第6話 森の恵みと、欠けた刃
第6話 森の恵みと、欠けた刃
鳥の鳴き声で目が覚める
「グェーーオェー」
ビクッとして紬はゆっくりと目を開ける
膝の上にいる……
「あの、アカツブあげるからどいて……」
「グェー」
虹色鳥は早くよこせと家賃を請求してくる
急いでアカツブの粒を1つ出すとサッと奪って飛び立つ
「はぁ、」
ため息をつく
枝の隙間から朝の光が差し込み、葉が風に揺れている。
少しだけ身体を起こし、周りを見渡す
昨日と変わらない森
「……ほんと、ここどこなんだろ」
改めて考える
間違いなく日本ではない
見たことのない植物
知らない鳥
そして、普通では考えられない《本》。
スマートフォンも圏外
帰る方法も分からない
しばらく考えてみたけれど、答えが出るはずもなかった
「……まあ、なるようになるか」
紬はそう呟いて、木から降りた
地面に足をつけ
もう、この降り方にも少し慣れてきた
食べ物を確認する。
残っている食料は少しずつ減っている
紬はアカツブを一つ取り出した。
赤い粒が集まった、みかんほどの大きさの実。
《本》を開く。
【名称】アカツブ
【属性】植物
【食用】可
【味覚情報】取得済 甘酸っぱい
「うん」
1粒ずつ食べていく
「……今日も酸っぱい」
そのあとに、ほんのり甘さが残る
朝食として一個だけ食べ
「さて……」
今日は昨日の続き。
黒曜石を使って、ウズを切ってみる
紬は黒曜石の欠片を布に包み出発した。
*
森は朝の空気が少しひんやりしていた
朝は少し肌寒い位かもしれない、朝露が葉に転がっている
気持ちいい朝だ
「……竹みたいなの、沢の辺りにあったよね」
覚えてる植物の場所に向かう
「行ってみよう」
紬は黒曜石を布で包み、沢へ向かった。
*
石壁からしばらく歩く。
石垣沿いに
少しずつ、道が分かるようになってきた
「ここ、昨日通った」
森の中に、自分だけの目印が増えていく。
石壁から15分ほど歩いたところで、見覚えのある植物が目に入った。
「あったあった」
細長い渦を巻いた枝
節がいくつもある
特徴的な渦を巻いている
見た目は、前の世界で見た竹に少し似ている。
「これがウズか」
紬は一本の前にしゃがみ込む。
手で触れてみる。
硬い。
特に節の部分がしっかりしている。
「……これ、切れるかな」
黒曜石の刃を取り出す。
ウズに当てる
スッ。
表面に浅い傷がついた
「お」
もう一度。
スッ。
少しずつ削れていく。
「いけるかも」
紬は少し力を込めた。
節の部分に刃が当たる
「……硬い」
もう一度
少しだけ力を強くする。
その瞬間。
パキッ。
「……あ」
黒曜石の先端が欠けた。
紬はしばらく動けなかった
ウズを見る。
ほとんど切れていない。
そして、欠けた黒曜石を見る
「…うっ…無理か」
思っていたより簡単ではなかった
黒曜石は鋭い
でも、薄くて脆い
硬いものを切るには、使い方も道具の作り方も考えなければならない
「ちゃんとした道具が必要だな」
紬は欠けた黒曜石を布に包んだ。
ウズはそのままにする。
今の自分には、これを切って持って帰る方法がない。
「また今度来よう」
そう言って、ウズの場所を覚えた。
*
帰ろうとした時だった。
ふわっ
風に乗って、爽やかな香りがした
「……ん?」
紬は足を止めた
足元を見る。
小さな緑色の葉が、地面を這うように広がっている。
一つではない
少し先にも
さらにその先にも
同じ植物が群生していた。
「……何これ」
しゃがみ込み
葉に触れる。
ふわっと、爽やかな香りが広がった。
「ミントみたい」
紬は《本》を開いた。
ページに文字が浮かぶ。
【名称】ミナハーブ
【属性】植物
【生育】群生
【食用】可
【効果】不明
「食べられるんだ」
でも、初めて見る植物だ。
一気に食べるのはやめておく。
葉を一枚だけ摘む。
匂いを嗅ぐ。
少しだけ口に入れる。
「……すーっとする」
ミントに似ている。
しばらくすると、歩いて疲れていた身体がほんの少し軽くなった。
「……あれ?」
気のせいかと思った。
けれど、身体の重さが少し和らいでいる。
《本》を見る。
文字が変化していた。
【名称】ミナハーブ
【属性】植物
【生育】群生
【食用】可
【効果】体力・小回復
【香味】清涼感あり
【毒性】なし
「……体力、小回復」
紬は本とミナハーブを交互に見る
「ゲームみたい」
思わず笑った
でも、本当に少し楽になった気がする。
「これは覚えておこう」
群生しているから、全部採る必要はない。
紬は数枚だけ摘んだ。
「また必要になったら、ここに来ればいいし」
周りの木や岩を見渡す。
この場所も、覚えておこう。
*
そこから五分ほど歩く。
沢の音が聞こえてきた
さらさら。
木々の間を抜けると、透明な水が見え
「着いた」
紬はペットボトルを取り出した
沢の水を入れる。
「……やっぱり重い」
それでも、昨日より持ち方が分かってきた。
残りは持って帰るために取っておく。
そのあと
木陰へいどうし服を着替え
全身をタオルで拭いていく
「冷たっ……」
でも、気持ちいい
汗と汚れが落ちていく
布を絞る
身体を洗うだけでだいぶスッキリ
もう一度、腕を拭く。
昨日よりも、この沢が生活の一部になってきている気がした。
水がある。
身体を拭ける。
周囲には食べられるものもある。
「……便利だな」
そう呟いて、沢の周辺を少しだけ歩いた。
水辺には丸い石が転がっている。
黒い石もいくつかあった。
その中には、黒曜石も混じっている。
「これ、まだあるんだ」
今日は拾わない。
今持って帰る必要はない。
覚えておくだけにする。
*
帰り道。
今度は大木の周辺を少し探索してみることにした。
いつも寝床として使っている場所。
でも、周囲を詳しく見たことはなかった。
大木の根元を一周する。
太い根が地面から盛り上がっている。
その隙間に、小さな空洞を見つけた。
「……穴?」
しゃがんで覗く。
ツタが生えていて中は暗い。
何かいるかもしれない
手は入れないでおく
「……ここは後でいいかな」
少し離れたところには、長い蔓が伸びていた。
拾ってみる。
思ったより丈夫だ。
「これ、何かに使えそう」
何本か持って帰ることにした。
さらに周囲を見る。
細い枝。
大きな葉。
小さなキノコ。
小動物が通ったような跡。
今まで気づかなかったものが、いくつも見つかった。
「ちゃんと探してみると、いろいろあるんだな」
紬は周囲を見渡す。
森は広い。
まだ知らない場所がたくさんある。
*
石壁へ戻る。
今日は少し長く歩いた。
持ち帰ったものを並べる。
水。
ミナハーブ。
蔓。
そして、欠けた黒曜石。
「今日はこれくらいか」
黒曜石を見る。
欠けている。
でも、捨てる気にはならなかった。
「また何かに使えるかもしれないし」
布に包んでしまう。
ミナハーブも数枚だけ分けて置いた。
残りは明日以降に使う。
そして、ペットボトルを持ってネギのところへ向かう。
根元に少しだけ水をかける。
「今日も元気に育ってね」
小さな葉が風に揺れる。
少しずつ、葉の色が青々としはじめている。
「元気だね」
紬は小さく笑った。
石壁に戻る。
壁に背を預ける。
今日はヤマダケを切れなかった。
黒曜石も欠けた。
けれど、新しい食べ物を見つけた。
沢の場所も覚えた。
大木の周りも少し分かった
森の中に、少しずつ自分の知っている場所が増えている。
「……まあ、今日はこれでいいか」
空を見上げる。
夕方の光が、木々の間から差し込んでいた。
「明日は、別の方法を考えよう」
まだ分からないことばかり。
でも、分からないなら、少しずつ調べていけばいい。
紬はそう思いながら、《本》を閉じた。
森の中での暮らしは、今日もほんの少しだけ広がった。




