第69話 森の友達と、小さな贈り物
第69話 森の友達と、小さな贈り物
あれから。
白い子ネズミと小さなリスとの物々交換は、何度か続いていた。
最初は偶然かもしれないと思っていた。
けれど、カチワリを少し分けてあげると、次に会ったときには木の実が置かれていたり、見たことのない根っこが置かれていたりする。
それを何度か繰り返しているうちに、紬にも少しずつ分かってきた。
「いつの間にか、物々交換みたいになってるね」
最初の頃は森の中で見かけるだけだった二匹も、最近では少し変わった。
紬が家にいると、玄関の近くまでやってくるようになったのだ。
「おはよう」
朝、玄関を開ける。
そこには、白い子ネズミと白いリス。
「今日も来たの?」
白い子ネズミは、ちょこんと座っている。
その隣では、白いリスが忙しそうに周囲を見回していた。
すっかり見慣れた二匹の姿。
けれど。
紬はふと、二匹のことをちゃんと調べたことがなかったことに気づいた。
「そういえば……」
今まで食べ物のことは調べてきた。
植物のことも、キノコのことも。
でも、この二匹については名前すら知らない。
「ちょっと、調べてみようかな」
紬は《知識と生存》を開いた。
白い子ネズミを見る。
ページに文字が浮かび上がった。
【種族】ラタ(ネズミ)
【属性】土・光(微)
【個体】特殊個体
【特徴】光属性の影響により、毛が白く変化している。
【能力】探し物を得意とする。すばしっこい。
【身体能力】非力
「ラタ……」
紬は白い子ネズミを見る。
確かに、何かを見つけるのは得意そうだ。
今まで持ってきてくれたものも、森の中で見つけたものなのだろう。
「探し物が得意なんだ」
白い子ネズミは、紬の顔を見上げている。
「それにしても……光属性の影響で白くなってるんだ」
元から白い種類なのだと思っていた。
まさか、特殊個体だったとは。
「じゃあ、こっちは?」
紬は隣の白いリスを見る。
ページの文字が変わった。
【種族】カーバンクル
【属性】風・光(微)
【個体】特殊個体
【特徴】光属性の影響により、体毛が白く変化している。
【性質】いたずら好き。
【習性】いろいろなものを集める習性がある。
「カーバンクル……」
紬は思わず、リスの額を見る。
赤い宝石。
普通のリスとは違うと思っていたけれど、やっぱり普通ではなかった。
「やっぱり、この子も特殊個体なんだ」
白い毛。
額の赤い宝石。
そして、いろいろなものを集める習性。
今までの行動を思い返せば、妙に納得できる。
「だから、いつも何か持ってるのかな」
白いリスは、紬の言葉が分かったのか分からないのか。
首を傾げた。
「ふふ」
二匹とも、森の中では普通に暮らしている。
でも、こうして調べてみると、二匹とも少し特別な個体だった。
「仲良しなのも、何か関係あるのかな?」
土と光。
風と光。
共通しているのは、ほんの少しの光属性。
けれど、それだけで仲良くなったのかは分からない。
紬にとっては、いつも一緒にいる二匹。
それだけで十分だった。
「ところで……」
紬は二匹の足元を見る。
今日は、何かが置かれていた。
「これ、何?」
小さな欠片。
透明感があって、光を受けるときらりと光る。
大きさは、小指の爪ほど。
紬はそっと拾い上げた。
「……水晶?」
少なくとも、昨日までにもらっていたものとは違う。
今までは、木の実や根菜など、食べ物ばかりだった。
でも、これはどう見ても食べ物には見えない。
「食べ物じゃないものをもらったの、初めてだね」
紬は少し不思議に思いながら、《知識と生存》を開いた。
白いページに文字が浮かび上がる。
【名称】岩塩
【分類】鉱物
【属性】光・微
【食用】可能
【状態】良好
【特徴】透明感のある結晶状の塩。水に溶けやすい。
「……岩塩?」
紬は手の中の小さな欠片を見つめた。
「これが、岩塩なんだ」
実物を見るのは初めてだった。水晶のように見えるのも納得できる。
「塩って、こんな見た目のものもあるんだ……」
紬は少し嬉しくなった。今持っている塩は、残りが少ない。料理に使うたびに、少しずつ減っている。
だから、塩が手に入るのはありがたい。
「これ、どこで見つけたんだろう?」
紬が二匹を見る。
白い子ネズミは、いつものようにじっと紬を見ている。
白いリスは、岩塩を持ってきたことなど気にしていないように、周囲をきょろきょろしていた。
「……ありがとう」
紬は岩塩を大事にしまった。
森には、自分がまだ知らないものがたくさんある。
食べ物だけじゃない。こういうものまで、動物たちは見つけてくる。
「探し物が得意っていうのは、本当なんだね」
白い子ネズミを見る。
すると、白い子ネズミは少しだけ胸を張ったように見えた。
「ふふ」
紬が笑った、そのとき。足元で、別の動きがあった。
「ん?」
白い子ネズミが、ネギの葉を引っ張っている。
その反対側では、白いリスもネギを引っ張っていた。
「……あれ?」
ずる。
ずるずる。
二匹が一生懸命に引っ張っている。
「ネギ?」
紬は二匹とネギを交互に見る。
「欲しいの?」
二匹は答える代わりに、もう一度ネギを引っ張った。
「そっか」
紬は周囲のネギを見る。
いつの間にか、かなり増えている。
最初に植えたネギは、その中でもひときわ大きい。
元の世界から持ってきて、最初に植えたネギ。
今では、他のネギよりもずっと大きく育っていた。
風が吹く。
大きくなった葉が、ゆらゆらと揺れる。
紬には、いつものネギにしか見えない。
けれど。
二匹の目には、少し違って見えていた。
葉の隙間から、淡い光がこぼれている。
風に揺れるたび、その光もちらちらと揺らめいている。
二匹はその光を見つめながら、ネギを引っ張っていた。
「大分ワサワサになってきたし……欲しいの?」
ずる。
ネギが少し動く。
「いいよー」
紬は笑って、二匹に少し分けてあげた。
白い子ネズミとリスは、もらったネギをそれぞれ持っていく。
「気をつけてねー」
二匹は振り返る。
そして、また森のほうへ走っていった。
「……なんだか、すっかり友達みたいになったなぁ」
最初は、森の中で見かけるだけだった。
それが今では、家の玄関までやってくる。
食べ物を持ってきてくれる。
時には、今日みたいに食べ物ではないものまで。
紬は、しまったばかりの岩塩を思い出した。
「岩塩、ありがたいな」
残り少ない塩を気にしなくても、少しだけ余裕ができる。
それだけでも、冬を迎える準備にはなる。
森の動物たちと過ごす日々の中で。
紬の周りには、少しずつ新しい繋がりが増えていた。
今日もまた、森から小さな贈り物が届いた。




