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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第68話  知らない食べ物、知っている味

第68話  知らない食べ物、知っている味


紬は、昨日もらったものを眺めていた。


 紫と白の縞模様。


 丸くて、少しだけデコボコしている。


 大きさは、じゃがいもより少し小さいくらいだろうか。


「……そういえば、これって何なんだろう?」


 昨日は、カチワリとの交換に驚いて、そのまま受け取ってしまった。


 けれど。


 よく考えてみれば、名前すら知らない。


 食べ物だということも、昨日の時点では分かっていなかった。


 紬は、紫と白の実を手のひらの上で転がしてみる。


「見たことないなぁ」


 少なくとも、元の世界で見たことのある野菜には似ていない。


 紫色の部分と白い部分が縞模様になっていて、表面も完全なつるつるではない。


 昨日、白い子ネズミと小さなリスがこれを持ってきた。

ということは、森の中に普通にある食べ物なのだろう。

森に住んでいる動物たちにとっては、きっと珍しくもない。


「でも、私は知らないからね」


 紬は《知識と生存》を開いた。


 白いページに文字が浮かび上がる。


【名称】パーコロ

【分類】植物

【食用】可能

【状態】良好

【特徴】紫と白の縞模様を持つ、小型の根菜。

【生食】可能

【加熱】可能

【保存】可能


「パーコロ……」


 名前は分かった、しかも食べられるらしい。

生でも、加熱しても大丈夫、保存もできる。


「じゃあ……食べてみようかな」


 もちろん、いきなり丸かじりするわけではない。


 まずは水でよく洗う。


 表面を指でこすりながら、傷や変なところがないか確認する。


「うん。大丈夫そう」


 紬は小さく切ってみた。


 中も紫と白。


 見た目は外側と同じような色合いだった。


「いただきます」


 ぱくっ。


「……あれ?」


 最初に感じたのは、水分だった。


 噛むと、しゃくっとした歯ごたえがある。


 そして、ほんのり甘い。


「梨……?」


 紬はもう一度、ゆっくり噛む。


「うん。梨みたい」


 もちろん、まったく同じ味ではない。


 でも、みずみずしさと歯ごたえ、それから控えめな甘さ。


 どこか梨を思わせる。


「おいしい」


 思わず、もう一口食べる。


 知らない植物だったので少し警戒していたけれど、これは普通に食べられる。


 むしろ、かなり好きな味だった。


「これなら、生でも食べられるね」


 紬は残ったパーコロを眺める。


 そのまま食べられるということは、調理する手間がない。


 火を使えない場所でも食べられる。


 それだけでも、かなりありがたい。


「でも……」


 紬は、もう一つ手に取った。


「焼いたらどうなるんだろう?」


 せっかくなので試してみることにした。


 火を起こし、平らな石を使って焼いていく。


 しばらくすると、パーコロの表面から香ばしい匂いがしてきた。


「そろそろかな」


 紬は火から外して、少し冷ます。


 それから半分に割ってみた。


「……見た目も、ちょっと変わった?」


 生のときより柔らかそうになっている。


 紬は一口食べた。


「……全然違う」


 思わず声が出た。


 生のときにあった、しゃきっとした歯ごたえがなくなっている。


 代わりに、ねっとりとした食感。


 少しほくっとしていて、口の中でまとまる。


「山芋みたい……」


 味そのものが同じというわけではない。


 でも、この食感はかなり似ている。


「すごいなぁ」


 同じパーコロなのに、食べ方を変えただけで全然違うものみたいだ。


 紬は生のパーコロと焼いたパーコロを並べた。


「生なら梨みたいで、焼くと山芋みたい……」


 これは覚えておこう。


 食べ方によって、かなり楽しめそうだ。


 そのとき。


「ギョ?」


 隣から声がした。


 ルーチェが、紬の手元を覗き込んでいる。


「あ、ルーチェも食べる?」


「ギョェー!」


 元気な返事。


「じゃあ、まずは生のほうね」


 紬は生のパーコロを少し切って、ルーチェに渡した。


 ぱくっ。


「ギョェー!」


 どうやら気に入ったらしい。


「ふふ。おいしい?」


「ギョ!」


 嬉しそうに食べている。


「じゃあ、こっちは?」


 今度は焼いたパーコロを差し出した。


 ルーチェは、くちばしを近づける。


 そして。


「……ギョェ……」


 ぴたり。


 動きが止まった。


「……あれ?」


 ルーチェは焼いたパーコロをじっと見ている。


 少しだけつついて。


「ギョェ……」


 なんとも言えない声を出した。


「そんなに嫌?」


 紬が聞くと、ルーチェは焼いたパーコロをくちばしで押した。


 ころん。


 紬のほうへ転がってくる。


「……私にくれるの?」


「ギョ」


「そっか」


 紬は笑った。


「じゃあ、これは私が食べるね」


 ルーチェは、もう一度生のパーコロを食べ始めた。


「ルーチェは生のほうが好きなんだね」


「ギョェー!」


 どうやら、それは間違いないらしい。


 紬も残った焼きパーコロを食べる。


「うん。やっぱり焼いたほうは山芋っぽい」


 食べ比べてみると、違いがよく分かる。


 どちらもおいしい。


 ただ、ルーチェは生。


 紬はどちらも。


 そんな違いが少し面白かった。


「それにしても、保存できるんだよね」


 紬は残ったパーコロを見た。


 生で食べられて、焼いても食べられる。


 そして保存もできる。


「冬の食料にできそう」


 冬になれば、森で食べ物を探すのも今より大変になるかもしれない。


 今のうちに、保存できるものを少しずつ増やしておくのは悪くない。


「カチワリも長持ちしそうだし……」


 そう呟いてから、紬はふと昨日のことを思い出した。


 白い子ネズミ。


 小さなリス。


 二匹が持ってきてくれたパーコロ。


「……そういえば」


 紬は、二匹のことを考えた。


 森に住んでいる動物なのだから、食べ物については自分より詳しいはずだ。


 どこに何が生えているのか。


 いつ食べられるのか。


 どんなものがおいしいのか。


 きっと、そういうことを感覚的に知っている。


「パーコロも、普通に食べてるんだろうな」


 そう考えると、少し不思議だった。


 自分にとっては知らない食べ物でも、二匹にとってはいつもの食べ物なのだ。


 そして。


 昨日、二匹がカチワリを持ってきたこと。


「……カチワリって」


 紬は考える。


 ものすごく重い。


 殻も硬い。


 しかも、一つだけでは割りにくい。


 二つのカチワリをぶつけて、ようやく殻を割ることができる。


「動物には、かなり食べにくいよね」


 もちろん、動物たちには動物たちの食べ方があるのかもしれない。


 それでも、あの硬さを考えると。


「もしかして……私に開けてほしいのかな?」


 カチワリを持ってくる。


 そして、代わりにパーコロを持ってくる。


 昨日のやり取りを思い出すと、そんな考えが浮かんだ。


「……だったら」


 紬は立ち上がった。


「またカチワリ、取りに行かなきゃ」


 昨日採った分もある。


 でも、食べれば減っていく。


 カチワリ自体は硬い殻に包まれているから、長く保存できそうだ。


「少し多めに採っておいてもいいよね」


 そうすれば、自分も食べられる。


 二匹にも分けられる。


 交換が続くなら、それも悪くない。


「それに……」


 紬はパーコロを見る。


「こっちも、もうちょっと欲しい」


 生で食べてもおいしい。


 焼いても食べられる。


 保存もできる。


 何より、自分の知っている味に少し似ている。


 異世界で生活するようになってから、こういう食べ物があることには何度も助けられてきた。


「この世界の植物って、不思議だよね」


 見たことのない植物なのに。


 食べてみると、地球の食べ物に似た味や食感をしていることがある。


 よく見ると、形も違う。


 育ち方も違う。


 名前だって違う。


 それでも、食べたときに「知っている」と思える。


「私の味覚と近い食べ物が多いのは、助かるなぁ」


 もし何もかもがまったく違っていたら。


 今よりずっと、食べることに苦労していただろう。


 紬はそう考えながら、残ったパーコロを見つめる。


「でも……どこにあるんだろう?」


 昨日、二匹が持ってきた。


 ということは、森のどこかに生えている。


 けれど、今の紬には場所が分からない。


「次に会えたら聞いてみたいけど……」


 動物に言葉は通じない。


 昨日のように、また何か持ってきてくれれば分かるかもしれない。


「探してみるのもいいかな」


 カチワリを採りに行くついでに、周辺を見て回る。


 もしかしたら、パーコロが見つかるかもしれない。


「よし」


 紬は残ったパーコロを保存用にしまった。


「今度は、カチワリとパーコロ探しだね」


 今日もまた、森へ行く理由が一つ増えた。


 知らない食べ物を一つ知るだけで。


 森でできることも、少しずつ増えていく。


 そんなことを考えながら、紬は小さく笑った。

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