↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/133

閑話 服は困難な道(私見)

閑話 服は困難な道(私見)


 紬は半袖の腕をさすりながら、外を眺める。


「服、どうしよう……」


 このことは、少し前から気になっていた。


 今のところ、家の中は晶花石のおかげで暖かい。


 外に出るときも、レッドドリンクを飲めば体の中からじんわりと温まる。


 だから、まだ何とかなっている。


「でも……冬はどうしよう」


 紬は自分の半袖を見下ろした。


「さすがに、このままってわけにもいかないよね……」


 レッドドリンクを飲めば寒さそのものは何とかできる。


 けれど、それはあくまで今の話。


 これからもっと寒くなったら?


 雪が降るような季節になったら?


「うーん……」


 紬は腕を組んだ。


「服って、どうやって作るんだろう」


 考えてみれば、不思議だった。


 元の世界では、服は店で買うものだった。


 棚に並んでいて。


 自分に合うサイズを選んで。


 気に入ったものがあれば買う。


 それだけ。


 けれど、ここには店がない。


 もちろん、服を作ってくれる人もいない。


 自分で用意するしかない。


「……そういえば」


 紬は昔読んだ本のことを思い出した。


 人間は、昔から今のような服を着ていたわけではない。


 では。


 人は、いつから服を着るようになったのだろう。


     *


 衣服の起源。


 これは、実は簡単には答えられない。


 古い時代の衣服は、布や皮、植物など、時間が経てば朽ちてしまう素材で作られていることが多い。


 そのため。


 何千年、何万年も昔の服が、そのまま残っていることは非常に少ない。


 だから研究者たちは、服そのものだけではなく、別のものから昔の人々の暮らしを探ってきた。


 植物の繊維。


 骨で作られた針。


 装飾品。


 衣服に関係していたと考えられる道具。


 そうしたものから、昔の人々がどんな服を作っていたのかを少しずつ推測していく。


 現在知られている古い衣服の中には、植物の繊維を使った履物や、動物の皮を使った衣服などがある。


 さらに、衣服そのものが残っていなくても、かなり古い時代から植物繊維を利用していた痕跡や、縫製に使われたと考えられる骨針などが見つかっている。


 つまり。


 人間は、ずっと昔から「身につけるもの」を自分たちで作っていたらしい。


 紬は本をめくりながら呟いた。


 けれど、ここで一つ疑問が出てくる。


 服を作る。


 そのためには、まず材料が必要だ。


 例えば、動物の毛を使うなら。


 毛を手に入れる。


 それを加工する。


 繊維を揃える。


 糸にする。


 そして、糸から布を作る。


 そこからようやく、服を作る。


 植物なら、もっと複雑かもしれない。


 植物から繊維を取り出す。


 余分なものを取り除く。


 繊維を揃える。


 乾燥させる。


 それを紡いで糸にする。


 糸をたくさん作る。


 そして、糸を組み合わせて布にする。


 その布を切って。


 形を整えて。


 縫い合わせる。


 今までなら、服は服だった。


 シャツはシャツ。


 ズボンはズボン。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 けれど。


 作る側から考えてみると、まったく違う。


 服一枚の向こう側には、たくさんの工程がある。


 素材を見つける人。


 素材を加工する人。


 糸を作る人。


 布を作る人。


 服を仕立てる人。


 そして。


 その技術を次の世代へ伝えてきた人たち


 紬は、自分の半袖を見下ろした。


 この服だって。


 誰かが作って。


 誰かが運んで。


 誰かが店に並べて。


 自分はお金を払って買った。


 その全部を、今まで深く考えたことはなかった。


     *


 そして、服は住んでいる場所によっても変わる。


 暖かい場所なら、風を通しやすい服。


 寒い場所なら、体温を逃がさない服。


 雨の多い場所なら、水への対策。


 乾燥した場所なら、強い日差しや砂から身を守るための服。


 服は、ただ身体を隠すためだけのものではない。


 その土地で生きるための道具でもある。


「……なるほど」


 紬は頷いた。


 そう考えると、昔の人が動物の皮や毛、植物の繊維など、身近にあるものを使って服を作ったのも分かる気がする。


 そこにあるものを使う。


 自分たちが生きるために。


 そして、それは現代まで続いている。


 素材も。


 作り方も。


 道具も。


 昔とは比べものにならないくらい変わった。


 けれど。


「生きるために服を着るっていうところは、変わらないんだな」


 人間だけではない。


 遠い昔、現生人類だけではなく、ネアンデルタール人も衣服を利用していたと考えられている。


 寒い環境で暮らすなら、身体を守るものが必要になる。


 それは、生きるための知恵だったのだろう。


「昔の人も、寒かったんだよね」


「私と一緒じゃん」


 ただ。


 昔の人には、店がなかった。


 必要なら、自分たちで作るしかなかった。


「……やっぱり、すごい」


 紬は改めて思った。


 人類は、身近にあるものから必要なものを作ってきた。


 寒ければ防寒する。


 暑ければ涼しくする。


 雨が降れば濡れないようにする。


 怪我をすれば守るものを作る。


 暮らす場所が変われば、それに合わせて工夫する。


 そうやって。


 少しずつ。


 少しずつ。


 今の「服」へ近づいていったのだ。


     *


「……でも」


 紬は現実に戻った。


 問題は。


「私、どうしよう」


 服を作る知識があったとしても。


 材料がない。


 糸もない。


 布もない。


「毛皮……?」


 森には動物がいる。


 でも、動物を捕まえて皮を取ればいい、というほど簡単な話ではない。


「植物の繊維……」


 森には植物がたくさんある。


 でも、どの植物から繊維が取れるのかは分からない。


 そして。


「繊維から糸を作って……布にして……」


 紬は想像する。


「…………」


 かなり遠い。


「服って、困難な道だなぁ……」


 思わず、ため息が出た。


 作ることを考えただけで、先が長すぎる。


「……どこかに都合よく服、落ちてないかな」


 紬は遠い目をした。


「異世界なんだし……ご都合主義とか、ないのかな」


 少し待つ。


 もちろん、何も起こらない。


「……ないよね」


 紬は諦めた。


 そんなに都合よくいくわけがない。


「はぁ……」


 それでも。


 今すぐ困っているわけではない。


 家の中は暖かい。


 レッドドリンクもある。


 だから、まだ考える時間はある。


「とりあえず、今ある服を大事にしよう」


 紬は、自分の服を見た。


 元の世界から持ってきた服。


 これまで、できるだけ大切に使ってきた。


 破れないように。


 汚れたら洗って。


 まだ使えるなら、できるだけ長く。


 でも。


 もし、本当に服がなくなったら。


 紬は少し考えた。


「……エプロン、解体するしかないか」


 少し寂しい。


 でも。


「生きるためなら、しょうがないよね」


 大切なものだからこそ。


 最後まで役に立ってもらう。


 それも、物を大切にするということなのかもしれない。


 紬はそう考えながら、自分の服をもう一度見た。


「……人類って、すごいなぁ」


 服一枚。


 ただ、それだけ。


 けれどその一枚には。


 人間が長い時間をかけて積み重ねてきた、たくさんの知恵が詰まっている。


 紬はまだ、その知恵を自分で使えるほどには知らない。


 けれど。


 いつか必要になったら。


 そのときは、自分も考えてみよう。


 この世界で生きていくために。


 自分にできる方法を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。