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本に結ばれた人~知識と生存の本〜(ネギを握りしめて異世界に落ちた私の、のんびりサバイバル)  作者: 式文紫
第2章 秋麗~命のぬくもりを紡いで~

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第65話 仲秋

第65話 仲秋


 秋も、少しずつ深まってきた。


 秋の最初は、鮮やかな緑が多かった森。涼しさの方が多かった。


 けれど今は、少しずつその景色が変わっている。


 赤く染まった葉。


 黄色く色づいた葉。


 茶色い枯葉。


 一本の木の中でも、いくつもの色が混ざっていた。


 風が吹くたびに葉が揺れ、その隙間から秋の高い空が見える。


「秋だなぁ……」


 紬は家の外に出て、空を見上げた。


 雲は薄く、空はどこまでも高い。


 夏のような強い日差しではない。


 けれど、昼間の日向はまだ暖かい。


 頬を撫でる風は少し冷たくなってきたけれど、それがまた心地よかった。


「朝はちょっと寒くなってきたけど、お昼はまだ暖かいんだよね」


 紬は両手を広げ、風を受ける。


 夏の暑さがなくなっただけで、外で動くのがずいぶん楽になった。


 森の中を歩いていても汗だくになることはない。


 むしろ、少し冷たいくらいの風が気持ちいい。


 足元には、落ち葉が少しずつ増えている。


 踏むたびに、


 カサッ。


 カサッ。


 と乾いた音がした。


「この音、好きかも」


 紬は足元の葉を一枚拾い上げた。


 黄色くなった葉。


 手のひらに乗せると、少しだけ秋を実感する。


 森の中では、動物たちの動きも少し変わっていた。


 木の実を運ぶ姿。


 地面を掘っている姿。


 何かを咥えて、森の奥へ走っていく小さな動物。


 冬に向けて、食べ物を集めているのかもしれない。


「みんな冬支度してるのかな」


 紬は小さく笑った。


 自分も同じだ。


 薪を集めたり。


 食べ物を保存したり。


 寝る場所を暖かくしたり。


 紅暖晶華で作ったレッドドリンクも、これからの季節には役に立ちそうだった。


「私も負けてられないな」


 そんなことを呟いた、その時だった。


 秋空の向こうから、一羽の小さな鳥が飛んできた。


 白い身体。


 ふわふわとした羽毛。


 短い翼をぱたぱたと動かしながら、こちらへ近づいてくる。


「……あ」


 紬はすぐに気づいた。


「シロエナガだ」


 最近、ときどき紬の家へやって来るようになった鳥。


 今日も迷うことなく、紬の家へ向かってくる。


 そして――


 ふわり。


 屋根の上に降り立った。


「おかえり」


 紬が声をかける。


 シロエナガは屋根の上で、ちょこんと立っていた。


 そして、何かを咥えている。


「……葉っぱ?」


 緑色の綺麗な葉。


 周りの木々が秋色に変わっていく中で、その葉だけはまだ鮮やかな緑をしている。


「何の葉っぱだろう」


 紬が見上げていると、シロエナガは屋根からひょいっと飛び降りた。


 紬の近くまで飛んできて、


 ぽとっ。


 咥えていた葉を落とした。


「え?」


 紬が拾い上げる。


 見覚えのある葉だった。


「あ、これ……カモルンだ」


 以前、森で見つけた薬草。


 身体の調子を整えるのに役立つ植物だ。


「これ、持ってきてくれたの?」


 シロエナガは、紬の近くで小さく首を動かしている。


 すっかり慣れているようで、紬が手を伸ばしても逃げない。


「ありがとう」


 紬は笑った。


 そして、ふと思う。


「じゃあ、私も何かあげようかな」


 家の中へ戻り、カチワリの木の実を取り出す。


 硬い殻から取り出した中身は、そのままだと少し大きい。


 紬はそれを小さく砕いた。


「これなら食べやすいかな」


 小さく砕いたカチワリの実を、一つ手のひらに乗せる。


「はい」


 シロエナガは、すぐに紬の手元へやってきた。


 ぱくっ。


 小さなくちばしで、カチワリの実をついばむ。


 もぐもぐ。


 もう一口。


 さらに一口。


「ふふ」


 紬はその様子を眺めた。


「美味しい?」


 シロエナガは顔を上げる。


「ピィ」


 小さな声。


「よかった」


 シロエナガはそのまま、紬の近くでカチワリの実を食べている。


 すると――


 ツン。


「ん?」


 腕を突かれた。


 もう一度。


 ツンツン。


「……ルーチェ?」


 振り返る。


 そこには、虹色の羽を持つ大きな鳥がいた。


 紬のそばに立つルーチェ。


 その体は、柴犬くらいの大きさがある。


 小さなシロエナガと並ぶと、その違いは一目瞭然だった。


「……はいはい」


 紬は苦笑した。


「ルーチェの分もあるよ」


 もう一つ、カチワリの実を小さく砕く。


「ほら」


「ギョ!」


 ルーチェは嬉しそうに受け取ると、すぐに食べ始めた。


 ぱくっ。


 もぐもぐ。


 ルーチェが動くたびに、虹色の羽が秋の日差しを受けてきらりと輝く。


 その隣では、シロエナガが小さな身体でカチワリの実をついばんでいる。


 大きさはまるで違う。


 それでも二羽は並んで、美味しそうに食べていた。


「こうして見ると、すごい組み合わせだね」


「ギョ」


「ピィ」


「ふふ」


 紬は思わず笑った。


 シロエナガは屋根の上から降りてきて、紬のすぐ近くにいる。


 ルーチェはいつものように、紬のそばにいる。


 なんだか、不思議な光景だった。


「たくさん食べて、元気に冬を越すんだよ」


「ピィ」


「ギョ」


 二つの声が返ってくる。


 紬は目を細めた。


 秋の青空。


 風に揺れる木々。


 落ち葉の音。


 そして、小さな鳥と大きな虹色鳥の食事。


 穏やかな時間だった。


 けれど――


 少し離れたところ。


 一本の木の陰から、何かが動いた。


 白い小さな影。


 ちょこんと顔を出している。


 白い子ネズミだった。


 その隣には、もう一つ。


 茶色い毛並みの小さなリス。


 二匹とも、紬たちのほうをじっと見ている。


 シロエナガがカチワリを食べる様子。


 ルーチェが食べる様子。


 そして、紬が二羽を眺めながら笑っている様子。


 小さな森の住人たちは、じっと見つめていた。


 紬はまだ気づかない。


 リスが少しだけ動く。


 その額が、秋の日差しを受けて小さくきらりと光った。


 けれど、それも一瞬。


 リスはすぐに木の陰へ隠れてしまった。


「……?」


 紬は何か気配を感じたような気がして、森のほうを見る。


 けれど、そこには秋色に染まり始めた木々があるだけだった。


「気のせいかな」


 紬はそう呟いて、再び二羽へ視線を戻した。


 秋は、ゆっくりと色を変えていく。


 まだ冬には遠い。


 森には、まだたくさんの実りが残っている。


 そして――


 紬の知らないところで、森の小さな住人たちもまた、少しずつ彼女の暮らしに興味を持ち始めていた。

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