れていた。

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