第70話 小さな道案内
第70話 小さな道案内
紬は昨日もらったパーコロを、手の中でころころと転がしていた。
紫と白の縞模様。
見た目は少し変わっているけれど、生で食べれば梨のようにみずみずしく、焼けばホクホクとした食感になる。
「…美味しかったなぁ」
もう少し食べたい。ヨダレが出そう……
そう思ってから、ふと気づいた。
「……そういえば、これってどこにあるんだろう?」
昨日は二匹が持ってきてくれた。
だから、どこで採ってきたのかは知らない。
「カチワリもそうだけど、森の食べ物がどこにあるのか、少しずつ知っておきたいよね」
森で暮らしている以上、食べ物の場所を知っていることは大切だ。
紬は近くにいたルーチェを見る。
「ルーチェ、パーコロってどこにあるか分かる?」
「ギョェ?」
ルーチェが首を傾げる。
その声に反応するように、少し離れたところにいた二匹が顔を上げた。
「チュッ」
「チューチュー」
二匹はルーチェのところへ駆け寄る。
「ギョェ、ギョェ」
「チュー」
「チュチュ」
ルーチェと二匹の間で、短いやり取りが始まった。
紬には何を話しているのか分からない。
けれど、なんとなく。
「……もしかして、場所を知ってる?」
そう聞いた瞬間だった。
二匹が同時に走り出した。
「え?」
少し進んだところで、二匹がぴたりと止まる。
そして、くるり。
紬のほうを振り返った。
「……ついてきて、ってこと?」
「チュッ」
二匹がまた走り出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
紬は慌てて背負籠を背負った。
ルーチェはすでに二匹の後を追っている。
「もう……行動が早いんだから」
紬も急いで追いかける。
ところが。
「……速い!」
二匹が通っているのは、人間が歩くための道ではなかった。
木の根の間。
低い草の隙間。
細い枝の下。
小さな動物なら簡単に通れるような場所を、二匹は迷うことなく進んでいく。
紬は枝を避け、木の根をまたぎ、時には少し身体を横にしながら進んだ。
「待って……」
少し走る。
「……待ってってば……」
さらに走る。
「はぁ……はぁ……」
背負籠が背中で揺れる。
「小動物って……こんな道を……毎日走ってるの……?」
前を見ると、二匹はもう少し先にいる。
ルーチェは上空を飛んでいるので余裕そうだ。
「ギョェ」
「ルーチェはいいよね……飛べるから……」
紬は息を整えながら、それでも二匹についていった。
しばらく進むと、森の景色が少し変わってきた。
木々の間隔が広くなり、一本の大きな木が目に入る。
その幹には、たくさんのツタが絡みついていた。
二匹はその木の根元で止まった。
紬もようやく追いつく。
「はぁ……はぁ……ここ?」
二匹が土を前足でちょいちょいと掘った。
「……?」
紬がしゃがみ込む。
二匹が掘った場所を覗いてみる。
そこには、ツタのような植物が地面を這っていた。
「このツタ……?」
紬が周りを見回す。
「もしかして、これがパーコロの葉っぱなの?」
「チュッ」
二匹が鳴いた。
「やっぱり!」
紬は少し嬉しくなった。
早速、土を手で軽く掘ってみる。
すると。
ポコッ。
「……あ」
土の中から、紫と白の縞模様が見えた。
さらに周りを掘る。
ポコ。
ポコポコ。
「出てきた!」
土の中から、いくつものパーコロが顔を出した。
「こんなところにあったんだ」
紬は一つを手に取って眺める。
そして、地面を這うツタを見る。
「このツタが、パーコロの葉っぱなんだね」
紬は《知識と生存》を開いた。
そこには、見慣れた文字が浮かんだ。
【名称】パーネント
【分類】植物
【特徴】紫色の葉と白色の葉を持つ、ツタ状の植物。
【実】地下に根菜を形成する。
「パーネント……」
名前を覚える。
「紫と白の葉っぱが特徴なんだ」
確かに、よく見ると葉の色が二色に分かれている。
今まで何度も森を歩いていたのに、食べ物をつける植物だとは気づかなかった。
「見た目だけじゃ、分からないものだね」
紬はパーコロをいくつか収穫した。
取りすぎないように、土の中に残っているものも確認する。
「これくらいにしておこうかな」
二匹が持ってきてくれたものの正体と、その場所。
今日はそれを知ることができた。
「教えてくれてありがとう」
紬が二匹を見る。
「チュッ」
二匹は嬉しそうに鳴いた。
さて。
パーコロを背負籠にしまおうとしたところで、紬はふと思い出した。
「……そうだ」
この前、二匹からもらったもの。
小さな透明な結晶。
岩塩。
「あれも、どこにあるのか知りたいな」
紬は二匹を見る。
「岩塩は?」
「チュッ」
二匹が顔を見合わせる。
そして。
また走り出した。
「えっ」
紬は目を丸くする。
「また案内してくれるの?」
返事の代わりに、二匹はどんどん先へ進んでいく。
「分かった、分かった!」
紬は背負籠を背負い直し、後を追った。
今度は、さっきよりもさらに森の奥へ。
木々が少しずつ減っていく。
代わりに、地面に大きな石が増えてきた。
「岩が多くなってきたね」
足元を確認しながら進む。
しばらくすると、前方に岩場が見えてきた。
その先には、小さな崖がある。
二匹は崖の手前で止まった。
「ここ?」
紬が近づいて、下を覗く。
「……結構あるね」
真っ直ぐ降りるのは難しそうだ。
二匹は崖の端から離れると、横へ回り始めた。
「そっち?」
紬もついていく。
崖を大きく回り込み、ゆっくりと下へ向かう。
足元は少し滑りやすい。
紬は木の幹に手を添えながら慎重に進んだ。
「こういう場所もあるんだ……」
普段歩いている森とは、少し違う。
やがて、崖の下まで降りる。
二匹は先へ進み、岩と木々の間へ入っていった。
「待ってー」
紬も追いかける。
そして。
少し先で、二匹が立ち止まった。
「……?」
紬も足を止める。
目の前には、大きな岩。
その横に、木々が重なるように生えている。
その奥。
暗い隙間があった。
「……あれ?」
紬が近づく。
よく見ると、それは岩の間にできた小さな空間だった。
まるで――
「洞窟?」
入口は大きくない。
人間が入るには少し屈まなければならないくらいの大きさ。
二匹は、その入口の前で紬を振り返った。
「……ここ?」
「チュッ」
ルーチェも少し上から覗き込む。
「ギョェ……」
紬は洞窟の入口を見つめた。
森の中を歩いているだけでは、きっと見つけられなかった場所。
こんな奥に、こんな場所があったなんて。
「……こんな所、あったんだ」
紬は小さな洞窟を眺めながら、静かに呟いた。




